第十四話(2) 水中大探索……?
目を覚ますと、暗かった。
体が重い。まるで子どもの頃、とにかくめちゃくちゃ遊んだあとの疲れに似てる。
「い、いたたた……」
そして筋肉痛なのか、全身があまりに痛すぎる。
なんとか苦労しながら体を起こすと段々と目が慣れてきて、そばで人が寝ているのに気がついた。
「アゼル、か」
鍛冶屋の彼が、歯を食いしばり無意識なのか腕や足をさすりながら寝ていた。
鍛冶のための素材をよく採りにダンジョンにやってきている、みたいなことを言っていたけど、さすがにここまで動くことはないようだ。
彼はまだ起きそうにないので、俺は痛む体を必死に動かしてテントの外へと這い出した。
「お、起きたか」
「おはようなんだぜ!」
「おはよ、調整屋くん。疲れは取れた?」
テントの外は、ここに来るまでの陽光が噓のように暗く、涼しい。
たき火を囲むように座りこちらに視線を向けたのは、ベルナーとモモ、そしてジェシカだった。
たき火には鍋が置かれていて、良い匂いが鼻をくすぐった。
「ご飯、食べられそう?」
「美味かったんだぜ!」
ジェシカの問いと、モモの感想を聞いて、お腹がぐうと鳴る。
するとベルナーがたき火にかけられていた鍋の蓋を開け、お皿にスープをよそった。
「ほら、これ食べて体力戻しな」
「ありがと……あててて……」
のそのそ、と巨体動物のようにゆっくりと歩きながらベルナーの隣に座り、お皿をもらう。
澄んだスープに魚の切り身が入っていて、美味しそうだ。
「私のスキルで体を回復させる成分たくさん入れてるから、どんどん食べてね」
「ジェシカさんのスキル?」
そういえばこれまで聞いたことなかった。
どうやら聞くに、彼女のスキルは食べ物に滋養強壮の効果を付けられるというものらしい。
しかもそれは食べ物を美味しいと感じるものに比例するようで、その過程でジェシカは冒険者業以外に自分のレストランを持っているのだとか。
「うん、美味しい!」
「それは良かった。このダンジョンの魚、あまり調理しないから不安だったのよね」
「大丈夫なんだぜ! めちゃくちゃ美味かったんだぜ!!」
よかった、と言って、ジェシカはモモの頭をゆっくり撫でた。
彼女の言う通り、たしかにこの海の中にはどちらかというと観賞用のような魚のような見た目をした種のほうが多かった。
同じ魚ではあるのだが、人間が食べて満足できるのかは大違い。
しかしそんな魚だとしても、美味く調理できるジェシカはすごいな……しかも、食べ進めているうちにどんどんと体の気だるさや痛みが消えていっている。
そうして夢中で魚のスープ飲んでいると、ふいにベルナーがハッと思いついたように口を開いた。
「そうだ、カイン。お前に見てもらいたいものを見つけたんだった」
「俺に?」
「ああ。なんだか服みたいなんだが、見たことがなくてな」
「服? こんなところで?」
冒険者の落としものだろうか。とはいえ、ここを探索するのはおそらく俺たちが最初のはず。
それに普通の服だったらベルナーが相談してくるはずもないし……
そんな風に、魚のスープをおかわりしてがっついていると、いつの間にかベルナーが近場の別のテントからくだんの服とやらを持ってきた。
「これなんだが」
ひとまずお皿の上にあるスープをすべて食べきってから、それを見る。
服、と言って想起するには少々形や素材が違うようで、形は長袖のシャツと長ズボンが一体化したようなもので、服の素材は布よりももっと厚く硬い。しかし伸縮性はあるようで、意外にもひっぱるとよく伸びた。
黒い色と硬くざらざらしているので、なんだかサメのようだ。
「……ん?」
触れているうちに違和感がして、ベルナーの許可をとって調整スキルを使う。
すると服全体に回路が現れ、胸元の箇所に魔法陣があった。
これはまごうことなく、旧文明の遺物だ。
魔法陣や回路を読み解いていくと、おおよその効果がわかった。
「これ、水中での動きを補助してくれるやつみたい」
「ほー、そんな遺物もあるのか」
「たしか2つ見つかったし、調整屋くんと鍛冶屋くんが使えばいいんじゃないかな」
感心したように呟くベルナーと、良いことを考えたとばかりに身体の前で手を叩くジェシカ。
「え……でも、いいの? 俺たちだとあまり戦力にならなそうだけど……」
しかし俺はどちらかというと不安だった。
たしかにこの服を着れば、先ほどみたいに疲労で早々に戦線離脱して寝落ち……なんていうことにはならないだろう。なんか、自動回復みたいなのもついてそうだし。
ただ、あくまでそれはマイナス戦力がプラスマイナスゼロになっただけ。
他の冒険者、それこそベルナーが着れば、ただでさえプラス戦力がもっと強くなるのではないか。
そう思ったのだが、ベルナーはかぶりを振った。
「今からでけえ敵をやっつけに行くんだったらそうしたかもしんねえが、いま必要なのは手数だ。俺がこれを着たとて手数が増えやしないからな」
「なるほど……じゃあ、明日から着させてもらおうかな」
副統括長がそう言ってくれるのなら、甘えさせてもらおうか。
そう言いながら今後のことについて話していると、俺が寝ていたテントが揺れ、アゼルが外に出てきた。
「体が……痛い……」
「さっきの調整屋くん、あんな感じだったよ」
ジェシカが悪戯めいた笑みを向けてくるので、なんだか恥ずかしくなる。
「アゼル、おはよう。こっち来て、ジェシカさんのスープ飲みな」
「おう……いててて……」
彼の動きに、本当に既視感があって、なんだか笑えてきてしまう。
「何笑ってんだよ」
「いやごめん。俺もさっき同じことになっててさ」
そんな風に言いながら、俺は鍋からジェシカ特製スープを皿に取り出し、体をさすりながらたき火の近くまでやってきて座ったアゼルに、お皿を渡したのだった。




