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Vtuberの陰キャとギャルが百合する話  作者: 二葉ベス
第4章:年始のような計画する毎日
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第59話:青の進捗。スポーティーに、かわいく!

 それからわたしが泣き止むまで赤城さんはそばにいてくれて。

 でもそれじゃあネカフェに来た意味がない! って言い出して、ジュースとソフトクリームを持ってきてくれた。甘い。甘かった。本当に、赤城さんはわたしに甘すぎるよ。

 アニメを見ながらあれが好きとか、こういう展開が好きとか。そういうのを語り合った。

 意外にもなろう系アニメが好きと聞いてびっくりしたし、それを楽しそうに語る赤城さんを見て、わたしも楽しくなった。


 次第に好みの話にもなり、赤城さんが実は辛いものが苦手だと聞いて激しくうなずいた。

 そうですよね、わたしもだいっきらいだあんな味覚の食べ物は。

 人類には毒である辛いものを食べる習慣がある人間は、やはりどこかおかしい、という話をしたら爆笑された。そこまでかー、って。


「キャラデザはどんな感じなん?」

「えっと、それがこのぐらいで……」


 そういえば本人にはキャラデザの件を話したことがなかった。

 わたしひとりで大丈夫。わたしが頑張らなきゃって、どこか肩肘張っていたんだと思う。

 話してみればこっちの露出が高いのは苦手だとか、太陽のトレードマークが好きとか、逆に要望として走ることも考えたいとも言われて、なるほどぉと一つ一つメモを取っていく。

 そうだよね。多分にか先生はこういうことを本来望んでいたのかもしれない。

 相手の理想を汲み取って、形にしていく。そうしてVtuberというものが出来上がっていくんだ。


「なんかひらめきそうかも……」

「マジ?! スランプ脱出じゃん!」

「ただにか先生にはダメだしされるかも知れませんけど……」

「いーじゃん! そんときはまた修正して提出して、みたいなさ!」


 それはそれでわたしのメンタルがへこむ、と言いますか。

 にか先生の言い方は結構やんわりしているけれど、やっぱり否定的な意見を言われるとどうしてもシュンっと落ち込んでしまう。わたしが豆腐メンタルなのがイケないんだけども。


「まっ! あたしからしたら、長引けば長引くほど、恋人ごっこが続くわけだからいーんだけどさ!」

「ダメですよ、ちゃんと完成させたいですし。……なんか赤城さんと遊びで付き合ってる感じがして嫌ですし」

「おーーーーん?? それはひょっとしてー、あたしのこと好きってことでいいのかにゃー?」

「なっ! ち、違います!」


 ま、まぁ。好きには答えたいという気持ちがあったりなかったりはするんですけども。

 ただ曖昧でハッキリとしないまま答えるのは多分ダメだと思って今は返事を出していない。

 赤城さんからは真面目だねー、と小馬鹿にされたが、うるさいと黙らせた。

 そんなんだからこうやって煽られてしまうわけなんですけども……。


「袖はどうしましょう? 半袖とか、思いっきりフリフリみたいなのとか」

「うーん、あんまり好みじゃないしスポーティーな感じで!」

「となると……」


 段々原案が出来上がっていく。

 イラストが好きと言ってくれた人の前で、その人のことを考えてペンを走らせる。

 もしかしたらこれはかなりの幸せなんじゃないだろうか。


「あっ……、もう時間だ」

「え、もうそんなですか?」

「延長でもしよっか?」

「流石にやめておきます。パソコンで出来上がったものを詰めたいですし」

「りょー! あたしは延長でもよかったけどなー」


 冗談はさておき、帰りは赤城さんと手を繋いで帰った。

 来たときよりもずっと手に熱がこもっている感じがして、少し嫌だったけど、悪くない感じだ。まぁ、この熱が赤城さんにバレていないといいんだけど。


「じゃー、またね!」

「はい、また月曜日」


 彼女を改札口まで送って手を振る。なんか、こういうの友だちっぽくていいかもしれない。でもどっちかというと恋人同士が手を自宅に帰っていく感じか?

