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最悪なこんにちは



 花会まで少し時間があるので、校舎を出て散歩をすることにした。

 中等部女子の校舎を進んでいくと中等部男子の校舎が見えてきた。そこの裏側にある枇杷の木を見つけて、思わず「すごい!」と感嘆の声が漏れる。漫画の中で見たことがある木と同じだ。


 ヒロインがこの枇杷の木にこっそり登って、枇杷を食べるシーンがるんだよね〜。すごく美味しそうに食べてたから印象に残ってる。


 きょろきょろと辺りを見回す。……よし、誰もいない。


 周囲を警戒しつつ、枇杷の木をよじ登る。令嬢にあるまじき行為だということはわかっているけれど、どうしてもあの枇杷を食べてみたい! 一瞬登って、ささっと食べればばれないでしょ。



「ふんっ」


 なんとか木に登って、ふっくらとした橙色の果実をむしりとる。丁寧に皮をめくり、まずは香りを楽しむ。

 ん〜甘くていい匂い! お次は味を!


 一口かじってみると、じゅわりと甘い果汁が口内に広がる。美味っ! 最高だ。これはクセになる味だ。



 ふと正面に視線を向けると、目の前に校舎の窓が見えた。どうやらちょうど廊下らしく、人影が三つ近づいてくる。

 え、嘘。やばい。早いとこ降りなきゃ。


「ンカァ」

「え……?」


 なんでこういうときに限って、窓が開いているんだろう。そんでもってなんでカラスが鳴くんだろう。カラスの妙な鳴き声によって、三人の視線がこちらに向いてしまった。


 ひぃいい! なんてこった!

 誤魔化したくても誤魔化しきれない。木に登っている令嬢。手には食べかけの枇杷。そして、目があったのは薄茶色のサラサラな髪の人。その後ろには見覚えのある二人。間違いなく天花寺三人組。



「紅薔薇……」


 誰かが私の『花ノ姫』の名前を呟いた。校舎違くても知られているんだ。


 最悪だ。よりにもよってあの天花寺三人組に見られてしまうなんて。しかも私的には前世の記憶を取り戻して、ここが初対面なんですけど。

 うわー、でもやっぱこの人たちかっこいいなぁ。特に天花寺は王子様みたいにキラキラして見える。雨宮は甘ったるい微笑みでかっこかわいい。桐生は訝しげに私を見ているけれど、顔はかっこいい。


 うん、それよりこの状況どうしよう。


 互いに黙り込んでいると、突風が吹いた。髪が勢い良く背後に流れ、長いスカートが裏地を披露するくらい大胆に捲り上がる。


「ひ……っ!」


 それは一瞬の衝撃的な出来事だった。

 捲り上がったスカートが自分の顔にばさっとかかる。太ももにすっと風が吹き抜けて、私のパンツがこんにちはした。


「ひ、ひぎゅああああああぁあああ!」

「い、いちご……」


 おそらく呟いたのは天花寺だった。慌ててスカートを押さえると、目の前の校舎からこちらを見ていた天花寺が顔を真っ赤にして狼狽えている。雨宮も桐生もこれには目を丸くして驚いている様子だった。


 最悪だ。本当に今日は最悪だ! 木に登って枇杷を食べているのを見られ、パンツまで見られてしまった。しかも、今日はいちご柄だった! うぎゃああああああああ!



「デリート!!」


 頭がいっぱいいっぱいになって、とにかく思いついた言葉を叫び、枇杷の木から飛び降りた。


「ふぐぇ!」


 ……着地に失敗した。


 つんのめって顔が地面に着地してしまったけれど、そんなことに構っていられなくて、とにかく走ってその場を去った。本当、なんて日だ! パペットの予言は当たっていたらしい。



 この後、気分が優れないという理由で私は花会を休んだ。




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