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第十三話(3) 鍛冶屋の友人

 しかしその道は決して簡単なものではなかった。……主に、アゼルのこだわりで。


「よーし、これでバッチリ――」

「いや、これは失敗作だ。元に戻すぞ」

「なんでよ!」


 アゼルの手によって水中マスクが形成され、俺の手によって調整を施され、そしてアゼルがそれをひったくり素材に戻す。

 果たしてこの工程を、何度しただろうか。

 素材自体はアゼルが持っていたものと、そばに生成された石やら何やら、そしてモモに水中から取ってきてもらった旧文明の遺物の何かの欠片。

 旧文明の遺物のものを作るから、もしかしたら素材が足りないかも、と思ったけど、それはないようで助かった。


 たしかにアゼルのスキルとして、自分がスキルで作ったものは戻すことができる、というのがある。

 だが、ここまでやり直す、というのは話が変わってくるのだが。

 モモはすでに寝に入っているし、興味津々に見ていたベルナーも、いつの間にかほかの冒険者のところに行ってしまった。


「いいだろ別に、素材を消化してるわけじゃないんだし」

「それはそうだけど、時間はめちゃくちゃ消化してるんだよ!」

「大丈夫だよ、そこまで急ぎじゃないんだろ?」


 だから完璧なものを作らなくては、と言って、無情にもアゼルは水中マスクを何度目か、素材に戻してしまった。

「形が美しくない」「あと数秒長持ちさせられる」という理由で戻すのは、いかがなものなのか。

 形に関しては、美しいものも何もこれは芸術品じゃないし、耐久力に関しても、数十時間以上持つ中での数秒であって、ほぼほぼ誤差みたいなもの。


「いや、スキルで作る以上、半端なものは作らない」

「…………だからアゼルは、スキルでもの作らないんだったね……」


 昔のアゼルは、鍛冶についてのスキルで作っていた。

 だが何度も作り直すうちに納期を大幅に遅延するようになって、やめたんだったか。

 こだわりも、突き詰めるとあまり良くないんだね……


 そうして俺たちが人数分の水中マスクを作り終えたのは、数時間後。

 ダンジョンの外ではすでに陽が落ち、ほーほーという鳴き声が聞こえはじめる時間だった。

 このオアシスも、先ほど来たときに差し込んでいた陽光はとうの昔にいなくなり、星空が瞬いている。


「よし、ラストのやつができた! カイン、調整を頼む」

「はぇ?」


 完全に意識がどこかに飛んでいた。

 途中までは数十分に一個ペースで作れていたが、途中からなぜかアゼルのこだわりがもっと強くなっていって、作りあがる間隔が広がってたんだよな。

 周りを見ると、どうやら冒険者たちも夕飯を終えて寝る準備を始めている。

 近くにベルナーがご飯を用意してくれたみたいで、シチューのお皿が2つ俺たちのそばに置いてあった。……湯気は立ってないけど。


 俺はアゼルから水中マスクをもらうと、調整スキルをかけた。

 ちなみに俺がかけていたのは、水から呼吸に必要な成分を抽出しやすくするのと、マスクの耐久性の向上。あとは、顔の形にあわせられるように少しマスクを柔らかくしつつ、肌につけると硬くなるようなギミックにしていた。


「よし、これでおーけー。ありがと、アゼル」

「こちらこそ、ぼくの分まで作ってもらったから、おあいこだよ」


 実は冒険者たちのもの以外に、アゼルのものも作っていた。理由はもちろん、素材採取の幅が広がるから、だ。


「いったん、試してみようか」

「そうだな。ぼくも早く使いたくてうずうずしてたんだ」


 そう言って、二人でマスクを顔につけた。

 ふにゃふにゃだったマスクが、肌につけることで硬化していき、自分の顔にぴったりと張り付くようになる。

 そのまま水に顔をつけると……


「すごい、本当に息ができる!」

「だな!」


 目論見通り、しっかりと息ができるようになっていた。

 しかもなぜか少し離れたアゼルの声まで聞こえている。旧文明の遺物……すごいな……

 何度か試してから水から顔を外し、マスクを取る。すると再びふにゃふにゃの状態に戻った。


「これで水中でも問題なく行動できるね。ベルナー!」


 自分の中でやる気が満ちていくのを感じながら、俺は振り返り、彼を呼ぶ。

 しかし俺の視界に入ったのは、すでに就寝済の彼らのテントだった。


「もうみんな寝てるから、明日な」


 そう言ったのは、見張りの番の冒険者。ひらひらと手を振る彼もあくびをしていて、眠そうだ。

 俺はアゼルと顔を見合わせ、「俺たちも寝よっか」と言い、用意されたテントに向かったのだった。



 翌朝。

 ベルナーに起こされた俺とアゼルは、用意してもらった朝食を食べて身支度を整えてから、冒険者たちの作戦会議に交ざることになった。

 ……昨夜のマスク作りで睡眠不足気味なのは内緒だ。

 テントの中でも一際大きなものの中に集合し、折りたたみ机を中心に円になって座る。机の上にはこのダンジョンの地図が置かれていた。


「昨日、カインたちが水中で呼吸できるマスクを作ってくれたから、活動範囲が増えるようになった」


 音頭をとるのは、もちろん副統括長たるベルナーだ。普段と違って、冒険者たちの前だからかキリッとしている。

 そしてベルナーは皆にマスクを配りつつ、この先の作戦を説明しはじめた。


「ひとまず、2、3人でタッグを組んで、ダンジョンの水中エリアを探索する。奥に繋がりそうだったら、一度引き返すように」


 旧文明の遺物の調査も必要だけど、とりあえずダンジョン自体を調査するのが今日からのミッション。

 旧文明の遺物を探していて何か遺跡に変化があったときに、地図がないと逃げ遅れる可能性があるから、いったんみんなで地図を作成する。

 そうして完全制覇のためのボス部屋を見つけることで、ダンジョンを完全制覇の道が見え、帝都への脅威を減らすことに繋がる、というわけだ。

 ついでにどうやらダンジョン完全制覇に関わった人物は、金一封がもらえるらしい。そりゃ冒険者たちもやる気がみなぎっているわけだ。


「アゼルはどうするの?」

「ぼくは冒険者じゃないから、とりあえず地上と水中で素材を探すつもりだ」

「そっか……気をつけてね」

「ま、たまたま何かを見つけるなりなんなりして手伝ったら、ぼくにも金一封くれるんだろ?」


 そう呟くアゼルの目はキラリと光っている。完全にやる気なんだよなぁ……

 そうして、俺はベルナーとモモと、アゼルは他の冒険者たちと組んで、ダンジョンを調査することになったのだった。

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