第24話:青の唖然。めちゃめちゃ登録者数増えてる
「めちゃめちゃ登録者数増えてる……」
あれ、わたしまだ70人ちょい手前だった気がするんだけど。配信が終わって気付いたら100人超えてる……。超えてるの?!! なんで?!!!
さっきの配信で30人以上増えたってこと?!
『おぉ! めっちゃ増えてるじゃん! 100人おめー』
「なんで、こんなに……」
結果として百合営業は成功したかもしれない。
と言うより、何故かオキテさんが吹っ切れて傍目から見たら、イチャイチャしてるJKの図にしか見えなかっただろうけど。けど、オタクってこんなに単純なの? 女が2人で会話してるだけで登録者数30人も増えるもんなの?!
『そりゃー、音瑠香ちゃんがあたしに百合営業してくれー、って言ってくれたからだもん。このぐらいはトーゼンよ、トーゼン!』
「あなた1回断ったでしょうが?!!」
『何の話かなー?』
このギャル……ッ! わたしがちょっと心を許したと思ったらこんなにもつけ上がりやがって。
……ん? わたし、心を許したつもりはないけど、でも自然と会話できてる気がする。
「オキテさん、わたしの声、震えてます?」
『うんや。全然! むしろいつもよりテンション高いぐらい』
「でしょうね……」
わたし、いつの間にかオキテさんへの、赤城さんへの苦手意識が薄れていたんだ。むしろちょっと楽しいっていうか。自分にはないものを持っているから、接していてこっちまで明るくなれた気持ちになると言いますか。
なんか……。
「ムカつく」
『えっ、どうした?!』
「いや、なんでもないです」
どう考えたってわたしが悪い。心を許して、変われた気になった自分がこいつのせいだと思ってしまうことが。悔しい。けど、嬉しい。そんなループを繰り返して、ちょっとばかし自己嫌悪。
まぁ、起こってしまったことはもうしょうがない。取り返しがつかないんだったら、とことん付き合ってやるよ!
「それより百合営業、するってことでいいんですか?」
『……あー、そのことなんだけどさ』
と、オキテさんにしては珍しく渋った声を出す。どうしたんだろう。配信ではあれだけ百合営業するかしないか、みたいな話を冒頭にしたくせに急に日和りやがって。
『なんというか、あたしも音瑠香ちゃんも、お互いのことあんま知らないじゃん? だからそれまでは保留ってことじゃ、ダメ?』
普段は即断即決、思い立ったが吉日みたいな性格をしているくせに、百合営業に関しては意外と考えていたんだなぁ。それもそうか、ドタキャンで百合営業やめようって持ちかけてきたのは他でもないオキテさんだったわけなんだから。
確かにわたしはオキテさんのことを、赤城さんのことをあまり知らない。
何が好みなのか、何が嫌いなのか。ランニングするにしても朝何時ぐらいに起きてるの? とかそういう大雑把で浅いところから始めてもいい。とにかく、お互いのことを知ってからでも遅くはない、というのが彼女の見解なようだ。
もちろんそれには同意する。わたしもちょうど知りたいところだったし、向こうだってそうだろう。
だからちょっとした疑問を解消しておくべきだとも思った。
「じゃあ、これからコンビというか、タッグでVtuberやるってことでいいんですか?」
それまで保留、なら一緒に居て判断しなくちゃならない。
ってことはそれまでは2人で活動することも増えるということ。オキテさんはそれでもいいんだろうか?
