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綺麗な花には毒がある



「あまりこういった件には私は口を出したくはないのだけれど、花ノ姫同士での争いごとは控えるように」


 私たちの会話を黙って聞いていた先輩である撫子の君こと小笠原征子様が、厳しい眼差しで瞳と英美李様を見遣った。その隣でダリアの君……早乙女詩央里様がふわりと微笑みを浮かべて首を傾げる。


「浅海様、でしたかしら。先日お見かけしましたが、可愛らしい顔立ち方の男性でしたね」

「詩央里様!?」

「英美李さん、どうしてそこまで彼を嫌うのかしら。特待生である彼にとってここでの生活は不安なことが多いでしょうし、できれば同じ学年の皆様が力になってさしあげて」


 あの詩央里様が浅海さんを気にかけることがおもしろくない様子の英美李様が顔を顰めて、下唇を噛みしめている。雅様も笑顔が寒気をおぼえるほど冷たくて、気に入らないのが見てとれた。


「それに天花寺様たちとも親しいそうですね。それはとても美味し……いえ、目の保養になりますわね」


 ……今、詩央里様の本音がぽろっとこぼれかけた気がした。もしかして詩央里様って、いやでも人の趣味は色々あっていいと思います。読者でも一部そういった嗜好の人もいたなぁ。

 不服そうだったけれど、英美李様も雅様も反論することはなかった。素直に従うとは思えないけれど、とりあえずは詩央里様たちのお陰でこの場はおさまった。





 花会が終わり、帰ろうとすると詩央里様と征子様に呼び止められた。


「ごめんなさいね、引き止めてしまって」

「いえ」


 花ノ姫の中でも目立つ存在である二人に話しかけられるのは少し緊張してしまう。私、なにか失礼なことしていないよね?


「英美李さんと雅さんが何か裏で動いているようでしたら教えていただきたいの」

「え……それはどういう」

「あの二人は特待生である浅海奏に何かする可能性があるわ。花ノ姫の中でいじめをする人がいるのなら、私たちも放っておくわけにはいかない。でも学年が違う以上は気づかないことも多いと思うの」


 征子様は腕を組み、先ほどまで英美李様たちが座っていた位置をじっと見つめている。つまりは花ノ姫の名に傷がつくようなことをする可能性がある二人は危険だということかな。


「瞳さんは先ほどの件がありますし、一番中立な立場なのは真莉亜さんだろうと思って」


 私が一番頼みやすそうだってことですね。原作通りなら、私が筆頭となって浅海さんをいじめるんだけどね。

 自分に疑いを向けられないようにしたいし、浅海さんが嫌がらせを受けるのを見過ごすこともしたくはない。私が立ち向かったところで雅様たちに勝てるのかはわからないし、二人の存在は心強い。何かあったら成敗してください。



「特に鈴蘭の君にはお気をつけて」


 詩央里様はおっとりしているように見えるけれど、案外周りを見ているみたいだ。鈴蘭の君こと雅様はいつもニコニコしているけれど、内に秘めているものは恐ろしいと思う。時折、目が笑っていないように見えるときがある。


「引き止めてしまってごめんなさいね」

「いえ」


 この二人が原作でもこうして動いていたのなら、おそらくは瞳にこの役割を任せていただろう。原作だとスミレと浅海さんはほとんど関わりはないから、あの場でスミレが庇うことはないから瞳と英美李様たちが揉めることもない。


 それに原作なら、私も英美李様側にいた。原作で花ノ姫の名に傷をつけた真莉亜を殺したのは、この二人のどちらかなんてことは……いや、それはないか。その頃、先輩である彼女たちは卒業していたはず。


 詩央里様と征子様と別れて、夕日に染まる庭園パピヨンで改めて原作で真莉亜を殺すことが可能だった人物を整理する。


 主人公は浅海さんだから、彼女が殺すことはまずありえない。それにメインキャラでヒーロー役だった天花寺もないだろう。天花寺の友人である雨宮と桐生が犯人という可能性も低いはず。


 弟の蒼は悲しんでいるフリをして実は犯人なんてことはないよね。できれば、蒼は犯人ではないと信じたい。

 可能性が高いのは久世かな。真莉亜のことが邪魔で仕方なかっただろうし。だけど、疑われやすい立場の久世があんな行動に出るかな。久世の従兄妹である希乃愛は久世と真莉亜が上手くいくことを望んでいるから、真莉亜を嫌っているわけではなさそう。


 あとは花ノ姫の雅様と英美李様。みんなして浅海さんをいじめていたけれど、仲違いという可能性もある。この人はないだろうと候補から外せる人はいても、この人だ!と確信を持てる人物がいなかった。




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