第五話(3) 一緒に行く?
凄まじい光と凄まじい音が辺りをつんざくが、光線は目の前の障壁に当たり、辺りに散乱している。
「うわっ! モモ、大丈夫?」
「…………」
俺の問いにモモは反応することなく、障壁に向かって光線を吐き出し続けている。
ただ体の回路に異変があったり、体に支障が出ていたり……なんてことはなさそうなので、それは一安心というところか。
とはいえ、このまま魔力を吸収されつづけるのは、こちらに良くない。
俺は魔力の量が多いほうだからいいけど、おそらくベルナーは並くらいだからね。
「ベルナー、無理そうだったら手、離してね」
「おう…………」
汗をかきつづけるベルナーも、障壁をじっと見つめてぼうっとしつつ頷く。
そして彼は怪訝な表情になった。
「おい、カイン。障壁、削れてね?」
「え、本当?」
俺はベルナーの言葉と共に、彼の視線の先を見る。
光線が眩しくてあまり直視できないが、薄目で見る限りは大したことが起きているようには見えないが。
「そうかな……?」
「ああ。だってヒビが――」
ベルナーがモモから片手を離し、障壁が続いているであろう場所を指さす。
その直後、バキバキッ!という音がなったかと思うと、光線が当たっているところに大きな亀裂が入った。
亀裂はどんどんと大きくなっていき、そして二又・三又と分かれて広がり、ついにはダンジョンを覆うような大きさにまでなったのだった。
「これ、あとはどうするんだろ」
「あー……」
亀裂が入ったのは良いが、光線はすでに威力を落とし先ほどまでの明るさも音もない。
試しにモモの頭の方向をずらして亀裂を広げられそうかやってみるも、とくに亀裂がより広がったり、そこが割れたりすることもなかった。
そしてついには光線は消えてしまった。
モモはすやすやと息を立てて寝ている。光線を出して疲れちゃったんだろうね。
「もう、拳しかねえだろ」
あまり顔色が良くはないが、ベルナーが拳にナックルダスターを嵌めて笑みを浮かべる。
俺はそれに、かぶりを振って返した。
「いや、俺たちにはこれ触れないんだって」
「そうかぁ? ここまで見れたらできそうじゃねえか」
そう言ってベルナーは腕をぐるぐると回すと、モモから手を離し障壁の傍まで向かう。
溜めを作ってから綺麗な動作で右ストレートを打ち込むが、予想通りその拳は障壁に当たることなく素通りしてしまった。
「くっそ、なんで見えるのにすり抜けるんだぁ?」
「たぶん、遺跡の物質だけに反応する何かがあるのかもね」
悔しそうにするベルナーを見て、俺は眉尻を下げる。
そして数秒して自分の言ったことに気がついて、「あ」とこぼした。
「これ、ゴーレムのかけらとかを当てれば、割れるんじゃない?」
「やってみる価値はあるな。おし、でけえの持ってくるわ」
ベルナーがボス部屋へと戻っていく。
なんか、爛々とした目つきでめちゃくちゃ楽しそうだったけど、それは気のせいということにしておこう。
「なんか、よさそうな武器あったかな……」
彼がゴーレムの欠片を取りに行っている間に、俺はアイテムバッグをまさぐり投擲によさそうな武器を探す。
とはいえ、投擲の武器ってあまり調整することなかったから、持ってきてないんだよね。
魔法砲とかと違って回路がごく単純なやつが多かったし、あったとしても耐久力をあげる程度の依頼しかなかったし。
「うーん……ないなぁ」
やはり店にあった武器を厳選してつっこんだアイテムバッグには、投擲用の武器は見つからなかった。
「持ってきたぜ」
「ありがとう、ベルナー……って、でかいな!」
ベルナーが持ってきたのは、俺の腰くらいの高さがある、黒々とした球体の石。これたぶんマスターゴーレムの頭だ。
それを肩に乗せて、足がもたつくことなく危なげなく運んできていた。
ふう、とため息をついて地面に欠片を置くベルナー。
ドスン、と地面が揺れた。
「……もしかしてなんだけど、スキル二つ持ってたりする?」
「二つ? いや、一個しか持ってねえけど」
「じゃあ、それは自前の腕力なんだ……」
昔、王都の祭りで同じくらいの大きさの岩を動かせたら賞金、みたいな催しがあったような気がする。
たしか誰も持ててなくてクレームが殺到していたと記憶しているけど、もしかしたらベルナーみたいな怪力を対象としてたのかもしれない。
いや、もしかしたら見た目だけ重そうで、実はめちゃくちゃ軽いのかも。
そう思ってマスターゴーレムの頭に触れたけど、ビクともしなかった。
…………やっぱり、もうちょっと鍛えるかな……
「で、なんか良い武器あったか?」
「それが……これしかなくて」
俺は首を横に振りながら、アイテムバッグから一つの武器を取り出した。
投擲とはまったく関係の薄い、バットである。
たしか以前、剣士の人が調整屋にやってきたときに置いていったものだった。曰く、森の中で武器が壊れたときに、近くに生えている木で作った……だとか。
木で作ったというバットのわりには回路が複雑だったから残しておいたんだよね。
「ちょうどいいじゃねえか。これ、めちゃくちゃ耐久力あげるのってできるか?」
苦々しい表情を予想していたから、笑顔が返ってきて面食らう。
しかし彼も冗談ではなさそうだったので、言われた通り、外装を極限まで厚くして耐久力をあげておいた。
「おし、ちょうどいいな。モモと一緒にちょっと離れてな」
「え……、うん」
一体こいつは何をするのだろうか。
そんな考えの俺をよそに、俺がモモを抱えて距離を取ったのを確認すると、ベルナーは一旦バットを地面に置き、マスターゴーレムの頭を両手で抱きかかえる。
「うぉりゃぁっ!」
それを、上空に投げた。




