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Vtuberの陰キャとギャルが百合する話  作者: 二葉ベス
第4章:年始のような計画する毎日
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第45話:青の循環。まるで親が子供の漫画を隠すように

 キャラクターデザインの依頼。そして報酬が恋人ごっこをすること。

 一言で言ってしまえば、どういうこと? ってなってしまう状況が今のわたしが置かれているものだった。


「どうしてこうなった……」

「いやぁ! 面白!」

「笑うな緑茶!!」


 わたしがどうしようもなくキャパシティオーバーになったときに使う手その一。緑茶レモンさんとの通話だ。

 今日はお互いに配信もなく、わたしもレモンさんも作業ということで2人で通話しながら黙々と作業をする予定だった。まぁ、あくまで予定なだけで、実際にそうなるとは限らないのですが。


「誰だよこのレベリング考えたやつ! これだからRPGはめんどくさいんだ!」

「そのゲーム選んだのレモンさんじゃないですか」

「だって人気だって言うじゃん、ミニチュアモンスター! 人気作には乗っかりたいんだよ」


 俗に言うモンスターの育成要素があるRPG。普段はずっとFPSばっかりやっているレモンさんだ。きっとレベル上げが極めて面倒くさく、さっさと放り投げたいけど、配信してしまった手前ちゃんとクリアしなくてはいけないだろうな、という使命感にかられているんだろう。


 でもこの緑茶レモンさんを表に出したいかと言われれば、首を横に振る。

 普段からちょこちょこ暴言は出てくるけれど、それがお茶っ葉系妖精幼女としての設定があるから許されているのであって、いま目の前にいるレモンさんはきっとただの年上のお姉さんだ。キャラ崩壊もいいところ。


「んで、どうなの?」

「どうって……?」

「オキテちゃんとの進捗は」

「どうって。進捗皆無ですけど」


 キャラクターデザインを一から掘り起こすと言うのはなかなか大変だ。描いてはボツにして。描いてはボツにして。そんなことをだいたい10回は繰り返している。

 明確にいつまでにキャラデザを上げてほしい、という期限は決まってないものの、それでは示しがつかない。なんとか早いところラフぐらいは仕上げなきゃ……。


「いや、そっちじゃなくて」

「そっちって、どっちがあるんですか」

「オキテちゃんとの恋人ごっこ」

「ぶっはっげほげほっ!!!!」


 JKが出してはいけないような声が出た気がするけど、まぁわたし陰キャだしそういう声も出しちゃうっていうか。じゃなくって!


「い、今オキテさんは関係ないじゃないですか!!」

「でも今は恋人なんでしょ~?」

「違います! あっちが勝手に言ってるだけです!!」


 期限が決まってないからさっさと終わらせたい理由はもう1つある。

 オキテさん、赤城さんとの恋人ごっこというのが恐ろしすぎて、早く仕事を終わらせたいのだ。

 だ、だだだ、だって! 相手はあのギャルで聡明で、明るくみんなに優しい赤城さんだ。そ、そんな人とわたしなんかが……。失礼。わたしがごっことは言えども、恋人をすることになるなんて思いもよらないじゃないですか!

 確かに最近妙に距離感が親しげに見えるし、ボディタッチもさり気なく指先の方からしてくるけど! 表情もやたら豊かで、星守さんも「いや、あんな恍惚としたメスの顔してるつゆ見たことねぇよ」とか言われる始末!!

 どっからどう見ても、勘違いされる要素しかない!

 だから早いところこんな関係終わらせて、いつもの相方としてのオキテさんを取り戻したいんだ!!


「ふ~ん。でも音瑠香ちゃんも乗り気じゃないの?」

「そ、それは……。まぁ。相手は百合営業を仮にもしてる人ですし……」


 もう1つあるとすれば、わたしが心の中で拒みきれてないという点だ。

 このまま進んでしまったら、わたしのあるべきオキテさんの姿が崩壊してしまいそうで、それが少し怖かった。

 わたしの勝手なイメージだ。だけどオキテさんはみんなの太陽で、みんなから愛されて。特定の誰かを贔屓目で見るような、そんな人ではない。

 わたしだけを見るような人じゃないんだ。


「わたしだけ見てほしいとかじゃなくて、あの人にはみんなを見てほしいから」

「…………音瑠香ちゃん、面倒くさいね」

「まぁ、陰キャですし」

「そうでもあるけど、自分のイメージを勝手に押し付けてる辺りとか」


 自分でも面倒くさい自覚はある。

 確かにわたしだけを見てもらえるときはとても嬉しかったりする。

 赤城さんと一緒の下校時間。オキテさんと通話している時間。露草さんと配信で喋っている時間。そのすべてがわたしにはもったいないものに思えて。

 だからオキテさんが普通の朝活してる時が1番落ち着くんだ。コーヒーを飲んで、ROMしながら朝食を食べる。この瞬間がわたしは彼女にとって誰でもないんだって思えて、ざわついていた心が少し落ち着く。


「レモンさんってかなりズバズバ言いますよね」

「ウチの推しカプだからね~」

「今は誤魔化しましたね」

「はっはっは!」


 こいつ……。


「でもマジで付き合ってんじゃないの、とは言われてるよね~」

「まぁ、エゴサしたらそういうの出てきますね」


 わたしだって他人の評価は気にする。自分の名前でエゴサしたり、カプ名で探したりと。

 そうするとちらほら出てきたりするんだ。1件2件ぐらい。おきねるは付き合ってる(断言)みたいなありもしない世迷い言が。

 大体オキテさんはもっとモテるんだから、他の人に目を向けるべきなんだって。わたしなんか……じゃない。わたしばっか見ないでほしいよ、ホント。


「ここだけの話、オキテちゃんのこと、どう思ってるの?」

「どうって……」


 そりゃあ感謝してますし、わたしと絡んでくれて嬉しいですよ。

 でもそれとは別に、他の人にもちゃんと目を向けてほしいというか、わたしなんか……よりももっと素敵な人がいるんだから。


「やっぱ音瑠香ちゃんって面倒くさいね~」

「今の聞いてどうしてそう思うんですか!」

「音瑠香ちゃんは素直じゃないからさ~、建前はいいとして、本音はどうなのかな~って」

「本音、ですか……」


 本音、と言われても。わたしが思いつくことはやっぱりさっきのことで。

 自分でも分からないといった方がいいかもしれない。同じ陰キャの人がわたしを好いている、とかなら百歩譲って分かる気がする。同志目線とか、そういうので。

 でも赤城さんに関しては、どうしてなのかが分からない。どうして恋人ごっこを提案したのか、どうしてわたしと仲良くなりたいのか。真実は別にある気がして、怖いんだ。

 どこかに本音を隠してしまって、わたしはそれを見つけられない、と言った方がいいのかもしれない。親が子供の漫画を隠すように。


「わたしも知りたいです、自分の本音。そうしたら、もっと素直になれるんですかね」


 自分だって面倒くさい生き方は嫌だ。けれど、真っ直ぐな生き方ほど向いていないものはない。

 だから今日も面倒くさく寄り道する。相手のことだけ考えて。


「じゃあゆっくり探していけばいいさ。もう少し経ったらバレンタインだし」


 バレンタイン。バレンタインかぁ。

 ……ど、どうしよう。手作りとか、わたし無理なんですけどぉ?!

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