第十一話(2) いざ、旧文明の遺物を求めて!
「……やっぱり」
目を瞑ると、この空間全体に旧文明の遺物が埋め込まれていて、そこから草木に向かって回路が生えてるのがわかる。
しかも、床にはいくつもの小さな魔法陣があり、おそらくそれによって草木が切っても切っても増え散らかしているのだろう。
「んで、どうする? って、カイン?」
ベルナーが怪訝な声をあげるが、俺は気にせず調整スキルで魔法陣から延びる回路を断ち切っていく。
とはいえ、この空間すべてにやってしまうと魔力を無駄に消費してしまうおそれがあるので、とりあえずまっすぐ一直線に向けてのみにやってみることにした。
すぐに終わらせて目を開いた俺は、訝しげなベルナーに向かって振り向く。
「ちょっと小細工してみたから、もう一度やってみてくれない?」
「あ? まぁ、良いけどよ……」
やっても無理だぜ? と言わんばかりの表情のベルナーだったが、再び鎌に魔力を込めて一薙ぎする。
「おん? …………おぉ!」
すると先ほどとは違って、俺が回路を切った草だけ再生せず、まっすぐの道が出来上がった。
「すげえなカイン!」
「地面に旧文明の遺物が埋まってるみたい。たぶん、この部屋全体に埋まってるから、行く方向を言ってくれれば、道作るよ」
そうして俺たちは、俺が調整スキルで地面の回路を切り、ベルナーが草を刈る、という方法でこの大きな森林地帯を進んだのだった。
「そういえば、ここにはモンスターは出ないんだね。この間のゴーレムみたいに」
進みながら、ふとそんな疑問が湧く。
初心者向けのダンジョンとはいえ、ベルナーから聞いたところによれば、知力と腕力を鍛えるために最適らしいので、モンスターが出てもおかしくはない。
すると、ベルナーも同じことを思っていたようで、肩をすくめた。
「いや? 俺がここに来たときは、この森林地帯もしっかりモンスターが出てたぜ。しかも、虫の形した――」
「ストップ。それ以上はやめろ」
なんだか不穏な気配を感じ取り、ベルナーの話を遮る。
これまでダンジョンどころか街の外に出てこなかった身からすると、虫は全然敵どころか嫌悪に値するので、やめていただきたい。
まだ形のないスライムみたいなモンスターとか、明らかに人間とは形が違うゴーレムのようなもののほうが仲良くできそうだ。
「お前のスキルで、発生源でも止めたのか?」
「ううん、そんなことはしてないはずだけど……」
かぶりを振りながら立ち止まり、俺は考え込む。
床に埋め込まれた旧文明の遺物は、とくにモンスターとの発生とは関係なさそうだと思っている。とくに回路とか伸びてなかったし。
うーん、とベルナーと悩む。
とその時、ちらりと視界に光が映った。
「モモ?」
「ん? なんだぜ?」
俺の腕から下り、俺たちの後ろをゆっくりトテトテとついてきていたわんこ。
そのモモの体が――光っている。
そこまで激しく光り輝いているわけではないけれど、蛍光塗料みたいな感じでぼわっとほのかに光っている。
白色光だから最初は見間違いかと思ったけど、やっぱり光ってる……
「なんで光ってんだ!?」
「我輩、光ってるんだぜ!?」
モモは驚愕し、叫びながら自分の体を見ながらくるくるとその場を走り回る。その声音はなんだか嬉しそうだ。
「本当だぜ! 光ってるんだぜ!」
「いや、はしゃいでる場合じゃないって……ん?」
くるくると回るモモの向こう、光が届ききらない場所の草が揺れる。
そしてにょきりと、俺よりも一回り大きい芋虫が現れてこちらを見た。目というのか、目っぽいところというのか、そんな触角みたいなのがこちらに向いてうにょうにょしている。
端的に言って、ちょっとキモイ。
「ひぃっ!!!」
「ありゃ、ここの雑魚モンスターだな。あれくらいなら余裕で倒せる」
鳥肌がぞわりと立ち、思わず後ろに下がるおれをよそに、ベルナーは楽勝そうに鎌を構えなおす。
しかし、芋虫はその場でこちらを見続けたまま、微動だにしない。
「モモ、今のうちにこっちに」
「おうだぜ」
そそくさとモモのもとに駆け寄り、抱き上げてベルナーの後ろに避難する。
すると、モンスターは草むらから這い出てこちらに向かってきたが、とあるところで再び動きを止めた。
ベルナーと顔を見合わせる。
「…………もしかして」
「ああ。こいつの光が届く範囲には、雑魚モンスターは寄ってこないらしいな」
「よくやったモモ!! 絶対に俺から離れないで、何があっても絶対に!!!!!」
「き、きついんだぜ~……」
俺はぎゅっとモモを抱きしめた。
このダンジョンにいる間はもう絶対に離さない。そう決めた。
だって、あの虫とか無理だもん。何があっても嫌。
ひとまず安心して歩みを進め、ベルナーとともに先の道を作り上げる。
よく観察してみると、どうやら進行方向に作った道の先でも、雑魚モンスターがそそくさモモの光から逃げているようだった。
本当、モモ様様だ。
ま、俺の冒険者としての技術は何一切培われないわけなんだけど。
そうして森林エリアを安全に抜けた俺たちを待っていたのは……灼熱の陽が地面を照らす、オアシスだった。