でもしばらく考えて、聞いても無駄だったかもしれないな、という気持ちにもなった。次の答えはなんとなく想像がついていたから。
『当たり前っしょ! これから音瑠香ちゃんの配信に行くし、モデレーター権限? もあげるし! だからあんたもちゃんと来てよ。あたしのことを推しになってもらわないと困る!』
まぁ、そうなるよね。
「分かりました。ならオキテさんにもモデ権あげるので、いつも通り来てください。推しなんですもんね」
『分かってんじゃん! やっぱ音瑠香ちゃんは話が通じるなー!』
もうだいぶ慣れてきたし。
別に一緒にいることが、とかじゃない。ノリとか、勢いとか、そういうあれだ。きっと。
『分かったついでにもう1個。あたしのこと、そろそろタメ口で話してもよくない?』
「えっ?!」
『だって元々青原があたしに対して敬語だったのって、なーんか知らんけど心の壁があったからで、今はそれないんだったら、いらなくない?』
いや。いやいやいや! それはなんというかその。なんかの最終防衛ラインが敬語にあるのであって……。じゃない! 陰キャから敬語を抜いたら、ただの失礼がまかり通るような末法めいた世界観になってしまわないか?! 銃と煙が織りなすスチームパンクアポカリプスの始まりだ。
「い、嫌です……」
『なんでぇー?! 音瑠香ちゃんの時はタメ口だったじゃん!』
「それとこれとは別といいますか……」
『別でもなんでもなくない?! はー、青原ってめんどくさいわ』
えぇえぇそうですとも。陰キャはすべからく面倒くさい生き物なんですぅー!
陽キャでギャルの赤城さんには絶対分かってもらえない領域ですとも。
『よし決めた。絶対青原にタメ口言わす』
「こ、こわ……」
『だって、そっちの方が可愛かったじゃん! あたしは可愛い女の子のタメ口聞きたいんだよ!』
「か、かわっ?!」
『青原はもっと自信持っていい。地味だと思ったけど、よく見たら普通にかわいいし。あたしがいろいろ教えたげっからさ!』
「か、勘弁してくださいよ……」
それからおよそ1時間ほどの美容講座を頂いた後に通話を切った。
また今度。その時はあたしんとこの配信枠でもやろうぜー、と約束をして。
なんだかんだ、話してて楽しいからずっと喋ってちゃうんだよなぁ。これがギャルの強み。会話の魔術師なのかもしれない。
と、SNSツール、デコードを閉じて寝ようとした矢先だった。1通のメッセージが届いてるではないか。相手は……。あー、悪ノリしてきた女か。
:秋達 音瑠香@セルフ受肉Vtuber
百合厨は今日も元気だね
メッセージを打ち返すと、数秒でまた返ってきた。
:緑茶 レモン@お茶っ葉妖精幼女
へっへっへ、ごちそうさまです
こいつ……。
レモンさん、コメント欄にポップしてたけど、やっぱり百合の匂いを嗅ぎつけてやってきたか。というかわたしの初コラボ配信だったから来てくれた可能性はあるけども。
どちらにせよ心強かったのは間違いない。1つ、本人が百合厨のカプオタクでなければ。
:緑茶 レモン@お茶っ葉妖精幼女
音瑠香ちゃんにあんなカップリング相手がいるなんて思わなかったよぉ!
:秋達 音瑠香@セルフ受肉Vtuber
別にカプでもなんでもないし。なんか用?
:緑茶 レモン@お茶っ葉妖精幼女
茶化しに来ただけ。お茶っ葉妖精としてwwwww
目の前に居たら手が出てしまうところだったかも。
デビュー当初から仲は良かったし、何度かコラボにも誘われたことはあった。でもFPSゲームはからっきしだし持ってないゲームが多くてできなかったんだよね。
だから今日という日まで初コラボなどはなく。だからちょっと気まずくはあったんだけど……。
「この調子なら、普通にてぇてぇ接種して凸してきただけかな」
百合営業、というか百合というジャンル自体をこの緑茶レモンとかいう幼女から教えてもらったのだ。要するにこいつが戦犯である。
一応ナマモノだって言うのに、この人は……。呆れながら返事をして、そろそろ寝ることを伝える。もう深夜の1時だし、ふあぁ……。流石に眠気が限界だ。
:緑茶 レモン@お茶っ葉妖精幼女
オキテちゃんのこと、大事にしてあげてねぇ
「急に年上ぶりやがって」
もちろん、言われなくてもそうするつもりだ。
ちゃんと友だちとして。わたしの、コンビ相手として、ね。




