第32話:青の聖夜。ショッピングはデートに入る?
「クーリスマスが今年もやーてくるー……はぁ……」
ちょっと前なら去年同様、ひとりぼっちのクリスマスに人気Vtuberの配信を見ながら、寂しく焼き鮭を食べると考えていたはずだ。
でも今年はそんなこともなくて。大きな駅の謎の白いオブジェクトの前で1人寒さに耐え忍ぶ浮かれた女になっている。
フフフ、これでわたしも陽キャの仲間入りだ。なにせクリスマスに用事があるということはリアルが充実しているってこと。リアルが充実してたら、それはもう陽キャの仲間入りなのだ。浅い考えだと? わたしもそう思います!
とは言え、ごった返す人並みの中は結構神経を使う。誰かに当たらないようにだとか、これから会う人のことを考えて見つかりやすいところに位置取りするとか。
あとは、そう。服も。
ファッションセンスがないわたしなりに数少ない休みの日にファッションセンターに行って、似合うかなぁ? っていう服を取り揃えた。安いって言ってたけど、上から下まで取り揃えるとなると、結構お金かかるんだよね、服って。今まで興味がなかったから目にしてこなかったけど、あのギャルっていつもこんな出費してるんだ。……お金使い粗いのでは?
「まだかなぁ」
なんというか。周りが男女と一緒にデートしている姿を見ると、わたしたちは女2人で何をしているんだろうって考えるわけで。
そりゃクリスマスイブなんだし、チキンとか鮭とか飲み物惣菜類を買いに行くわけだけど。あと、クリスマスプレゼントとか渡したり。
これでもたくさん準備はした。この日のためにレモンさんやにか先生という数少ない大人……らしき人たちの力を借りてみたけど。1番肝心な相手に伝えられなきゃ話にならない。よく創作では言葉にしなければ伝わらないと言葉にすることがある。逆に現実では行動で察しろと言われることもある。それが苦手でわたしは陰キャをしてるし、今もあのギャルが何を考えているのか分からなかったりする。
だから今日は準備したんだ。そんな感謝の気持ちを伝えられるように。
「おっす」
耳に慣れた明るく可愛らしい声が届く。声のした方向に首を傾けると、夏がよく似合う明るいブラウンの髪の毛が目に入った。
「あっ、おはようございます」
「ういー!」
赤城さんだ。
赤城さんは笑顔で両手の平をこちらに向けてくる。ん? どういうこと?
はてなマークを頭にいっぱい浮かべたわたしを察するように、赤城さんはガックシと肩を落とした。
「こういう時はハイタッチっしょ」
「……陽キャみたいなことしますね」
「よう……? みんなしないの?!」
「しませんよ。少なくともわたしはしたことないです」
「あー、青原友だちいないもんなー」
友だち居ないは余計だこの野郎。
そんな事を心の中でぼやいていると、赤城さんからの謎の視線が上から下までなぞられる。
なに。なんですか。わたしやっぱりこの衣服ダメだったりしましたか?!
心の声を見透かしたように、彼女は呟いた。
「いや、かわいいんじゃね?」
「へ?」
「……あっ! まぁいいね。うんいい。とてもいい」
「なんで言い直したんですか」
「えへへ、なんとなく」
かわいい。そっか、かわいいか。
ならちゃんとファッションした甲斐があると言いますか。こういうファッション力っていわゆるキャラデザにも通用するわけで。自分の画力もそうだけど、キャラデザが散々なのは音瑠香のパジャマ on エプロンで分かってるから、自信がなかったんだけど……。
かわいいんだ。そうなんだ。
「じゃ、ちゃちゃっと買い物済ませちゃお! 早く青原の家で暖まりたいし!」
「そうですね。ここ、寒いですし」
ちゃんとした大きな駅だからこそ隙間風などは一切入ってこないが、それでも自動ドアが開け閉めされる度に押し寄せてくる寒気に身を震わせる。
早く中に入ろう。買い物して、さっさと帰ろう。暖かい家が待ってる。
さっそくデパートに入ったわたしは、食品類が置いてある階へと行こうとするが、待ったをかけるのがこのギャルである。
「うわっ! このデパコスかわよ! 見てよ青原!」
「買い物するんじゃなかったんですか?」
「いーじゃん、こういうのは見て楽しむのありっしょ! ウィンドウショッピング、ってやつ!」
「いや、でも……」
わたし、お化粧したことないしなぁ。
香水はもちろん、ネイルアートなんて夢のまた夢。というか現実でわたしがそんな物をつけるの? って聞かれた時は多分NOって答える気がする。
人には似合う似合わないがあって、わたしには似合わないもの。そうなのだ、いくら爪をギラギラさせようが、目の前にいるのはただの陰キャ。可愛くなろうとしても影なる気配がギラギラのラメを曇らせるに違いない。
「って、なんで商品とわたしを見比べてるんですか?!」
「や、青原に合うやつないかなー、って」
「買いませんよ?!」
このギャルのマイペースっぷりも相変わらずだ。
この前のが何だったのかは分からないけど、いつもの調子に戻ったのなら問題はない、か。
ま、しばらく付き合ってやるか。
「てか青原って化粧水も使ってないカンジ?」
「強いて言えば百均のやつとか」
「オタクってマジで人間捨ててるな」
うるせぇ。赤城さんの言っている100割ぐらいは間違いなくそうだけど。わたしの場合一人暮らしでだいぶアップアップしているというか。親から仕送りしてもらいながら、ペンタブもってなったら親から結構な額の借金をしているわけで。1日の最低限のものしか買えないんだよなぁ。おかげで推しのグッズとかゲームも買えないし。
はぁ、石油王にスパチャしてほしー。収益化通ってないけど。
「そんなんでよくこのもち肌なー」
「いひなひなんでふか!」
「……なんでもないよー」
照れたのかなんなのか。いきなりわたしの頬をつねってきたと思えば、そのまま振り返って距離を取る赤城さん。ほんと、このギャルの考えていることはよく分かんないや。
「うっし! じゃあデパコス欲も満たせたし、食品売り場行こ!」
「だからそう言ってたじゃないですか」
「イッヒッヒ! ごめんごめん!」
赤城さんの情緒がよく分からないけど、まぁ今がご機嫌そうだから問題ないか。
わたしたちは下の階にある食品売り場へとエスカレーターで下っていくのだった。




