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Vtuberの陰キャとギャルが百合する話  作者: 二葉ベス
第2章:仲良くなるように営業する毎日
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第17話:青の通話。なら百合営業、はじめましょうか

 頂いてしまった、ギャルの連絡先を。

 思わずスマホを持つ手が震えてしまう。だってそうでしょ! クラスカーストトップのギャルの! 赤城露久沙さんの連絡先! これは何一つこちらから連絡することもないですねー。意外にもVtuber御用達のSNS連絡ツールだったし、誰かと通話したりしたのかな。


「……何だこの気持ち」


 こう、胸の奥がちょっとモヤっとしたというか。いや、なんでモヤついたのか分からないけど。だって赤城さんにだって友だちはいるだろうし、なおさらオキテさんの方なら多数の陰キャ共の気を引いているはず。だから通話の1つや2つ普通にあるでしょ。当たり前。そう、当たり前だ。

 この変な気持ちは置いておこう。本能が言ってる。絶対邪魔になるって。

 壺の中に押し込んで、ぎゅーっと瓶の口を締めて。よし、これでおっけい。


「って、あのギャル行動力の化身か?」


 通話が来た。早速ギャル、もとい赤城さんからの連絡だった。

 なんだか胸の奥のモヤッとした気持ちが減った気がするけど、多分気のせいだと思う。断る理由もないので、わたしは彼女からの通話をオンにする。


『おはよー、って時間は夜か!』

「こんばんは、ですかね?」


 今更だけど、相手が露草さんだから敬語をやめてもいい気がする。普段の配信はタメ口だし、ツブヤイターのお返事もいつもラフだ。でも相手が赤城さんだと分かってからというもの、相手が露草さんだと分かっていても、割り切れない気持ちにいる。

 割り切れない自分が面倒くさいなぁという気持ちと、通話できてちょっと嬉しいなって気持ちがごっちゃになる。わたしってこんなにごちゃごちゃ考えてたっけな。


『んー、もうタメでよくない? お互いバレちゃったわけだし!』

「そっちは自分からバラしにいったじゃないですか」

『あはっ!』


 あはっ! じゃねぇよ! 結局なし崩し的にわたしもバレちゃったわけだし、確かにこの際タメ口でも構わないとは思う。

 向こうもそう言ってるし、相手は露草さんだ。いつもタメ口で話している。うん。話してた。


『ねーね! あたしのことは朝田世オキテだよ? ほらタメ口!』

「え、えぇっと……」


 ダメだ。赤城さんとオキテさんが頭にチラついて敬語でしか話せない。タメ口って、こんなに話すの大変だったっけ?


『まぁいっか。それは後々ってことで』


 後々はタメ口で言わせる気なのか。まぁ元々がそうだったわけだから元に戻る感じになるんだけど、チラつく顔がクラスカーストトップと新人Vtuberの期待の新星なわけで。やっぱり劣等感は感じてしまうよ。


「今日は何か用事があったんですか?」

『うん、そーそー。改めてお互いを認知したわけだし、決意表明みたいなのをね!』


 決意表明? 何の話だろう。

 「宣誓! あたしは登録者数1000人を突破して収益化することを誓います!」みたいなこと?

 少なくともわたしの前では絶対やめてほしい。ただでさえ今は70人行くか行かないか、みたいな瀬戸際に文字通り桁数の違う戦闘力を持ち出されても、わたしが息絶えるだけなんだが。


『あたしね、あんたを有名にしたいんだよ!』

「……ん?」


 ユウメイ? それって有名ってことですよね。なんで?

 律儀に聞いたら律儀に答えてくれた。


『あたしは思うんだよ。音瑠香ちゃんはイラストは超プロだし、声もクールで素敵だし、反応だってこんなにかわいいんだからもっと伸びるべきだ! って思って』

「んへへ、いやそんな。えへへ…」

『そういう態度よ! 調子にノリそうなところもかわいい! あたし今、ナマ音瑠香ちゃんキメてる?!』


 キモオタとしか思えないオキテさんの反応にちょっと偉大だと思ってた感情に傷がつく。やめてください、それ以上崇高な新人Vtuberとクラスカーストトップのギャルであるイメージを壊さないで!!


『ま、リアルのあんたは地味だけど』

「喧嘩売るか褒めるかしかできないんですか?」

『顔には正直なんだよー!』


 こいつ……。いきなりギャルの一面を出してくるじゃん。誰だオタクに優しいギャルなんて言ったやつ。顔がいい女に優しいギャルじゃんか!

 ならリアルのわたしもお化粧の勉強した方がいいのかな。って、何考えてるんだわたし。


「で、何が言いたいんですか、有名にしたいって」

『そうそう! あたしは音瑠香ちゃんはもっと伸びるべきだって思ってね!』

「……そうですか」


 まぁ。嬉しいこと言ってくれるじゃないですか。

 確かにあたしも伸びたいって思ってるけど、そう簡単に伸びたら苦労はしないっていうか。宣伝力もコミュ力も皆無だから、わたしが伸びたらオキテさんのことを敏腕プロデューサーと呼んでもいいかもしれない。


『だからVtuberになったしね!』

「ん? なりたいからなった、とかじゃないんですか?」

『うんや? 音瑠香ちゃんと友だちになりたいなー、と思ってなりましたー!』


 ……そういえば前に露草名義で好きなイラストレーターは? って聞いてたっけ。

 え、あれから2週間そこらでアカウント作って、2週間そこらで交流広げてデビューしたってこと?!

 オキテさんはともかくとして、にか先生も相当頑張ったというか……。あれだけのVモデルをたった4週間で作ったことに驚きだ。わたしなんかキャラデザに悩んで1ヶ月とか余裕でかかったのに……。

 というか何だこのギャルの行動力は。お金だってかかっただろうに。


「……どれだけわたしのことが好きなんですか」

『どれだけって、推しだし!』


 あー、眩しい! まぶしすぎて死んでしまいます!!

 そんなことを惜しげもなくさらっといつもの笑顔で言ってそうだから本当に良くない。そういう意味でも苦手なんだよ、この人……。


「まぁ、いいですけど……」

『照れてるー。草』

「な、なんか作戦とかあるんですか?!」


 無茶振りだったかもしれないけど、そんなの知ったことではない。有名にしたいってそんな漠然とした理由じゃ騙されませんからね!

 ヘッドフォンの向こう側でうーんと悩む声が聞こえる。

 しばらくの沈黙からの出た答えは、無だった。


『どうしよ?』

「マジかぁーーーー」


 この人。何だこの人。思い立ったが吉日のあとは何も考えてないじゃないか。

 丸投げも良くなかったと思うけど、わたしも特に考えつくことなんて……。いや、実はあるにはあるんだけどね? この人とかぁ、と考え出して頭を抱えたくなった。


『オキテの方でめちゃめちゃ宣伝するとか?』

「いや、それはいいです。なんか怖いし」

『そう? オキテの方でも結構いろいろ言ってるよ?』


 そうだったわ。じゃあ意外とわたしが考えていることも悪くないんじゃ……。

 で、でも……。わたしは、この人と、赤城さんとどこまでいけるんだろう。それが怖くて仕方ない。

 ウゥゥぅううう!!! あーもう! 考えるのやめた!


「じゃあ、百合営業しましょう!」

『え? ユリエイギョウ?』

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