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ハプニング発生



「希乃愛? どうしたの、そんなに慌てて」


 彼女、五辻希乃愛は久世の従兄妹であり、私によく懐いている。一つ年下なので中等部の希乃愛が高等部へ来ているのは普通ではありえないことだ。

 それにこの慌てている様子だと何かあったに違いない。嫌な予感しかない。やだよー、変なことはおきないでおくれ。


「あの……真莉亜様、あんなことやめさせてください!」

「あんなこと?」

「いくらあんな画像が出回っているからといって、浅海先輩を退学まで追い込もうとするのは……」

「待って希乃愛、話が見えないわ」


 まさか希乃愛の口から浅海さんの名前が出てくるなんて。まだ関わったことないはずなのにどうしてだろう。


「画像とはなにかしら。それに追い詰めるってどういうことですの?」

「へ?……その、最近出回っている浅海先輩と天花寺様が抱き合っている画像の件ですわ」


 はい? 天花寺を見遣ると本人も相当驚いているらしく、硬直している。

 二人が抱き合ってる画像ってなに? そんなの私知らないし、そこからどう追い詰めることになっていくんだ。


「これですわ」


 希乃愛から見せられたのは、天花寺と浅海さんが抱き合っているように見える上半身アップの写真だ。

 ああ……これなんか覚えあるかも。原作でこれが出回って、天花寺は男が好きなのかと噂になってしまい、真莉亜が浅海奏が天花寺の名に傷をつけたと激怒していじめがヒートアップするんだよね。

 どんな手を使ってでも浅海奏を辞めさせろ。それができた者を花ノ姫に入れるように口利きしてあげると言って、女子生徒たちにいじめを焚きつけるんだ。


「こ、これ違うから!転びそうになったのを受け止めただけだから!誤解!」

「そうなんですね」


 確か原作通りのラブハプニングの一つだったはずよね。

 いやでも、天花寺がここで顔赤くしたら更に疑われるから。一部の人以外は浅海さんの性別知らないわけだし、男同士て抱き合っている画像を顔真っ赤になって否定しているって図になっちゃうからね。


「雲類鷲さん、目が据わってない!?」

「そうですね」

「え、そうですねって」

「それよりも、どうして私のところに?」

「それよりも!?」


 顔真っ赤にしている天花寺は置いておいて、希乃愛の言っていたことの方が気になる。

 希乃愛は少し怯えたような表情で、声を震わせながら話し出した。


「真莉亜様が浅海先輩を退学に追い込むことができれば、花ノ姫に入れてくださるそうだと知った中等部の女子たちが……浅海先輩を呼び出して連れて行きました」


 うわー、いつ私が言ったの。それにしても中等部が動くとは。大方原作通りに話が進んでいるけれど、おかしい。私は一切浅海さんを嫌うような言動はとっていないはず。


「浅海さんはどこへ連れて行かれたかわかる?」

「えっと……私が聞こえた会話だと、終業式でホールに集まっているうちにプールへ連れて行こうと話をしていましたわ」


 なるほどね。先生たちは点呼なんてとらないので、何人かいなくても気づかれないだろう。それに人がごそっといなくなる今なら誰かに目撃される可能性も低いだろうし、やるなら今だとでも考えたのだろう。そうだ、この展開も原作であった。


「真莉亜様……こんないじめみたいな真似、おやめください……っ!」


 声を震わせながら潤んだ瞳で訴える希乃愛。その声はよく通り、廊下にいる人にはまる聞こえのようで振り返った人たちからの視線が痛い。


 希乃愛は真莉亜や久世のことは好きなんだろうけど、大人しいわりに正義感に溢れているというかダメなことはダメとはっきりと言う性格だ。原作でも真莉亜がいじめをしていると知って止めに来たことがあったなぁ。けど、そんな希乃愛に対して真莉亜は聞く耳を持たなかった。

 とにかくこの状況は最悪だ。先ほどよりも人が疎らにはなってきているとはいえ、私がいじめをしていると誤解されそうだ。更に変な噂をたてられないといいんだけど。



「貴方、それ本気で言っているの?」


 彼女の静かに怒りを含んだ声を聞いたのは、あの花会以来だった。

 ホールへと向かうために私たちのクラスの前を通るスミレはちょうど会話を聞いてしまったようだった。その隣にいる瞳も顔を顰めて希乃愛に冷たい視線を向けている。


「真莉亜がいじめをするなんて貴方はそう思っているの?」

「だいたいあの真莉亜がいじめなんてデマに決まってる。真莉亜と親しいのなら、花ノ姫である彼女を貶めるようなことを言うのはよくないよ」

「わ、私そんなつもりでは……」


 気圧された希乃愛は涙目になりながら弱々しく「申し訳ございません」と返した。

 希乃愛がそう思ってしまうのは仕方ない気がする。希乃愛が知っているのは前世の記憶が戻る前の傲慢な真莉亜で、中等部と高等部で離れているため普段の真莉亜わたしをあまり知らない。


 それに私が浅海さんを退学に追い込めと言っているなんて噂が流れているわけだし。まあ、それならもっと早く真偽を確かめにきてくれよって感じだけど。


「それより早く行かないと」


 私に耳打ちしてきた雨宮と視線を交わらせる。そうか、この後の展開を防ぎに行かないと。


「希乃愛、また後で話しましょう。プールへ行ってくるわ」


 人が疎らになってきたので今ならいけそうだ。走り出す私の後ろから複数の足音が聞こえて来る。どうやら、スミレと瞳、天花寺も来てくれるらしい。

 雨宮は誰かに電話をしているようで、目が合うと頷いてきた。おそらく彼には彼なりの考えがあるんだろう。


「雲類鷲さん……っ、足はやっ!」

「スミレ、大丈夫?」

「うぎゃっ」


 何かが落ちるような音が聞こえたので再び振り返ると、スミレが見事にすっ転んでいた。


「真莉亜っ、行って! スミレの屍の上を跨いで先に、進んで……っう……」


 スミレ、上を跨いだら逆走することになってしまうんだけど。それを言うなら屍を超えてだよ。

 まあ、スミレには瞳がいるだろうし大丈夫だろう。それより今はプールへ急がなくっちゃ。





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