第56話:赤の勝負。ゲーセンは定番っしょ!
「ふー! お腹いっぱい! 美味しかったね!」
「そうですね。こんなに食べても1000円ちょっとはすごい……」
ふふっ、タイゼリヤの魅力に気づいてしまったようだね!
どんなに食べても何故か1000円前後に収まってしまうという恐ろしい事実に!
アレってなんでなんだろうねぇ? あたしにもわかんないけど、とにかく安いからいいかなーって!
お腹も満たされたところで時刻はおよそ12時半ぐらい。
しばらくタイゼリヤでだべっていたのもあったけど、概ね想定通りの時間だった。まぁ、おそらくこれからの方が想定以上に時間がかかっちゃうんだろうなー、とは思ってる。
「で、次はどこに行くんですか?」
「聞きたいー?」
「まぁ。今日はあなたに付き添ってるわけですし」
それはマジごめんなんですけどー!
でもわかってほしい。これは2人のデートだからあたしだけが満足してはいけないことを。青原も満足して初めて成功するイベントなんだ。だからちゃーんと味わってほしいなぁ、これから行くゲームセンターの味わいを!
「うわ、え。マジですか」
「え、そんなに」
もしかしてゲーセンに訳あり系の女子高生だったりする?!
とりあえず手をつないで、入店。中は普通にいつも通りの光景だった。クレーンゲームと太鼓の達人。それからよく分からないゲーム。
多分奥の方に行けば格ゲー台とか、音ゲー台とかがあるだろうけども、今日はそっちには行かない予定だ。
「な、なんか想像してたのと違いますね……」
「どんなん想像してたん?」
「こう、不良のたまり場で日光がやたら入ってなくて、暗くてジメジメとしたイメージです」
「昭和のゲーセンか?!!」
青原の知識が相当偏っているのは分かった。タイゼリヤにも行ったことがないって言ってたし、実は箱入り娘ならぬ、引きこもり娘なんじゃなかろうか。いや、ありえる。だって陰キャだし。あたしも偏見でモノを語っているけれど、青原の世間知らずは相当なものだ。
まぁ令和のゲーセンはと言えば、そんなに汚いものではなくむしろカジュアルにできている。
中央には目玉というべきクレーンゲーム台。ちょっと目を移せば子供向けの筐体も置いてるし、むしろ不良が行きづらい施設になったのではないだろうか。
「ちなみに、青原が想像してる不良ってどんな感じ?」
「えっ? ……髪型がリーゼントだったり、かきあげてたり、学ラン着崩して目付きが悪い感じの、です」
なにそれこわ。マジモンのスジモンじゃん。あたしでもビビるわ。
まぁ不良というイメージはそこから付いてるのは何となく分かるけどさー……。
「一応あたしも不良よ?」
「なに言ってるんですか。こんなに優しくて人付き合いのいい不良とかありえなくないですか?」
「あんた、あたしが校則破ってるの、実は知らないでしょ」
先生にはちょこちょこ注意は受けているものの、全くもって反省してないし、むしろ悪いとも思ってないから言われても気にしないんだけどさ。
「うちの学校、化粧とかネイルとか、そういうの禁止だから」
「あー、確かにそれは知ってますけど。じゃあ赤城さんも何か罰則とかは……?」
「ないね! だって実力で黙らせてっから!」
そう、テストの点数という実力でなぁ!!!
頭いい相手には何も物が言えなくなる。悲しいけど、学校としては勉強できれば何でもいいのだ。本当に曖昧でいい加減な学校ですこと。おほほ。
「……やっぱすごいですね、赤城さんは」
「青原の方がすごいから! ほら、早速遊ぶよ!」
「いや、でも……。は、はい!」
すぐにネガティブに自分を卑下しようとするから、こうやって強引にでも連れ回さないと。
あとあたしが単純に遊びたいのもある。さーて、まずは何から遊んでやろうかなー、っと。
「おぉ! プリファンの筐体、初めて見た……!!」
「なんかいーもんあったー? って女児向けのやつじゃん」
「いや、わたし今これがすごく気になってて。プリティファッション、っていう女の子を着せ替えしてライブをするゲームなんですけどね?! あ、略称はプリファンで、フリフリの可愛い衣装とか、逆にシックでかっこいいスーツとか、それはもう幅広い衣装カードがあって、それらをコーディネートしてオリジナルの女の子を作り出すんですよ! あーもう! こういうのやったことないから分からないけど、待機画面だけでよい……」
あ、オタクモード入ってるな、これ。
そういやー聞いたことがあるっけ、大人でもこういう女児向けアニメやゲームに熱中するお兄さんお姉さんがいるって。
確かに憧れだもんなぁ、キラキラの衣装を着て、歌って踊ったりするの。
子供の頃はちゃんと憧れてたけど、今はお金もあって、メイクもちゃんとできるからいつの間にか卒業しちゃったっけ。……まぁ、あとは恥ずかしかったりもするわけでして。
「やりましょう、赤城さん! 2人までできるんですって!!!」
「いや、あたしはいいっていうか……」
「大丈夫ですよ! わたしが動画で見たことあるんで教えます!!!!」
「あー、えっと……」
「キャラデザの勉強にもなりますし!! いいですよね!!?」
普段は濁った川の水みたいな目をしている青原が、今は太陽に反射して透明度が増した川の水にまで変化するとは。悔しいけど、侮れないなプリファン。
大体、あたしがこんなキラキラしてる時の青原を止められるわけがない。オタク全開な青原を、あたしは止められない。
あと、ちょっと気になるっちゃ気になるし。
「まーいっか」
「よっし! じゃあ早速1000円札崩してきます!!」
「……どんだけやる気なのさ」
これだから手のかかる好きな女は、もう……。
まぁそういう無垢で純粋なところとかが気に入ってるから、あたしも何も言わないんだけどさ。
……。てか、確かにキャラデザの勉強にもなりそうだなー。かるーくスマホで調べてるけど、レア度が上がれば、専用デザインみたいな衣装もあるしかと言ってノーマルカードはどうだと言われたら、質が悪いわけでもない。むしろあまり変わらないっていうか……。
「こういう大人っぽいものもあるんだ。あ、コートワンピもある。へー……」
なるほど、これはハマるわけだ。ゲームを知らないあたしでも惹かれるタイプの衣装もあるし。 Vtuberのデザイン的にもこういうのが合うだろうなー、っていうのをカードと合わせて説明できるかもしれない。概ねデザインがギャルと言うよりもアイドルに寄っちゃってるけども。
「お待たせしました! さぁやりましょう!」
「はいはい! じゃああたしはこっち?」
「いえ! 赤城さんは1Pで!」
「そこは青原が1Pやりなよ!」
その後は2人であーでもないこーでもないと、試行錯誤していると横から見ていた女の子に「こっちがいいよー」なんて言われて試してみたらより可愛くなって。
これが俗にいう幼女先輩ってやつなのだろう。
敬意を払って次の手番を交代したり、いろいろ楽しかったなー。
って! クレーンゲームもする予定なんだって!!




