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第十八話(3) 凶悪モンスターの倒し方

「いや~……まさか本当に採用されるとはね……」

「名案だと思うぜ。僕は思いつかなかったから」

「炎が出る剣なんて、よく思いついたわね!」


 調整スキルで洞窟の奥まったところにスペースを作った俺は、アゼルとともにせこせこと武器の製造を行っていた。

 流れとしては、こうだ。


 まずモモが外を走りながら、少女が出してくれた素材を都度持ってくる。

 そしてそれを使って、アゼルが剣身から炎が出る剣を製造する。

 最終的にその剣を俺が調整スキルで耐久力を持たせることで、普通なら一、二度斬りつけただけで溶けてしまう剣を、三、四度くらいはもたせよう、というものだ。


 ジェシカは手持ちの水や辛うじて持ってきていた非常食に滋養強壮の効果を付与して、俺たちの魔力がもし尽きそうになったとき用のご飯を作ってくれていた。

 ちなみに俺にしか見えない少女もこちらに避難してきている。

 そうしているうちにアゼルの手元が光り輝いたかと思うと、俺の身長と同じくらいの大剣が出来上がった。

 持ち手が赤く彩られていたり、剣身の炎が噴き出す箇所があまり目立たなくなっていて、アゼルのこだわりがこんな時でも発揮されていて、なんだか頼もしく感じる。


「おっけー、とりあえず一本目、できたぜ」

「じゃあこれを調整して、っと」


 そこに調整スキルを使って剣身の表面の回路を少しいじり、酸への耐久性を強くする。

 あまりに回路を集まらせすぎると、逆に剣の中で不均衡が強くなり、酸への耐久性は強くなっても剣の耐久性が弱くなり、振るだけ壊れてしまうので、塩梅が重要だ。

 そうして一本出来上がったそれを、ベルナーに手渡す。


「おお、すげえなこれ……あちち」


 ベルナーが手元のスイッチを押すと、剣身から勢いよく炎が噴射する。

 たまにお祭りで見かける大道芸の人が、口から噴き出してそうなものに匹敵する炎が、剣身から何本も噴射していた。

 そしてぶんぶんと器用に何度か振ってから「問題ねえ」と返してきた。


「じゃあ、これをあと何本か作ってから戦い開始だね」

「だな。それにしても、このスライムが大人しいやつで助かったぜ」

「たしかにそうよね。こっちがいろいろとやってるのに、一切手を出さずに動かないもんね」


 ジェシカがスライムのほうを覗き見ながら、うんうんと頷く。


「それは運が良くて嬉しいんだけど、その分旧文明の遺物が溶かされていると思うと……!」


 嬉しいような悲しいような気がしているのは、おそらく俺だけのはず。


「そうならないためにも、ほら、調整スキルかけてくれよ」

「うん……わかった」


 アゼルが二本目の剣を生成し、差し出してくる。

 ひとまず俺は魔力と怨念を込めて、調整スキルをかけておいたのだった。



 そうして手元に10本ほど用意できたところで、戦い始めることになった。


「触手が来るとやべえから、ここはモモが通れる隙間だけ開けて岩か何かでふさいどけ」

「え、でもそしたらベルナーが逃げる場所がないんじゃ」


 調整スキルでできなくはないけれど、そうすると万が一のことがあったときにベルナーが逃げ込むことも、逆に俺たちが出ていくこともできなくなる。

 しかしベルナーは得意げな顔になって、口角を上げた。


「馬ぁ鹿。俺が負けるとでも?」

「いや、そんなことは思ってないけど……こんな大きいスライムと戦うのは初めてでしょ?」

「まぁ、そりゃそうだが、それよりも楽しさが勝ってんだ」


 地面に置いておいた大剣を手に取り、ベルナーは何度か素振りをした。

 その目はスライムに向いていて、じわじわと見開いていく。


「こんなでけえモンスターを倒せるなんて、数年に一度……下手したらもっと少ねえかもしんねえ。そんな機会逃してたまるかよ」


 俺みたいな非戦闘員でもわかるくらい、ベルナーから覇気のようなものがあふれてくる。

 そういえばこの人、戦闘狂だったことを思い出す。

 だから前の仲間に捨てられたんだったもんね。

 覇気を感じると同時に、後方から声がかかった。


「あーあ、戦闘狂モードに入っちゃったね。調整屋くん、説得は諦めなよ」


 振り返ると、ジェシカがふるふると首を振っていた。


「ああなると、もう止められないから。思う存分やらせてあげるといいよ」

「でも」

「最近はあんまり大物倒してなかったから、余計にやりたいんじゃない? 大丈夫だよ、お腹に大穴開いても生還したやつだもん、スライムごときじゃ死なないわ」

「それは……」


 本当に人間か? と思ってしまうのは俺だけだろうか。

 アゼルとモモも同じ話を聞いていたはずだが、二人はとくにそれについて反応しない。

 あれ、もしかして俺だけ変なのかな?


 まぁでも、ジェシカの話とベルナーの今の姿を見るに、説得が無理だというのは納得がついたので、俺はひとまず奥まったスペースのところに仕切りを作った。

 酸で溶けないように、最大限回路でコーティングもしておく。

 そして、その隙間からベルナーに声をかけた。


「無理しないでよ」

「はっ、いま無理しねえで、いつ無理すんだ?」

「……じゃあ、死なないでよ」

「あたりめえよ」


 ベルナーはにかりと歯を見せて笑うと、さっそうと大剣を担いでこの空間の中央に鎮座するスライムのもとへ歩いていく。


「ベルナー!」

「おう!」

 俺はもう一度、彼に声をかけた。

 やはり、とても心配だったのだ。


「絶っっっ対に、旧文明の遺物、壊さないでね!!!!」

「力強く言うセリフはそれかよ……」


 後ろ姿でもわかるほど、ベルナーはがっくしと肩を落とす。

 しかしすぐにひらひらと手を振って「善処はするぜ」と応えた。

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