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Vtuberの陰キャとギャルが百合する話  作者: 二葉ベス
第3章:聖夜のように綺羅びやかな毎日
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第36話:青の聖夜。好きな相手、おりゅ?

 あまりの真剣な声に思わず視線がオキテさんの方へ向く。

 強い眼差し。熱のこもった、少し息苦しさも感じてしまう吐息。

 生唾を飲み込む。そんな目で見られたら、わたしはどうしたらいいか分からなく――。


「好きだよ、音瑠香ちゃん」


 心臓が大きく跳ねる。まるで魔法のように耳に入った愛情の二文字は、脳内を侵食する。

 好きって、わたしのことが好きってことなの、オキテさん。いや。いやいやいやいや、これはゲーム。ゲームで愛してるゲームで口にしているだけだ。彼女がわたしに対してそんな感情を持ち合わせているわけがない。第一、わたしなんかよりももっと素敵な相手はいるでしょ。こんな自己承認欲求しかないような女のことなんて……。


 でも、そんな真面目な好きを囁かれて、照れないわけもなく。


「はい赤くなったー! あたしの勝ちー!」

「あ……」


:オキマシタワー!!!

:キマシタワー!!!

:てぇてぇ……

:仰げば尊死……

:生きててよかった……

:良……

:これはガチ営業


「あっ……」


 そうだ。今は配信中だ。配信中になにガチ照れしてるんだ。切り替えろ切り替えろ! 頭にこびりついて離れない言葉をなんとか引き剥がして、悪態をつけるんだ!


「どーーーーよ! あたしのガチ演技はさ! じゃあ音瑠香ちゃん自語り1個ねー!」


 う、うん。そうだ。演技だ。彼女も言ってる。ちゃんと演技だから今の言葉なんて、ただの口からでまかせ。百合営業なんだから、ビジネスラブなんだから当然なんだ。


「じ、自語りって言っても、特には……」

「何もないの? 参考書一緒に買ったこととか」

「あー、あるね。最近キャラデザの参考書買ったね」


:一緒に?

:おお、流石未来のイラストレーター!

:勉強熱心やなぁ

:一緒に?

:いま、一緒にって言った?

:デートしたんか?!


「あー、っと! 今のは口が滑ったなー」

「絶対わざとでしょ!」


 そう。ただの演技だから、それ以上でもそれ以下でもない。

 だから今の言葉に、好きには何もないんだ。例えすごい熱があったとしても、それは紛い物なんだ。

 それはそれとして言われたままなのは癪だ。こういう勝負事に置いて、真っ先に優先すべきなのは必ず勝つこと。そして不意打ちだ。

 幸いにも今、オキテさんは油断をしている最中だ。赤い忍者も言ってた。アンブッシュは一度だけなら許されると。気付かれないようにそっと耳元に近づく。


「ん? どしたん?」


 わたしはニコッと笑って、それから偽りの愛の言葉を口にする。


「わたしも好きですよ、オキテさん」

「っっっ?!!!」


:おっと?!

:反撃だ!!

:てぇてぇ~~~~~!!!!

:これは不意打ちだぞ!

:秋達音瑠香、卑怯なり!!

:これは卑劣

:不意打ち囁きは愛の特権


 見てみろ。へへっ、耳を抑えて顔を真っ赤にしてすっごい照れてる。可哀想なギャルめ。かわいいぞ。へへへっ!


「あ、あああああ、あんた、それはないっしょ!!」

「これは百合営業以前に決闘だからね」

「こいつぅーーーーーー!!」

「ほら、自語り」


:音瑠香ちゃん、急にマウント取り始めおった

:さっきまで照れてた女とは思えない

:ゲスい

:これは陰キャ

:さすが陰キャ


「い、陰キャじゃないし……」

「さすがのあたしもドン引きだわ……」


 え、そんなに悪い事したかな? まぁ、アンブッシュ――不意打ちは卑怯だとは思うけど。

 でも好きでもない女の子に好きって言われても照れないでしょ。


「はい自語りして」

「……ぅーーーー。あ、そうだ」

「ん?」


 オキテさんが何かを思いついたように、今度はわたしの方にニヤニヤと口元を歪めながら寄り添ってくる。何だ、気持ち悪いぞ朝田世オキテ! こっちに寄ってくるな!


