第22話:青の告白。わたしを支えてくれたのは……
それから赤城さんは忙しいようで、何かと理由をつけてわたしといる時間を避けている気がした。
わたしだって何度も声をかけたけど、それらしい言い訳をされた後に必ずどこかへ逃げてしまう。それじゃあもう相談なんてものも出来なくて。
連絡用SNS、デコードでも突撃してみたものの、通話に出る機会もない。
コラボの内容だけをメッセージとして淡々と送った後はそれっきりだ。わたしがとにかく話しかけなきゃって思っても、向こうがこの調子なんだからどうしようもない。
そしてコラボ発表をして、今がそのコラボ開始30分ぐらい前だった。
今から通話をして、諸々の準備を進める。わたしも赤城さんもパソコンには強い方じゃないし、初めてのコラボだ。それを加味したらそのぐらい時間を多く見積もっておいた方がいいと、わたしが打診した。
本当はこの時間を使って話し合いをするためでもある。もう、このタイミングしかないんだ。
通話をかける。1コール。2コール。3コール目の途中で、彼女は通話に出た。
『……おはよ』
「おはようございます……」
やっぱりなんとなく気まずい。百合営業をするかしないか。そこを曖昧にしてから話が全然進んでいないんだ。当然というべきか。
とにかく、配信回りの設定をした後、10分ぐらい話す時間があるはずだからそこでオキテさんがわたしを避ける理由を聞くしかない。
「音声確認は大丈夫ですか?」
『うん……多分大丈夫』
「画像もあれでよさげですか?」
『うん……大丈夫』
テンションが低すぎてやってられない。こんなオキテさんをリスナーだって見たくないだろうに。
わたしの方はなんとか配信設定を完了させた。時間はまだ15分残っている。だけどオキテさんの方はまだ時間がかかりそうだった。Vtuber始めたてだし、PCも最近買ったって言ってたからなぁ。ならわたしがお手伝いしないと。
「あの……。大丈夫そうですか?」
『……うん』
この女……! 流石の反応の悪さにちょっとムカッと来たぞ。
落ち着こう。おち、おちちちちちちつかない!!!! あーもう、勝手に百合営業しようって言ったのはわたしだったけど! そんなに気負うことでもないじゃんか! もう断った話なんだし。
まぁ断っても、わたしと百合、つまりビジネス的に恋人になろうって言ったことは変わらないわけで。なんか一周回って頭冷えてきた。結局悪いのはわたしだ。
「……なんか、ごめんなさい」
『へ?!』
「だって、百合営業だなんて変なこと言い始めたのはわたしなんだから、謝るべきかなって」
コラボしよう! までなら絶対どうにもならなかった。
これから一緒にゆっくり遊ぼうね! って、友だちの関係でいられたのに。
じゃあなんであの時わたしは百合営業しようって言い始めたんだろう。ここしばらくずっと考えてた。で、答えが一応出せたには出せた。
『なんでさ! 今の、どう考えてもあたしが悪くない?! 急にドタキャンしてさ!』
「それでも嫌だったことには変わりないじゃないですか! じゃあどうするって、避けるしかないの、わたしでも分かります……」
『うっ。それは、あたしが勝手に自分の意見ばっか押し付けただけで、さ……。悪いのはあたしだし……』
「いや、わたしが悪いのは譲りません! そもそも百合営業しようって言いだしたのが事の発端なんですから!」
『ま、まぁ。それはそうだけどさ……』
だから。ちょっと恥ずかしいけど。目の前にいるのは友だちの朝田世オキテさんだから。リアルだったら気まずくて目線を合わせられないから、今はVtuberでよかったと思った。
「わたし、憧れてたんです。1人じゃなくて、誰かと一緒の。その、タッグとかコンビとか、そういうのに……」
『……そ、それで百合営業?』
「ちょっとドン引きですよね。でも恋人って一番繋がりがあるような気がして……。って、何言ってるんだろわたし。恋人も別れるときはすぐ別れるし、だったらコンビとかタッグの方がいいはずなのに……」
多分わたしの選択が間違っていただけで、オキテさんと一緒に活動したかったのは確かだった。オキテさんとにか先生みたいな親子の関係性もない。他の人のようなコンビ、タッグで活動する相手もいない。
そんなわたしが誘えたのは、リアルも知っている赤城さんに、オキテさんに他ならないんだ。ずっと見てくださって、こんなに推してもらって。だからその恩返しがしたかった。わたしなんかを推してくれてありがとうって。
「1人でVtuberになって、1人で活動して、これでもかってぐらい周りが伸びていくのを見て。正直辛かった。でもやめようと思ってもやめられない理由に露草さんがいて、わたしの活動を支えてくれるんです。そんな相手だからどんなことにも答えられるようになりたい。だから百合営業だったんです」
1人っきりで、いつ辞めるかも分からない不安定さだったけど、露草さんが、オキテさんが、赤城さんがいてくれたから今もここにいることができる。たった1人、頼れる相手だから。
『あたしの、こと。そんなに考えてくれてたの……?』
「変ですか? だって、たった1人のファンですし!」
『……ひっく。ずずず』
「え、オキテさん?!」
『やば。泣いた』
「えっ?! あと5分ですよ?!!」
『ひぐっ……やば……。準備終わんない……』
「わ、分かりましたから! 枠をこっちだけにして、そっちは誘導枠ってことで!」
『ぐす……おけ』
はぁ、もう。本当は言うつもりなんてなかったのに。
陰キャに「ギャルが頼れる相手です」って言いたくないじゃないですか。その辺の気持ちぐらい察してくださいよ、まったく。