 前者はともかく、後者はなんというか。はずい。

 あーもう。今日は本当にいろんなことがあった。初めてのタイゼリヤに初めてのゲーセン。初めてのネカフェ。そして、初めての告白。

 全部が新鮮で、かけがえのない思い出で。それからまた考えなくちゃいけない課題で。


「わたし、ちゃんと好きって言えるかな……」


 夜の月を見上げながら、次第に春を感じる気温と冬を思い出させる白い息が惑わせる。

 彼女のことは好きか嫌いかで言ったら、間違いなく好きだ。でも少なくとも友だちとのそれであって、恋愛的意味なのかが分からない。恋愛経験もないし、友だちが居たことだって、少なくともリアルではなかったし。

 どこからが友だちで、どこからが恋人なのか、もうちょっと明確に示してほしいところだ。


 でも、赤城さんと、付き合う。ってなったら……。


「ちょっと、嬉しいかも……」


 自然と頬が緩んでしまうのを感じてとっさに手で押さえる。

 それでも目元は緩んでしまってるし、もうこれはニヤけてるようにしか見えなかった。


 ◇


『うん、いいんじゃないかなぁ~』

「よっし!」


 それから数日後、お仕事としてにか先生にキャラクターデザインを提出すると見事なまでにすんなり通った。


『音瑠香ちゃんにはなかったスポーティーなデザイン。でもその中にある可愛さとか、派手さとかが滲み出てて、ボクはすっごくこれ好きだなぁ~』

「ふへへへ……、あ、ありがとうございます……」


 へへへ、べた褒めじゃないか。やったぜベイビー。これでわたしも一端のデザイナーだ!

 じゃなくって。わたしはわたしでもう1つお願いしたいことがあったんだった。


「あの、もう1つ。これを見てほしいんですけど……」

『ん~、どれどれぇ~』


 SNSに画像を載せる。その画像を見て、何かを察したのだろう。恐ろしくニヤけたにか先生の声が響き渡った。


『へぇ~……。これもすごくいいなぁ~!』

「ありがとうございます! オキテさんには秘密で進めてまして。その、にか先生的にはどうかな~、と……」

『うん、すごくいい。それに2人で画面に立ったら映えると思うよぉ~!』


 よっし、お褒めの言葉も頂いた!

 あとはこれを……。


『はぁ……いいなぁ~。ボクもVtuberになりたくなってきたぁ……』

「にか先生だったら、人気出ますよ。声だって素敵ですし」

『えへへ、ありがとぉ~! それにこれ見てたらボクも百合営業したくなってきたし』

「え?」


 にか先生が? 誰と?!

 恐れ多すぎて、みんな引くのでは……。


『相手が安心して嫉妬してくれる音瑠香ちゃんとかがいいかなぁ~』

「へっ?! な、なんでですか?!」

『いやぁ、オキテちゃんだったら面白い反応してくれるかなぁ~、って』


 鬼かこの人。


『オキテちゃん、音瑠香ちゃんのことがすっごく好きなんだなぁ~って思うし、ある程度の浮気ぐらい許してくれるかな?』

「……それはわたしに言われても」

『今度オキテちゃんに聞いてみてぇ』


 嘘でしょ、そんな理由でVtuberになる気なのかこの人?!

 にか先生のイメージが段々崩れていくのを感じる。最初はのほほーんとした、繊細なイラストを描かれる絵師だと思っていたら、蓋を開けたらこんな……。


『でもオキテちゃんがむくれてるところ、見たくない?』

「えっ……」


 想像する。太陽みたいに何でも照らす彼女が好きなわたしと仲良くされて、ちょっと不機嫌になったりジト目をされたり……。

 あれ、クリスマス前の妙に様子がおかしかった赤城さんを思い出してしまう。


「ほ、程々がいいです……」

『あらら……。まぁ冗談はさておき、本業の宣伝にもなるかもだし、考えてもいいかなぁ~って』

「その時はよろしくお願いします」

『うん、こちらこそ~』


 よし。キャラデザはモデル担当に渡した。

 わたしはわたしでやれることをやって、赤城さんを驚かせてやるんだ!

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