最終話:青と赤の日常。Vtuberの陰キャとギャルが百合する話
「オキテさんさぁ、なんでわたしのこと好きになったの?」
『え、それいま言う?』
「だって、わたしを追ってVtuberデビューしたんだから、聞く権利ぐらいあるかなー、と」
『あたしの1周年配信でそれ言うかフツー』
:草
:草
:デビュー経緯そんな感じなのか
:草
:なんか、重いな
ずっと考えていたことがあった。
音瑠香のことはイラストを見てほぼ一目惚れだったと言っていたことがある。
けれど、わたし自身と出会ったのはそれこそ今日の朝田世オキテの1周年配信の1年前ぐらいだ。
何故わたしのことを好きになったのかが、いまいち分からなかった。
『うーん。あたしがVtuberデビューした時は、マジで音瑠香ちゃんが孤独死しないか心配だったからなんよ』
:草
:草
:孤独死てww
ま、まぁ。確かにあの時が一番Vtuberやめようかなぁ、と考えていた時期だと思う。
デビューから1か月、3か月、半年でやめる人が多い時期だし、それを乗り越えられたのは他でもないオキテさんのおかげだ。
実際に孤独死しなかったのは彼女のおかげと言っても過言ではない。
『でもそん時は別に推しー! ってぐらいで、友だちになって後ろから後方腕組古参面しようかなーって』
「ホントにぶっちゃけますね。もっとなんかなかったんですか?!」
『うーん、特には』
興味本位で、ってことね。はいはい。
ギャルの行動力って流石すぎる。やろうと思って即行動即結果発表って、迅速すぎる対応に誠にありがとうございました。無理しないでくださいマジで。と言わざるを得ない。
今はちゃんとお財布の管理はしているものの、定期的にパソコンのローンを支払っているらしく、散財はしばらく止まらないみたいだ。
:じゃあなんで音瑠香ちゃんと恋仲に?
:どうしてそっから恋人になるねん
:気になるわー、おきねる物語
『なっちゃう? なっちゃうよねー! あたしらのドキドキVtuberカップル話!』
「なんかそれカップルチャンネルみたいで、嫌ですね……」
『えー、あたしそのつもりで今もやってるんだけどー?』
「陽キャっぽいし、別れたらアイコン真っ黒になりそうでなんか嫌です」
:具体的で草
:相変わらず卑屈なんよなぁ
:これは陰キャ
:でも確かにイメージではないのは分かる
『まー、あたしもソロ配信とか、浮気配信とかしたいし!』
「別の人とのコラボを浮気配信って言わないでくださいよ」
『でも次の日めっちゃ甘えてくるじゃん。あれ、嫉妬してるってことっしょ?』
「そ、それは言わない約束でしょう?!」
:あー、はいはいてぇてぇ
:流れるようなのろけあざっす
:付き合って半年のおきねるは違いますわー
:俺は最初の初心な感じがよかったなー
ぶっちゃけ恋人も1か月、2か月も経過すれば、熱が冷えていくのは当たり前のことだった。
最初のうちはメンタルに雲がかかることもあれば、なんでわたしじゃなくて、あの子とコラボしてるんだろう、とかは思ったよ。
でもその度に話を聞いてくれるし、大切に慰めてくれたりする。
情けないところをたくさん見せてしまったから、今では割り切りかけているところだ。
やっぱり、嫉妬するところは嫉妬する。
「それを言ったら、わたしよりオキテさんの方が重たいじゃないですか。ちょっとタイムラインで他の人と仲良くしたら『その女、誰?』って鬼のようにDMしてくるし」
『おい、それはライン越えだぞ!!』
:あー、めんどくさ
:おんも……
:これが重たいギャルか……。ありだな
:推しが重たくて今日も嬉しいです
「まぁお互いさまってことで。で、わたしを好きになった経緯は?」
『……気づいたら好きになってた』
:草
:溜めてそれかよwww
:wwww
:乙女かよww
『だってこの女、仲良くなったらめっちゃ懐いてくるしさー! 顔がいい癖に天然っていうか、そういうところが全部無意識にやってるところがムカつくわー!』
「えぇ……」
:あー……
:それは、うん
:音瑠香ちゃん、周りとか気にしなさそうだし
:無意識化で人を好きにさせるオーラを出してるんだよなぁ
:音瑠香ちゃんは結構ガチ恋勢多いと思うよ
「なんで?! ガチ恋勢とか、このギャル以外見たことないんだけど!」
『いや、結構多いよ。あたしのDMにも別れろってメッセ届いたこといくつかあるし』
え、なにそれは。大変申し訳なさすぎる……。
『来るから、より一層いちゃついてるわけなんだけどねー』
:鬼かww
:草
:やりおる
:見よ、これが秋達音瑠香公認ガチ恋勢のTOPだぞ
:相互ガチ恋勢やからな
『何それ! 相互ガチ恋勢とか単語、初めて聞いたわ!』
:初めていったからな
:パワーワードすぎるww
たまにやたら絡んできたり、リアルでハグしてきたりするのはそういうことか。
学校ではもちろん秘密にはしているが、一歩外に出てしまえば、手を繋いで帰ったり、わたしの家に泊まりにきたり。
ちらりと横を見て、ややため息をついた。
家には露久沙さんがやってきたとき用のパジャマやら、着替えなどが畳まれているスペースがあるのだ。もはや半同棲状態だ。
高校卒業後、進路はそれぞれ別々の大学だけど、キャンパスの間ぐらいの位置で2人で住まないか? という話も出ている。まだ物件は見つけていないが、その過程もまた嬉しく思う。
「そっか。でも気づいたら、かぁ……」
『そっ! クリスマスん時にはもう超ラブ好き好きって感じだったし!』
「……そですか」
:これは照れてますね
:クリスマス配信、アーカイブで見たけど、よいものだった
:美少女2人がひたすらいちゃつく配信だったからな
:今年は2人とチキン食べるか
『いいねー! 今年もクリスマス配信すっか!』
「ですね。コーラとか鮭とか持ってきて」
『そこはいつまで経っても鮭なのか』
そっか。今年ももう少し経ったらクリスマスがやってくるんだもんね。
受験ももうすぐで、頑張ってポートフォリオを描いたり、勉強したり。
しばらくしたら、受験休みもやると思う。でも前の惰性で続けていた時期とは違って、必ず帰ってくるビジョンが見えるんだ。
なんだかんだで見てくれる人がいる。リスナーも、同じVtuberの友だちも。
それから、わたしの最愛の露久沙さんも。
Vtuberを何故続けているのですか?
たまにこういう質問を聞かれることがある。
みんなそれぞれ立派な考え方を持っていて素晴らしいと思う。
でもわたしたちには敵わないんじゃないかな。
「だって好きなんだもん!」
わたしのことを好きな人がいるから。だから続けられるんだ。
『でもそれ鮭のことでしょ! もっとチキンの話もしてよ!』
「じゃあチキンの中に鮭入れよう!」
『どんな拷問なのさ!!』
:草
:wwww
:生命への冒涜で笑う
:まるでキメラなんだよなぁ
:ウケる
こんな風に好きなみんなと笑いあいながら、友だちと切磋琢磨して……、それから……。
『おっけい! じゃあクリスマス配信はどっちが美味しいかプレゼンってことで!』
「いいねぇ! 絶対参ったって言わせるし!」
『あはは! 楽しみだね!』
「…………うん、ですね!」
わたしの大好きなオキテさんと、露久沙さんと一緒に過ごしたい。
だからわたしはVtuberを続けられるんだ!
かけがえのない、たった1人の君だから。
――Vtuberの陰キャとギャルが百合する話 完




