第55話:赤の交遊。楽しみだとよくあること
考えて考えて、いろいろ雑誌とかインターネットで調べてみて、あたしも恐らく青原も同じく楽しめるであろうプランを書き記してみた。
これでも男女の交際したことはないが、友だちとのお出かけの際にどこどこに行く、みたいなプランは常に考えてたりするんだ。あたしの考えに間違いはないはず。
とはいえ、相手はあのドが付くほどの陰キャ青原。これでちゃんと楽しんでくれるかは、相手次第なところがあった。
まぁ、なんというか。あたしだって不安だよ。好きな人に楽しんでもらえるか分からないから。
だから精一杯青原の事情も加味して、作り上げたこの青原デートプランをあたしもいっぱい楽しむんだ!
「って、早く来すぎたかな……」
約束の時間は午前11時。あたしが待っているのは午前10時半。30分待ちぼうけだ。
流石に早く来すぎたと自分でも思う。どれだけ楽しみにしてたんだよあたし。メイクも私服もバッチリキメてきたし、体調も絶好調だ。自分でも不思議なぐらい。
でも30分かー。お土産でも持っていこうかな。例えば飲み物とか。
ミネラルウォーターでも持ってきてあげたら、気の利く相手だと思われて好感度上がるかな? それとも甘い系のコンビニスイーツでも持って……。いや、これから行く場所って、基本飲食禁止みたいなところだし、やめておいた方がいいよなー。なら……。
「寒いしホットココアでも買ってくるか」
あまりにも寒い。そろそろ2月も明ける、という時期だが寒さとは? と聞かれたらやっぱり寒い。寒すぎる。10分外で待機してたら凍え死んでしまうようなほど寒いのだ。
ということでコンビニに行こう。まだ来ないだろうし、青原、もとい音瑠香ちゃんの挨拶はいつも眠たい系。その名の通りクリスマスに泊まった日も朝は弱そうだった。ちょっとほっぺたを突いたりしたっけ。可愛かったなぁ、もう。
こっそりスマホで撮った青原や音瑠香ちゃんの写真を見てニヤニヤしていたら、あっという間にコンビニに到着。サクッとホットココアを買ってきて、待ち合わせ場所まで戻ってくると、青原がいた。
……。ちょっといたずらしようかな?
「おはよ、青原」
ココアでちょっとは温まった手を青原のほっぺたにくっつける。ぴとっ。
「うわぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!? あ、赤城さん?!」
「よっす、青原!」
「びっくりしたぁ……。心臓飛び出すかと思った……」
あたしは鼓膜が1回ないなったかもしれないかも。
想像以上に大きな声が出た青原に周囲の目線が集中するが、すぐにいつもの日常に戻っていった。
まったく。青原はあたしのだぞ。散れ散れ!
「てか、早かったじゃん」
「まぁ、赤城さんのお誘いですし」
時計を見たらまだ10分ぐらいしか経過していない。
こいつも楽しみすぎて早起きしちゃった人の1人かぁ? かわいすぎだろー!
こりゃあちょっとイジり甲斐があるなー。へへっ!
「そっかー。あたしとのデート、そんなに楽しみだったかー!」
「なっ! ち、違いますし! たまたま早く起きちゃっただけですし」
「あたしはそこまで言ってないけどなー」
「は、早く起きたから! ……ちょっと早く行こうかなぁ、って」
くっはっ! かわいいなー!! この女かわいすぎる!!
この素直じゃなさはきっと全人類であたししか味わえないんだろうなー! この面倒くさくってツンデレのかわいさは!
「へー、そっかそっかー!」
「むぅ……。そういう赤城さんこそ、今日は早いじゃないですか」
「主催だし」
「……まぁ、そうですけども」
あたしはそれこそ青原とデートするのが楽しみだったからなんだけどね。
そんなこと言ったら、ちょっと重たい女とか思われそうで嫌だけど。恋人だとしても、その後ろにはごっこ遊びが付く。だから出来るだけ好意は出しつつ隠していきたい。今日、このデートでキメるために。
「じゃあちょっと早いけど行こっか!
「そうですねぇ。どこに行くんですか?」
「その前に。ん!」
あたしは事前にホットココアで温めておいた手を差し出す。
「ん?」
「手、繋ご」
「……え、っと」
「恋人だし」
「うぅ……」
くっくっく。断れまい! あたしが手をつなぎたいだけなんだけどさ。
でも青原もまんざらではなさそうな感じはするんだよ。あたしの勝手なイメージだから、間違いだったら謝るんだけども。
恋人って言葉を出しておけば、仕事がチラついて付き合わなきゃいけないって思うかもだから、ちょっとした罪悪感がないかって言われたら、ある。
こういう時、青原はしぶしぶという顔で冷たい手を差し出してくれる。
あたしは触れた冷たさを味わいつつ、青原の柔肌を包み込む。やっぱり少しだけ小さい手。守ってあげたくなる可愛らしさ。なんだか、温かい。
「ん、温かい。カイロ持ってきました?」
「ホットココア買ってきたんよ」
「いいなぁ……」
あー、寒かったんだ。あたしはまだ開封されていないホットココアを青原のコートのポケットに突っ込んだ。
「まだ飲んでないからあげるよ!」
「あ、いや。でも……」
「いやでもなんでもない! はいじゃー行くよー!」
「は、はい……」
かわいいなー、もう。
肩をくっつけて、恋人つなぎで目的の場所へと歩いて行く。
とは言え、どこに行く? と聞かれたら食堂なんだけど。
「早速レストランですか?」
「うん! 腹が空いてはなんとやら、ってね! ここならカジュアルだしいいかなーって」
「ここ、来るの初めてかもしれない……」
「初タイゼかぁ! じゃあもっといいね!」
イタリアンレストラン、タイゼリヤ。JKと言えば大体ここでご飯を食べてダラダラしているイメージがあるだろう? 実際そうだ!
安いし、量も多いし、何より普通に美味しい。普段からお金のないあたしも、青原も同じく満足できそうなはずだ。
それに初めてだったなら、もっと新鮮味があると思うし!
店内に入って、2人用の席に誘導される。おぉ、青原と向かい合わせ! 何故か新鮮だ。
あー、そっか。いつも隣でいることや斜めからだから、目の前で話すのって意外とそんなにないのか。
「何にする?」
「え? いや。えっとぉ……。ちょっと待ってください!」
あれも美味しそうだし、これもよさそう。あー、何がいいかなぁ、って口走っちゃいながらメニューを選んでるのかわいいなぁ。
そんな真剣な顔にあたしもついニヤけてしまう。こういう天然というか、人が見てるところを気にしないのがまたもう、無防備だなー。
「気にしないで、あたしは待ってるからー!」
できればずっと見ていたい。デレデレのガチ恋勢だからだけど、全肯定してしまいそうだ。
青原がメニューを決めたところで、注文しようとしたが今度はあたしの注文が決まってなかったことに気付いてしまった。急いでミラノ風ドリアを頼むのであった。




