第二十二話(2) 王国追放令、解除!
「ふふん。あとであの人気店のケーキ、頼んだよ」
「くっそ……」
さてはこいつら、俺の去就で賭けてやがったな?
じとりとした目つきで二人を見据えるが、アンはにこにこと楽しそうに、ベルナーは悔しそうにしたままだった。
そんな楽しそうなアンが、黙ったまま俺に一枚の封筒を寄越した。
先ほどの王国の王様からの手紙と同じく、上質そうな紙と、押してあるのは王国の封蝋。
ただ今回は王国のものではなく、帝国のものだ。
「父上からの手紙だ。君が王国ではなくこちらを選ぶと決めたら渡してほしい、と言われていてね」
「は、はぁ……」
アンの父上。
つまり、この帝国の国王だ。
……え? なんか俺やらかした?
そう思って中身を読むと、おおまかに言うと「ぜひ我が国にいたことを選んでくれて、恩に着る」ということだった。
もう少し何か書かれていると思っていたから、少し拍子抜けする。
すると、それが顔に出ていたのだろう、アンはふふ、と笑った。
「そう取って食いはしないさ、父上は。ただ、旧文明の遺物の知識を持った貴重な人間を、外に放出したくないだけさ」
「あのジジィは性格悪ぃから、もしカインが離れることを選んでも、力づくで囲い込んだだろうけどな」
「ま、それくらいの力と権力があることは否定しないが」
国王をジジィ呼びとか、それは不敬に値しないだろうか。
というか二人して何気に怖いことを言った? もしかしてここが命の分岐点だったりした?
怯えたように二人に視線をやったが、二人とも生温かい目でこちらを見返すばかりだったので、もしかしたら言う通りなのかもしれない。
「とはいえそのジジィのおかげで、これからの遺物探索に帝国のお墨付きがついたんだ。感謝はしねえとな」
「え、そうなの!?」
「ああ」
瞠目していると、アンは嬉しそうに頷いた。
「遺物によっていろいろな販路やら何やらが開拓できそうだからと、陰から支援してくれるようだよ。とはいっても、公共事業みたいに表立っては難しいようだが」
「でも……お墨付きをいただけるだけで、嬉しいです」
何せ、この旅、趣味と実益ともにあるとはいえ、趣味のほうが割合が高い。
楽しさのあまり忘れていたけど、一応遺物の調査っていう名目があるからな……
「君が作ってくれたレポートも、楽しく読んでいたみたいだよ。こんなにわくわくした気持ちが伝わる感想文は初めてだとね」
「あ、ありがとう、ございます……?」
レポートじゃなくて感想文扱いされているのは腑に落ちない。
けどまぁ、満身創痍から回復したときに作ったあのレポートで大丈夫なら、今後もやっていけそうだ。
それから少しの間、アンの父親――つまり国王からもらった遺物への質問について答えたり、ダンジョンについての質問に答えたりして時間を過ごした。
国王はあまり自由に外に出られないから、アンが代わりに聞いているんだとか。
話が一段落したあたりで、ふと気になったことが沸き上がった。
「そういえば、この間のダンジョンってどうなったんですか?」
「あぁ、あれか」
あの少女ことダンジョンの主はいろいろと知識を授けたり助けたりしてくれたものの、ダンジョンの主を倒さないことには、ダンジョンの完全制覇となりえず、モンスターの発生を止めることはできない。
「それについては、安心してほしい。あのダンジョンは、すでに機能を停止したよ」
望ましい答えが返ってきて、ホッとする。
と同時に、あのダンジョンの主はあのまま消えてしまったのか、と少しだけ悲しい気持ちにもなった。
「君たちが見つけてくれた遺物を調査したんだが、スライムの酸が致命傷だったみたいだ。きっと、最後の力を振り絞って、君たちを助けたんだろうね」
「そう、ですか……」
「たぶんだが、自分の死期を悟って、カインに遺物の知識とやらを渡したんだろう。そのまま消えるのを選ぶよりな」
あくまで推測だがな、と言ってベルナーは言葉を切った。
これまではダンジョンの真のボスを倒すことだけが、ダンジョンを完全制覇する方法だと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
それに、もしかしたらダンジョンの真のボスとは、意思疎通ができる場合もあるのかもしれない。
そう思うと――俄然、やる気が湧いてきた。
「つまり、やはり旧文明の遺物が意志は持つってことですよね? そしてこちらにコンタクトをとるのも可能、っていうことですよね!」
「おっと? 思っていた反応と違うな」
「こいつはこういうやつだ。遺物が好きすぎるんだよ」
なんだか二人の温かい目が、急に生ぬるくなったような気がするけど、気にしない。
「だって、遺物と会話ですよ! アンさん、自分の義足と喋れるようになったら、最高じゃないですか!?」
「……もう、ダンジョンのボスを遺物としか見ていないようだね……」
「無機物のはずなのに意志を持つなんて、世紀の大発見です! これは絶対に、これからも研究したいです!」
モモを見ていて薄々その可能性はあるのでは、とは思っていた。
ただ、モモはおそらくダンジョンが生み出したモンスターという位置付けだ。
旧文明の遺物でありながらも、普通の遺物とは少しだけ異なる。
だが今回のことは、ただの遺物が意志を持ってこちらに話しかけてきた、ということ。
なんて、ロマンのある話じゃないか!!
「……ま、嫌がるよりは良かったんじゃねえか?」
「そうだね」
俺が熱弁を振るっているにもかかわらず、二人は肩をすくめて見つめ合う。
「ちょっと二人とも――」
「そんなカインくんに、俺たちからプレゼントだ」
身を乗り出して話す俺の前に、ベルナーが書類を取り出した。
この熱のこもった話を強制的に止められた気がしないでもないけど、まぁとりあえず口をつぐみ受け取る。
一枚目の表紙には単純に、第2回遺物調査、という文字。
「こ、これって!」
「おう、無事に決まったぜ」
「やった!」
俺は喜びのあまり、立ち上がりながら書類を爆速でめくる。
実はこの依頼、大掛かりなものだからとそこまで頻繫にすることはできないらしい。
そしてベルナーもアゼルたちも忙しかったから、この数日間ダンジョンに行けていない。
一人で行く勇気がないこともあり、旧文明の遺物に飢えていたのだ。




