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Vtuberの陰キャとギャルが百合する話  作者: 二葉ベス
第5章:いつものように幸せな毎日
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第64話:青の想起。そろそろ1周年じゃね?

 波乱(個人的には)のクラス替えが終わり、慌ただしく新学期の始まりを迎えて数日。

 ようやく落ち着いてお昼休みを過ごせるぐらいの期間に入った。

 そしてもちろんのことながら、わたしに話しかけてくる相手などいるわけもなく。


 というか、もう高校3年生ともなると喋るグループなんて決まってるものなんだよ。クラスは違っても休み時間は一緒に過ごせるし、同じところに留まる理由はない。

 だからわたしも見向きもされないのだが。

 それともあれかな。後ろに座っている赤城さんがニヤニヤしながらこちらの肩を揉んでくるのが悪いのかな?


「いやー、凝ってますねー、お客さーん!」

「あの。割りと反応しづらい話題なんですけど」

「なにー?」

「そんなこと言ったら赤城さんも結構凝ってるんじゃないんですか?」


 でかい。そう、何がかは言わないけれど、とにかく赤城さんはでかいのだ。

 リアルもアバターの方もそうだけど、そんなにあったら男ウケだってとてもいいはずなのに、なーーんでわたしなんかの事を好きになっちゃったかなぁ……。

 まぁ、それで悪い気はしてないんですけども。


「あー、一応あたし運動してるし!」

「うぐっ!!!」


 まるでわたしが運動してないかのような言い草!!

 全くもって間違いはないのですがね!! もっと散歩でも何なりでも、身体を動かしたほうがいいんだろうなぁ。


「そういやー、音瑠香ちゃんってもうすぐ1周年じゃん。なんかするん?」

「え?」


 1周年? あれ、もうそんなに経ってたっけ。

 でも確かにVtuberを始めたのはそんな前だった気がする。えーっと配信始めたのがそれこそ……。ヤバい。


「なにも考えてなかったです……」

「えぇ?!」

「やらかした……」


 ここ最近忙しかったのもそうだけど、3月までの時点で赤城さんとかと諸々いろんなことがあり、1周年もうすぐ! ってところまで気づかなかった。

 ヤバい、流石に登録者300人以上いる配信者が「あっ! 今日1周年らしいです。特にありません」で終わる訳にはいかない!

 たまにそんな事をしているVtuberさんもいるけど、それはそういうキャラクターだと認識してもらっているから許されているのであって、わたしはちゃんとリスナーに感謝をしたいと思っている。

 でもお金もないし、今からイラスト数枚描いてグッズを出すのは至難の業。というか時間が足りるか分からない。

 こう、なんというか外注とか……。いやお金がないってさっき言ったじゃん。えーっと。えっと……。


「……あたしとなんかする?」

「へ?!」

「青原が困ってるなら力になりたいし。こういう時の相方っしょ!」

「お、おう……」


 その相方がこの前告ってきたんですけどぉ?!

 はぁ。一応今まで通り、いつも通りで赤城さんとは接しているけれど、常日頃から距離感が近いというか。グイグイ攻めてくるから、わたしもアップアップしているんだよ。

 最近は手を繋いだりと、ボディタッチが積極化してきた気がするし。なんだかんだ許してしまっているわたしもいけないんだろうけど。


 だってしょうがないじゃん! ソフトにこう、優しく触られたら「あ、気を遣ってくれてるんだ」って考えちゃって、怒るに怒れないっていうか。それもこれもオタクに優しすぎるギャルだからわたしも耐性が緩んでいるのだろう。この前は鼻キスとかもしちゃったし。

 このギャルはこうしてわたしの硬い防御力を少しずつ溶かしていくんだ。防御力0になったら、なんかもう。ダメになってしまいそうな気はする。


 ともかく、そんなことよりも赤城さんへの返答をしなきゃだ。

 力になりたいって言われても、なにがあるだろう。企画とか? またオフおきねるやるぐらいかな。


「じゃあオフコラボとか?」

「いーじゃん! 企画系?! 音瑠香ちゃんおめでとーパチパチパチー! みたいな!」

「赤城さん、そういうの考えるのは楽しそうですよね」

「まーねー! なんか学祭みたいで楽しいし!」


 うわ、陽キャ発言だ。

 わたしは昨年の学校祭も教室の隅っこでサボっていたっけ。あの時の気まずさと言ったらもう……。


「あとは記念イラストの1枚ぐらいは欲しいし……。うーん……」


 いずれにせよ、セルフ受肉系Vtuberとしては何かしら1枚は描いておきたい。

 いつもの落書きみたいなのではなく、数日かけて完成させるような立派なものを。


「記念イラストかー……。あたしもなんかあげたいなー」


 赤城さんがなんかまた散財しそうなことを言っている。


「赤城さん、懐事情は大丈夫なんですか?」

「んー、ダメだね!」

「じゃあ大丈夫ですよ……。わたしのせいで借金とかしてほしくないですし……」

「まーねー……」


 この顔。後で返すからって友だちに借りたりする顔なんだろうか。何か考えていることは間違いないけど、その中身までは読み取ることはできない。

 赤城さんのことだから、もしかしたらわたしのために、って言って大きなプレゼントを用意してきそうなんだよなぁ……。


「無理だけは、しないでくださいね」

「してないしてない! 音瑠香ちゃんのためだもん!」

「……それが危なっかしいっていうか」


 愛されて嬉しいけど、たまにその愛が重たすぎることがある。

 投資するのはいいけど、自分の余力はちゃんと持ってほしいところだ。


「ダイジョーブだって! 青原は優しいなー」


 そうやって頭を撫でるのだって、本当は嫌なのに。赤城さんだから許してしまう。

 そんな太陽みたいな笑顔で優しく微笑まれたら、心の氷が少しずつ溶けてしまいそうだ。

 強く拒絶できない自分が悔しい。こういうとき。わたしのことを好きな人が、いっぱい無理してしまいそうなとき、強引にでも止めることができる勇気があればなぁ。


「本当に、無理だけはしないでくださいよ。ホントに」

「分かってるって! あたし、いいこと考えたから!」


 話聞いてたのかこのギャルは。

 胸のうちに秘めた心配を、呆れとして表に出す。

 ここまでのことをしておいて、告白の返事は保留にしてもいいって、どんだけわたしに甘いんだよ。それに甘えてしまっているわたしも、相当嫌なやつだ。

 早く答えを出したいなぁ。


「うっし! じゃあ次は理科の授業だし、理科室行こうぜー!」

「あ、そうでしたね」


 この曖昧な関係がずっと続けばいいと、思ってしまっている自分がいてしまう。

 結局、わたしは彼女のことをどう思ってるんだろうか。

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