第67話:青の孤独。依存、しちゃってたんだ
あれから更に数日。
朝田世オキテとしての配信が少なくなり、わたしの配信にも顔をだすことがなくなっていた。
相変わらずお昼休みは寝ているし、放課後になるとすぐに教室からいなくなってしまう。
周りが噂するには「夜遊びを始めた」だとか「男を作った」とかそんなのばかりだ。
でも絶対ない。わたしに好きって言葉にしてくれたことを忘れない。だからそんなまやかしの嘘なんかには惑わされない。
「無理しないで、って言ったんだけどなぁ」
こんな時に記念イラストを描こうとしても全然筆が進まない。
おかしいな。インスピレーションがあるから、アウトプットもできるはずなの。
夢の中。たくさんの思い出がシャボン玉みたいにふわふわと浮き上がって、わたしの一部になっていく。メルヘンチックで、音瑠香のイメージにも沿った内容だ。
なんだけど、どうにも納得がいかない。
仮完成させたとしても、コレジャナイ感があってすぐに新しいのを描いてしまう。
1人で描いて、1人で消して。一人ぼっちの絵を描いて。
昔は、それで十分だったはずなのに。
今はどうしても何かが決定的に足りない。
「……赤城さん」
ポツリと彼女の名を呼ぶ。
理由はとっくに分かっていた。彼女がわたしを必要なように、わたしもまた赤城さんが必要なんだ。
これが好きなのかどうかは分からない。もっと適切な言葉を、わたしは知っている。
「依存……。わたしは。とっくの昔に赤城さんに依存しちゃってたんだ」
ペンを置いて、机の上においていた月の形をしたヘアピンを指先で撫でる。
普段は持ち歩かないけれど、こうして机の上に置いておけばなんとなく心強かった。
付けたのは音瑠香の新衣装の時だ。ちょっと恥ずかしかったけど、あの日以降よく新モデルの方を使っているのは、単純にオキテさんがくれたものっていうのをアピールしたかっただけかもしれない。
柔らかな独占欲。依存し続けたら、きっと迷惑になると思ってずっと素直になれなかった。
露草さんというリスナーの時はただのリスナーだったから良かった。
赤城さんを知って、オキテさんと出会って。関わりを持ってしまったから。
初めての友だちに向ける感情ではないと思っていたから。
いつの間にか赤城さんを目で追ってたし、声をかけられる度とっても嬉しくなった。
百合営業しよう、って言ったのだって口から脳死で出た単語ではないと思う。
仲良くなりたい。そんな一直線な想いが、脊髄を通さず出た言葉なのかもしれない。
「悩んでても仕方ない。明日、赤城さんに聞こう」
最近忙しそうだけど、何してるのー? って。
わたしと赤城さんはそれはもう親友のラインを超えた仲だ。そのぐらい答えてくれるに決まっている。
そう思っていたんだけど、答えはその真逆だった。
「えー、っっと。その……。い、家の家事とか手伝えーって言われてさ! そしたらいっぱいするじゃん?! そんであーなんか疲れたなー、つってそのままベッドにinしちゃったら、遅刻ギリギリってやつなの! おーけーい?」
なんだその無理やりな嘘。
ここまで無責任に平然とバレバレな嘘をつける人を初めてみたぞ。
絶対なんか隠してる。それもわたしにはバレたくないやつ。
よし、じゃあちょっと方向性を変えて突っついてみよう。
「わたし、無理しないでって言いませんでしたっけ?」
「ぜーんぜん! 無理なんてしてないしー?! 最近もんのすごーく夜が眠いっていうか。アレよ! 春眠暁を覚えずってやつ! 暖かくなってきたから、ふわーっと眠くなってきたんよ!」
「去年はそうでもなかったですよね」
「えぇ? そうだっけぇ??」
怪しい。そこまであからさますぎると、むしろ今度人狼ゲームに呼んだときが面白そうだ。
ま、わたし自体が人狼ゲームを主催するだけの友だちがいないんですけどね、ははっ。はぁ……。
「マジで無理してないから! ちゃんと1周年の時には間に合わせるし! そんときは絶対オフコラボしてよ! 絶対だから! ね?!!!!」
「は、はい……」
そのまま逃げるように廊下へとダッシュして曲がり角の先へと消えていった。
本当に、何を隠しているんだろう。1周年の時には間に合わせる。何を? その時になったらいつもの赤城さんになるってこと?
それとも何か。1周年の時を境に心境変化のためにコンビ解散とか。
……。いやいやいやいや。絶対ありえない!
だってわたしを好きって言ってくれたんだし! わたしのためにパソコンまで買ってくれたんだし!
でも陰キャだから常に悪い方のことを考えてしまうんだ。
わたしに飽きていたら、どうしよう。って。
そんなことない。って良心と同時にそれはどうかな。ってネガティブな心が混じり合う。
もっと、何か考えなきゃ。無理しないでの前に話したことって、確か……。
「もしかして、記念イラストを依頼しようとしてる?」
でも確かお金がないって言ってなかったっけ?
朝遅刻して、昼は寝て。放課後は速攻で帰る。
朝遅刻して。
昼は寝て。
放課後は、何かがあって速攻で帰る。
何か、が……。
頭の中で嫌なものが連鎖してきている。もしかして、ギャルってそういう『連絡網』みたいなのが回ってきたりするよね?
た、確かに男ウケする身体だっていつか言った気がするけど……。
「パ、パパ活……?!」
至った答えがシンプルに最低なものだった。
わたしの記念イラストのために、自分の純潔売ったりしますぅ?!!!
た、確かに5万とか平気で稼げるかもしれない。分かんないけど! 相場とか全然分からないけども!!!
「さ、探そう!!」
幸いにも今はお昼休みだ。放課後は一気にダッシュして、赤城さんを捕まえる。それしかもう止める方法なんてなくない?!
わたしの運動能力なんてたかが知れている。だからもう、ヘトへチョになるぐらいに追い回して止めるしかない!
待っていてください。いや、どっちかというと止まってください、かな。
どうかそのパパ活だけはやめて!!!




