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Vtuberの陰キャとギャルが百合する話  作者: 二葉ベス
第5章:いつものように幸せな毎日
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第66話:青の臆病。触れると壊れてしまいそうで、怖いから

「……今日、赤城さんが早く来てないの、珍しいなぁ」


 赤城さんと1周年について話していた日から数日が経過していた。

 ここ数日、彼女の調子が悪い気がする。何故だか分からない。だが、こうやって赤城さんが朝早くから来ることはなく、やってくるのは大体ホームルーム開始の数分前がデフォになりつつあった。


「ふぃ~! 間に合った?!」

「ギリギリ~!」

「あっぶねー!」

「危なくない。もっと余裕を持って学校に来てください」

「あっ、先生じゃーん! すんませーん!」


 だから朝の登校時間はわたしひとり。挨拶もかけてもらえず、ただぼんやりと教室の隅からみんなの元気そうな声を聞いていた。

 ただ聞いているだけじゃない。わたしにだってやることがある。1周年のイラストだ。真面目に描いてしまったら、集中してそのまま誰かにイラストを見られて身バレ、なんてこともありそうだしラフ段階のイラストをちまちまとノートに描き記す。


 元気な感じか? それはイメージに合わない。

 となるとツンデレ? 不服ながらイメージにはあっているけれど、ちょっと違う気がする。なんというか、リスナーに向ける視線的なものはそうじゃない。

 じゃあ感謝のありがとうか? うーん、それもあんまり想像できない。


 何故だろう、っていうのは大体わかっていた。半年前までは二桁だったチャンネル登録者数が今や300人前後だ。それまでイメージなんて面倒で変えてないし、やる内容も結局イラスト雑談が多めだ。

 だから自分の力で手に入れたとは到底思えなかった。

 ちゃんと感謝はしている。けれど、そこにある1番のありがとうを伝えたい人は、いま遅刻しかけた彼女なんだ。


「でも、自分の記念イラストに他人を載せるのって、どうなんだろ」


 リスナーに対して誠実じゃない? もっと彼らを大事にすべき?

 分かってるよそのぐらい。でも他でもない赤城さんがわたしのことを引っ張ってくれたから、リスナーのみんなが付いてきただけ。わたしは別に、何もしてなくて……。


「こんなこと、聞いてもらえるのなんて赤城さんしかいないよね」


 ほら。やっぱりわたしは赤城さんに頼ってしまう。今回も快く笑顔で大丈夫だよ! って答えてくれそうな気がしてるから。

 よし、お昼休みに聞いてみよう。トイレとか行くときに席を離れたタイミングで、こう。いい感じに伝えに行こう。


 そうして待っていたタイミングだったのだけれど、事はそう簡単にはうまくいかなかった。


「おーい、つゆー! いつまで寝てんのさ!」

「ウケる! 今まで赤城がこんなに寝てたことなかったよね!」

「ねー! 寝不足?」

「……すぅ。…………んん? んんー……」


 4時限目が終わりいざお昼休みだと赤城さんを観察していたら、新しくできたクラス内のカーストトップ組が彼女を囲っていた。

 外側から聞いた感じ、どうやら昼寝しているようだった。赤城さんがお昼寝、かぁ。確かに珍しいこともあるなぁ。

 彼女は基本的に早寝早起きの超絶健康人間の象徴みたいな生活態度だ。

 朝は早く起き運動をしてから朝活配信。学校中は実は寝てないし、むしろ授業態度は良い方。夜は早めに寝るか、配信をして寝るかの二択だ。これは半年彼女のことを見てきたわたしだからよくわかっている。


 でも今日に関しては、その様子は異なっていた。

 授業中も何回か注意されていたし、なんだったらわたしの後ろが赤城さんだ。寝ているかもしれないという気配はしていた。

 でもお昼休みまでこんなに熟睡してるなんてことは、初めてだ。


「ねぇ、赤城が寝てる理由知らん?」

「へっ?! い、いえっ! と、とと特には……」

「つゆと一緒にいること多いから知ってると思ったけど、ざーんねん」


 きゅ、急に話しかけられたからびっくりしたぁ。

 そ、そりゃあわたしと赤城さんは相方というか、告白されちゃった間柄ですけど、何でもかんでも知っているわけじゃない。


「ふぅん。まーいっか! 赤城のこと頼んだ! あたしらは別んとこ行って食うからさ!」

「つゆによろしくー!」

「あっはい……」


 嵐のように消えていったカーストトップたちだったが、割りと接しやすかったかも。

 もしかしてわたしの人間力が強まってきた証拠なのでは?! って、調子に乗りすぎか。赤城さんと一緒にいるから、友だちだと思われてるだけか。


「すぅ……。んん……」

「まぁ、任されたわけですし」


 しょうがないか。バッグから今日のご飯を取り出す。

 パンとパンと牛乳。質素だけど、お金がないから仕方がない。

 椅子を180°回転させて、赤城さんの方を向きながらパンの袋を開封した。


「もぐもぐ……」

「…………すぅ」

「もぐ、もぐ……」

「んん……。すぅ……」

「ずっと寝てるなぁ」


 まったく、どうしちゃったんやら。

 らしくないと言ってしまえばその通り。何を頑張っているか分からないから、結局注意できないのもまた事実。

 もしかして、1周年の件で何か考えているのだろうか。

 懐事情が寒々しいとは聞いていたけれど、何か無理をしているのかな。

 あれだけやめろって言ったのに。


「でも、わたしのことを想ってくれてたんだよね」


 変な言葉だ。口にするだけで、胸の奥の方がぽーっと暖かくなってしまった。

 これじゃあ、わたしのために頑張る赤城さんがいくら無茶してもいい、みたいに聞こえてしまう。ダメダメ。わたしのせいで体を壊すとかありえないし。

 嬉しい。けど、赤城さんがわたしに対して優しすぎるのは知っている。1人にさせないように、コメントしまくったり、PCを買ったり、Vtuberまで始めたり。

 ハッキリ言って行き過ぎている。もっと自分を大事にして欲しい。


 でも、わたしのことを想って行動していることがわかるから、変に注意できないんだよ。

 人間関係に臆病なわたしだから、口にできない。ベタベタ手を触れて、うっかり壊してしまったら、と思うと。とても怖かった。

 だから臆病なわたしはただ黙々と彼女の起床まで待っていたが、その日のお昼休みに起きることはなかった。


 彼女は、授業が終わるとわたしに別れも告げずに急いでどこかへ行ってしまったのだった。

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