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第二十二話(1) 王国追放令、解除!

「またお越しくださいませ~!」


 あれから1週間後のお昼時。

 ダンジョンから帰ってきた翌日と翌々日こそ休養したものの、それ以降はいつも通り帝都のお店で調整屋を開店し、お客さんをさばいていた。

 ありがたいことに、帝都に移動しても昔のお客さんが変わらず来てくれたことと、価格を改定できたおかげで、王都にいたときよりも余裕のある生活ができていた。


 うーん、と伸びをして時間を確認する。

 すると、視界の端に手を振る男の姿が入った。


「おーい、カイン!」

「あ、ベルナー。ちょうどお店閉めるところだったから、ちょっと待ってて」

「おう。早く来ただけだから、急がなくていいぜ」


 看板を閉店のほうにした俺は、とりあえずベルナーを店の中に入れて座らせつつ、店じまいをし始めた。

 今日はアンのところに行って、ダンジョンのことから第三王子のこと、はたまたアンのことについて説明を受ける日だったのだ。


 第三王子をどこかに瞬間移動させたあと、俺は魔力不足で意識こそあれど満身創痍、他の人たちも休養が必要だと判断されて、その場はお開きとなったのだ。

 他の人たちは翌日には仕事に復帰してたみたい。俺は全身の筋肉痛やら倦怠感やらで、回復に2日かかったわけだけども。

 とりあえずさっさと戸締まりをしてアンのところに行こう。


「モモ、行くよ!」

「おう、待ってたんだぜ!」


 声をかけると、モモもぴょんと俺の胸元に飛び込んできたので、タイミングよくキャッチして抱き上げる。

 ベルナーにも声をかけて、俺たち3人はアンのところへ向かったのだった。


 ◆   ◇   ◆


「とりあえず、あの第三王子くんは無事に見つかったみたいだよ。ずいぶん遠くまで飛ばされてたみたいだね」


 アンに案内されて統括長応接室に入り、ソファに座ってお茶を一口飲むと、対面に座った彼女はそう話し出した。


「はるか東の国にある、さびれたダンジョンに瞬間移動したそうだ。回収するのに金がかかると、あの子の父親が言っていたよ」

「はは……それは……」


 あの子の父親って、それはつまり王国の国王なのでは……

 苦笑して続きが告げられない俺を前に、アンはため息をついた。


「それにしても、あんなところに旧文明の遺物があるとはね。君がいなかったらわからなかったよ」

「いや、でもそれはダンジョンの女の子のおかげなんで……」


 書類をぺらりとめくりながら話すアンに、少しだけ申し訳ない気持ちになる。

 自ら探して発見したうえでのお手柄ならともかく、あの女の子――ダンジョンの主に知識をもらっただけなのだ。

 それで褒められるのは、少し違うような気がしていた。

 しかしアンは眼鏡を取ると、書類をテーブルに置いて口角を上げた。


「だが、そのダンジョンの主に気に入られたのは、君のおかげだろ? なら君の手柄にするといい。手柄なんて、あって損はないさ。なぁ? ベルナー」

「そうだな。おかげで俺も、死んだふりして副統括長なんてやってるんだから」

「あ、そういえばそれ、聞きたかったんだ」


 戦闘狂たるベルナーが急に明かした出自の秘密。

 聞きたくはあったんだけど、もしかしたら当の本人は言いたくない過去かもしれないし、そもそもこの数日ベルナーも忙しくて調整屋に帰ってこなかったから、聞く機会がなかったんだよね。

 俺は、冒険者にしては優雅な所作でお茶を飲むベルナーに視線を向ける。

 しかし彼はいたずらめいた笑みを浮かべ、静かにテーブルに置いた。


「良い男ってのは、過去をあまり語らないものなのさ」

「なにそれ……」

「聞いてやるなカイン。王子が冒険者になるまでに常識知らずなことをたくさんしでかしたり、知識がないあまりに詐欺られたりと、恥ずかしいことがいっぱいあるのさ」

「言うなよ! もうバラしてるようなもんじゃねえか……」


 ふん、と腕組みをして不貞腐れはじめるベルナー。

 対してアンはいたずらっこのようにニヤニヤしている。十中八九、何かアンにしか知りえないものがあるのだろう。

 まぁ、いずれ知るときがあるだろうから、ここで聞かなくてもいいか。


「それで、カインの処遇はどうなったんだ?」


 少し語気荒く、ベルナーが話題を大きく変えようとする。

 なんだかそれが子供っぽくて、アンと目を合わせるなり笑ってしまい、彼に「笑うな!」と怒られてしまった。

 とはいえ、実は俺も聞きたかったのだ。

 他国の王子をはるか遠い国に瞬間移動させた罪とか、やっぱりマズいよね……

 と思っていたが、思いのほかアンはけろりとのたまった。


「あぁ、それに対しては、お咎めなしだ」


 ホッと息をつく。

 これが原因で指名手配されたり、王国に戻って裁判とか受けなきゃ、とかだったら、嫌だったもん。


「向こうの王は、息子が申し訳なかった、と言ってきたよ」


 ほら、と言ってアンは高級そうな封筒に入った手紙をよこしてきた。

 手触りからしてもう質が違う。しかも封蝋にも王家の印がついてるし。


「ついでに、あの第三王子が君に下した営業停止命令と王国追放令も、遡ったうえで取り下げにしてくれたみたいだ」

「本当ですか!」


 王国の国王様は、あの第三王子と違って良い人だったみたいだ。

 別に王国に帰りたいわけではないけれど、王国を追放された人、ってだけで信用ゼロだから、なくなったのは助かった。

 もう一度安堵の息をつく。

 するとベルナーがなぜか真剣な表情になって、おもむろに口を開いた。


「カイン、お前はどうするんだ?」

「へ? どうするって?」

「王国に戻るかどうかだよ」

「……そうだな。その答えによっては、いろいろとこっちも準備をしないといけなくてね」


 アンもなぜか真剣な表情になるものだから、俺は無意識に居ずまいを正してしまう。

 王国に戻れるようになったら、何をしようか。、俺も考えたことがないわけではない。

 昔の俺だったら、店に戻ろうかな、なんて言っていたけれど、今の俺は違う。

 俺は二人に視線をやり、安心させるように頷いた。


「出張はするかもしれないけど、本拠地は変わらず、帝都のお店にするつもりだよ」


 その瞬間、アンが立ち上がりガッツポーズを決め、ベルナーがテーブルに顔を突っ伏して嘆き始めた。

 ……な、なんだなんだ!?

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