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Vtuberの陰キャとギャルが百合する話  作者: 二葉ベス
第4章:年始のような計画する毎日
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第54話:赤の勧誘。てこでも動かん女は強引に引っ剥がす!

「よっす、青原!」

「…………」


 うわー、とんでもなく集中してるじゃん。

 気さくに話しかけておいてあれだけど、こうやって過集中しているところに声をかけるの、お邪魔だったかなー。

 流石に上からだと本気であたしに気づかなさそうだし、とりあえず前の席にでも陣取って青原のことを見てるとしよう。白石くん、ごめんねー、ここちょっと使うからー。


「…………」


 それにしても、ホントに顔だけはいいんだよなこの女。

 顔を隠すようにひたすら生きているせいか、背中を丸めている様子しか見たことないけど。胸とか沿ったことあるのか? 実は胸を張ったら結構おっぱいでかいんじゃ……。いや、前に見たことあった気がするけどそんなになかったわ。

 真剣に考え事をしながら、描いては消してを繰り返している。スマホアプリってすごいなー。こんなちっさい画面でも絵がかけるんだから。

 でもやっぱりあたしが注目しちゃうのは、瞬きすら忘れてしまいそうなほど、ぱっちりと目を開けて、目の前の出来事だけを見つめた青原の姿勢だった。

 本当に好きなんだろうな、イラスト。あたしにはそういう突き詰めたものがないから、憧れるっていうか、素直にかっこいい。こういうときばかりは普段のおどおどした態度や落ち着かない仕草なんかはなくなっていて。

 立派なアーティスト。あたしの目にはそう映っている。


「……あとはここの髪飾りは、太陽で…………」


 青原はあたしにとっての新月だ。

 月の光は本来真っ暗な夜を少しだけ見えるように照らしてくれる。でも新月の日はそんな照らしてくれるような存在は見当たらない。当然だ。月が見えなくなってしまっているんだから。

 わたしなんか、わたしなんか。そう言って周りからは隠れて生活しているから、周りの人は誰も見やしない。今日もただ何もないが見えているから。

 でもあたしはふと気づいた。そこにいるのが当たり前かもしれないけど、空気みたいな存在かもしれないけど、新月の日でも月はそこにいるって。青原はいつもそこにいてくれているって。


「あたしならそこ、三日月とかにしたいけどなー」

「……そうですか」


 返事してくれた。やった!

 数秒後、硬直の魔法が解かれたようにゆっくりと青原が頭を上げる。

 目と目があった。


「よっ、青原」

「うわぁぁぁぁ!!!!!!」


 引くほどビビったのか、思わずのけぞる青原。そのままバランスを崩すように後ろから椅子が倒れていく。ちょっとそれはアカンっしょ!

 慌てて青原の腕を引っ張り、なんとか椅子からの転倒を防ぐことに成功した。あぶなー。


「はぁ……はぁ……びっくりしたぁ」

「めっちゃビビってるじゃん。草」

「何が草ですか! ホント……。心臓に悪いんでそれマジでやめてください」

「あたしはただ太陽より月のほうがいいなー、って思っただけだもーん」

「何がもーんですか、たく……」


 なんとか呼吸を整えようと、肩で息する彼女は胸に手を当てて、すぅーはぁーと深呼吸を重ねる。

 久々に青原をいじれて大満足だ。


 しばらくして呼吸が整った青原は、軽くお辞儀をして挨拶を返してくれると、あたしに話しかけた要件を聞いてくる。

 待ってました! 意を決して今回話しかけた理由を声高らかに宣言した。もちろんクラスのみんなには聞こえないように。


「デートしよ!」

「なっ?! なんでですかぁ……」


 ふふふ、どーせ否定的な意見から入るのは目に見えていたよ。あたしを誰だと思ってるんだ。青原ガチ恋勢の赤城露久沙だぞー?


「したくないのー?」

「べ、別に……。その、でも。お仕事とかありますし」

「恋人とのデートよりお仕事を優先するんだー」

「ご、ごっこじゃないですか」

「でも恋人だしー」


 まぁ、まだ告白の欠片も何ひとつしてないから、そういう逃げに走ったんだけども。

 ぶっちゃけ今回に関しては青原に何かお返しができればいいと思って、口にした恋人ごっこだったけど、思ったよりもそれが負担になっていたみたいだ。

 この子のことだ。どーせ自分の存在があたしの負担になるとかならないとかで、さっさと仕事を終わらせたかったに決まってる。それかお仕事の方を真面目に頑張りすぎて、あたしのことなんか目もくれてない場合も。

 だったらこの際、ハッキリ口にした方がいいに決まってる。


 このデートの目的は、青原の息抜きが主題だが、あわよくばあたしが告白する口実でもあった。


「でも、お仕事。早く終わらせたほうがリスナーの皆さんのためにもなりますし……」

「そうやって仕事を詰まらせてるの、割りと丸わかりだからね?」

「え……っ?!」

「配信でも割りと愚痴ってるし、ツブヤイターでも頭抱えてるの何回も見てるし。あたしだって音瑠香ちゃんファンなんだから心配するって」

「まぁ、うん……」


 どうして詰まらせているのかは知らないけど、大きなキャラデザが初めてということであれば悩むのも分かる気がする。

 でもそういうのは大体息抜きでシャワーを浴びたら案外すんなり出てくるものだと思う。にわか知識全開だけど、悩んでることってのはシャワー浴びている間にどっか行っちゃうものだ。


「じゃ、こうしよう! あたしプロデュースのデートプラン! 考えてあげる」

「あいや、でも行くって決めたわけでは……」

「全部あたしの奢りで、1日あたしを独り占め! こりゃあもう行くしかないよね!」

「あぁ、あの……」

「ね?」

「…………はぃ」


 我ながら強引すぎたかな。まぁ、こうやって強く腕を引っ張らない限り、椅子に張り付いててこでも動かずに絵を描いてそうだったから、たまにはこういうのも悪くないはずだ。


「大丈夫だって、配信のネタにもなるし!」

「ま、まぁ、そうですよね……」


 実際、何回か放課後デートみたいなことはしたけど、1日ずーっと青原と一緒にデートというのはやったことがなかったと思う。

 あいや。クリスマスのときは1日中ずっと一緒に居たか。でもあれは配信があったしノーカンというか。楽しいのと恥ずかしいので愛してるゲームから先、あんまり記憶に残ってなかったと言いますか。

 配信アーカイブを見て初めて気づいたよ。あんなにガチっぽく言ってたなんて。それに気づかない青原も青原だけど。


「よし! じゃあ今週の土曜日11時に駅の白いオブジェの前集合ね!」

「あ、はい……」


 よーし、約束はちゃんと取り付けた! 少々強引だったけど。

 なら今度は青原と行きたい最高のデートプランを考えなくっちゃ!

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