「あたし、ずっと悩んでたことがあってさ」

「あ、はい……」


 さっきの嫉妬の話かな? でもそれはわたしとにか先生が喋ってたら起きた、って言う話だし。直近で何かを悩んでたことってこの人にあったのかな? ギャルだから悩み事なんてパーリーでピーポーに解決すると思ってたんだけど。


「最近よーやく解決したんよ」


 解決? 最近ってことは今日じゃないってことか!

 はー、よかったー。もしかしたらこのまま悩みに悩んで、Vtuber引退とかそういうのされたら困っただろうし、安心だ。

 さてさて、どういうことか聞いてやろうじゃないか。


「あたし、好きな人ができたんよね!」

「ゲホッゲホッ!!!」


:今かよ!!

:くっそむせてて草

:これは不仲営業

:オキテちゃんのガチ恋……あっふーん

:あっ

:あぁ……

:草


「え、みんなオキテちゃんの好きな人分かるの?!」


 本気で?! わたし全然思いつかないんだけど。

 んー、舞さんはちょっと違うというか、悪友って感じだし、わたしはないとして。後はやっぱり……! にか先生、ってこと?!

 あー、なるほど。やっぱりわたしの慧眼は正しかったってわけか。わたしがオキテさんとにか先生の間に挟まったばかりに。百合と百合の間に挟まるのは死刑にされるから、そういうのは良くない。うん、実によくないね。

 ってことなら、わたしは潔くクールに去るとしよう。


:いや、うん

:気付いてないの?!

:え?

:ん?

:あっふーん……


「その『お前だけ分かってない』みたいな顔するのやめてもらっていい?!」

「実際分かってないでしょ」


 全くそのとおりでございます。

 が、それを煽られるのは嫌なので、分かったフリをしておきます。


「いやいやいや、分かってるって。にか先生でしょ?」


:…………

:え?

:あっ

:ふーん……

:オキテちゃんも大変やな


「オキテさんも、なんで頭抱えてるの?」


 ……おかしい。なにか、世界がおかしいのかもしれない。

 オキテさんの好きな人。オキテさんの好きな人。オキテさんの好きな人。

 どうしてだろう、ちょっともやもやするというか、誰なんだよホントに! オキテさんの好きな人って! わたしがいの一番にご挨拶に上がって、結婚おめでとうって言いたいのに!


 まぁそれから何度かゲームをしたけど、オキテさんは負ける度に「あたしには好きな人がいる」の一点張りだった。何が罰ゲームだ。同じ言葉を繰り返したって意味がないだろ。

 というかオキテさん、負けすぎなんだよ。真正面から言っても、ちょっと緩急つけてもすーぐ真っ赤になる。わたしの方がよっぽど愛してるゲームに向いている。

 オキテさんは最初の一回がものすごくて、次以降はなんかそっと背中を撫でてくるような言い方で、照れはしなかったけど恥ずかしかった。なんか生殺しにされているような、そんな感じ。

 で、でもわたしの回では大体一撃で仕留めてるし。

 だからわたしは強い! オキテさんは弱い! 以上!


「お、今日はこんな時間かー! じゃあ終わりの挨拶しよっか!」

「う、うん……」


 なんとなく、へその下辺りがムズムズしてる気がするけど、多分気のせいだと思いたい。

 生殺し感覚の愛の言葉のせいだ。誰だってそうなるもん!


 それから今年の配信予定を伝えてから、配信を閉じた。

 視聴者はかなり居たらしく、チャンネル登録数も300人を越えようかというレベルにまで達していた。

 まぁ、オキテさんと比べたら雲泥の差なんだけども。


「お疲れ様です」

「ういー、おつかれさん!」

「もう夜遅いですけど、お迎えとかあるんですか?」


 そういえば時間にしてみればもうすぐ23時になろうとしている。

 いくら都会とは言え、こんな時間に女の子1人は流石に危ない。誰かにお迎えを用意してもらうのだろうか。と思っていたところ、赤城さんの答えは別だった。


「うんや。青原んところに泊まろうかと」


 ……ん?


「え。なんて言いました?」

「青原の家で、お泊り!」


 やけに太陽が似合う笑顔が輝いて、わたしという名の存在が灰や塵に変わる瞬間だった。

 は? わたしの家でお泊り?! 聞いてないんですけど!!

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