星座占いは当たらない
第二茶道室に入ってきた顔ぶれに心臓が止まるかと思った。
この人たちがここにいることが不思議で仕方ない。一体何をしに来たのだろう。
「あ、やっぱりここだった〜」
甘ったるい笑顔を浮かべながら手をひらひらと振る雨宮に、仏頂面の桐生。その後ろには呑気に「雲類鷲さーん!」と声をかけてくる天花寺と、和室に並べられているケーキに驚いている様子の浅海さんがいた。私の知らないところで一緒に行動するようになったのだろうか。原作ではこの四人がよく一緒にいたから、私としては違和感はないけど。
スミレに視線を向けると、眉根を寄せて嫌悪感を丸出しにしている。スミレはあまり男の人が好きではないから、彼らに一刻も早く立ち去ってほしいに違いない。「今日の星座占いは一位だったのに嘘つきコンチキショー」とぼそりと呟いたのが隣の私には聞こえてしまった。どこで覚えたのそんな言葉。
「俺らも混ざっていい?」
眩しいくらいの笑顔で聞いてくる天花寺に対して、スミレは頭を左右に大きく振って拒否した。
「ここは私達の部活の場所ですの! 男性は立ち入り禁止ですっ!」
「え、部活?」
どうみても女子が放課後にケーキを食べてるようにしか見えないこの光景を部活というには無理がありすぎる。カシフレを本当に部活だと思っているのはこの中ではスミレしかいない事実に早く気づいてくれ。
「とにかくっ、……ふんぬがぁあぁ!?」
スミレの間抜けな声と、ベシャっと何かが潰れたような音がして振り向くとスミレの顔がケーキにダイブしていた。
ス、スミレぇええ! あんたは本当何をやっているんだ。これはもう誤魔化しきかないレベルでやっちまってるけど!
どうやら立ち上がろうとして、体制を崩して顔をケーキに突っ込んでしまったらしいスミレはあまりにショックなのかケーキに顔面を押し付けたまま微動だにしない。その光景に全員の視線が集まっている。
「あ、あの、大丈夫ですか!?」
我に返った様子で慌てて上履きを脱いで畳に上がってきた浅海さんがスミレの元まで歩み寄り、心配そうに声をかける。まるでホラー映画が何かのようにのそりと顔を上げたスミレは目が据わっていた。
笑うな、全員笑うなよ。笑ったら恐らくスミレは泣き出す。
瞳と天花寺は唖然としていて、桐生は相変わらずの仏頂面。雨宮は両手で顔を覆っていて、僅かに肩を震わせている気がした。
浅海さんはポケットからハンカチを取り出すと、躊躇いなくスミレの顔についた生クリームを拭っていく。
「これは顔を洗ったほうがいいかもしれないですね。わ、綺麗な髪……地毛ですよね? ってすみません」
「き、綺麗……?」
浅海さんの言動に目を見開いたスミレは、口を鯉みたいにパクパクとさせいる。生クリームの隙間から見える頬がほんのりと赤くなっている気がするのは見間違いだろうか。
「あわわあわわわわわわ」
「えっと……大丈夫ですか?」
「だ、だい、だいだいだいぶうじょいだ」
スミレの顔はますます赤みを帯びていく。どうやら見間違いではなかったみたいだ。きょとんとして首を傾げている浅海さんはどうやらまだ自分が男装している自覚が足りていないらしい。
「スミレ、落ち着きなよ。拭いてくれてる彼も驚いてるよ」
ため息を吐いた瞳が立ち上がり、「顔を洗いに行こう」と言ってスミレを連れて一旦茶道室から出て行った。
残されたのは私にとっては少し居心地が悪い顔ぶれだった。雨宮はにたにたしているし、天花寺は能天気にケーキを眺めている。浅海さんは丁寧にハンカチを畳んでいて、桐生は鋭い眼差しで私を見ていた。




