第63話:青の進学。陰キャにクラス替えは、関係ある!
「はぁーーーーー…………」
最近、わたしは学校にもいい加減慣れてきたし、話す相手も増えたし、もうこれは陽キャなんじゃないのか?! って自分で自分を誇張表現することがあった。
いやだってさぁ、あのクラスカーストでもトップクラスで、容姿も勉学も性格のいい女といい感じの関係になってさ、ついでのように友だちになった(?)星守さんだっているんだから、わたしもカーストトップの女ってわけ!
上から下々の者を眺めるのは気持ちいいどすな~~~!!! ほーっほっほっほ!!!
なーんて、そこまでは思わないまでにせよ、ちょっとはリアルが充実しているもんだと思っていたんだ。
陰キャ、というより普通の、一般人よりちょっと下ぐらいのオタクぐらいにはなってたって。
でもこのイベントで一気に覆るかもしれない。
「クラス替え……」
学年が変わることによって、行われる謎の行事。
一説には優秀な人と無能な人を選別して、クラスの学力の差を開かせる、みたいなクラス替えもあるとかなんとか。
本当か嘘かは分からないけど、創作の上では頭がいい人がトップカースト。バカはみかんの段ボールを机にして勉強させられるというラノベもある。
あぁ、恐ろしや。だって、これが本当だったら頭がいい赤城さんと、頭の悪いわたしは離れ離れに。
そうなったらわたしは誰と話せばいいの……?
「……もう登校拒否してしまおうかなぁ」
でもそれじゃあ悪目立ちして本当に友だちを作ることも出来ず。
赤城さんともいい感じだったけど、だんだん疎遠になっていって……。
わたし、ぼっちに?
「くっ! ぐぉおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
わたしは学校への通学路を1歩ずつ踏んでいく。これは未来への前進! ぼっちにならないためのぉぉぉぉおおおおお!!!!
「何あの子……」
「かわいいのに奇声あげながら学校行ってる。草」
「…………」
無口で普通に学校に行こうと思います。
それが正しい。今ので心が傷ついたからイヤホンを取り出して、なにか音楽でも流そう。
イヤホンは外界から自分を遮断してくれる素敵なアイテムだ。陰キャにはこれが必需品!
お気に入りのアニソンを聞きながら歩く通学路は、そこそこ気分がいい。
それは不安交じりの期待が学校にあるからだと思う。
3年生だから進学のことも考えなきゃなんだけど、それよりも赤城さんとどうにか一緒になれないか考えている。
やけにこだわるじゃん、と言われたらそれはそうと言わざるを得ない。
けど、わたしにあんな言葉を口にしてくれる人を雑には扱いたくないし。
……それに。わたし自身の答えもまだ見いだせていない。
結論から言えば、わたしは多分赤城さんのことが好きなんだと思う。
でもこの感情を友だちとしての物なのか、恋人として想っているのかを理解できないんだ。
何せ友だちも恋人も、どっちもいたことがない。レモンさんとかは近所のお姉さん的立ち位置だと思うし、にか先生に関してはそれはもう師匠というべき相手。
だから赤城さんと一緒にいれば、その答えが分かるんじゃないかなって、思ってたんだ。思ってたんだよ!!
「何がクラス替えだ、ちくしょー」
カミサマが本当にいるなら、なにとぞ。なにとぞ赤城さんとの間を取り持ってほしい!!
こう、クラスが同じであってほしい! でないとわたし死んじゃうし!!
「……おっ、青原ー?」
「カミサマ仏様えーっと……あと何とか様お願いします……」
「なんかおもろいことやってるし」
「あ、え?! 赤城さん?!」
びっくらこいたところで赤城さんが「よっ」とあいさつしてくれたので、わたしもそれに対しておはようございますと口にする。
うわ、恥だ。このまま地面を掘って埋まりたい。そこでわたしを埋没してほしい。この恥とともに。
「で、何してたん?」
「あー、えっと。……クラス替え、どうにかなんないかなぁ、と」
「えっ! 青原もあたしと同じクラスになりたいの?!」
こ、言葉にされるとなんだかこっぱずかしい。
こういう時わたしは大体「いや、違いますし。ただ友だちがいないだけですし」ってネガティブに返答するんだと思う。
てかすでにしていた。我ながら素直じゃないなぁ、と思うが、赤城さんの前だと何故だか本音を言えないんだよなぁ。なんでだろう。
「えぇ~、恋人はいるのに~?」
「……ん?」
「んっ! ほら、あたし」
「……もしかして、恋人ごっこの件、まだ続いてます?」
「もち~」
前言撤回。このギャルだから天邪鬼になるんだ。大体冗談で動いているような相手に、どう素直になれというのか。試しに今度素直に返事するDAYでも作ってやろうか。
その時は、自分の死を覚悟するか、隕石が落ちる3日前ぐらいにしたい。
「だったら一緒に見ない? あたしも実際怖いし!」
「……赤城さんにも怖いものがあるんですね」
「当たり前っしょ! 辛い物とか、辛い物とか」
それは痛いものだから怖いのでは?
「だって気が向いたときに青原におはよ、って言えないし! 好きなんよ、青原におはよーって言うの!」
「……そ、そうですか」
いきなりそんな愛してますよセリフ言われると、結構困るんですけど……。
耳がちょっと赤くなってきた。なんか、してやられた感じで腹立つ。
けど、嬉しいのは、まぁ……。そうですけども。そうなんですけども!!
「お、ほら着いたよ、学校!」
「は、はい……」
「手ー繋いでってあげるから、っさ!」
「あっ……」
それでも、意気地なしのわたしの手を引っ張って励ましてくれる。
わたしも、あなたのそういうところが……。す、す……。
「こういう時自分の苗字があ行なのマジ助かるわー!」
「…………」
薄眼で左上の方を見る。青原も赤城も同じあ行で、隣同士のはずだ。
だからわたしの名前を探せば、おのずと……。
「おっ! あたしが出席番号2番目だ!」
「わたしは、1番目、ですね……」
「やりぃ! 今年もよろしくね、青原!」
心の底から嬉しいけど、思わず口に出してしまったらまた天邪鬼が出てしまう気がして。
だから手だけはぎゅっと握って、そこで喜びを示した。
「はい、よろしくお願いします。赤城さん」
手を繋いでるときは、1人じゃなくて、2人になって。
その空間はわたしにとって、心を潤すオアシスのような幸せ空間なんだと、思う。




