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Vtuberの陰キャとギャルが百合する話  作者: 二葉ベス
第1章:始まるように終わる毎日
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第14話:赤の衝撃。あたしにもっと推させて!

 高校2年生の春。あたしが青原を見た時の最初の印象は、地味、だった。

 一応手入れはされているけれど、くせっ毛気味でわざわざ二つ結びの三つ編みのおさげにしているような女の子だ。それに丸い黒ふちメガネだし。今どきいるんだ笑。みたいなことを失礼ながらも思ってしまう。THE・文学少女。あたしが抱いた第一印象はそんなもんだった。


 月日が流れて、だいたい5月ぐらいだっただろうか。

 そんな地味子がやたら熱心にスマホの画面を見ているじゃないか。悪いとは思ったが、流石に気になったので後ろから画面をちらりと覗き込む。その覗き込んだ先が沼だったとも知らずに。


 暗くて青いセミロングのストレートがしなやかに揺れた髪が印象的で。長さは背中の肩甲骨ぐらいだろうか。下に目線をずらすにつれてふわりと膨れ上がり、毛先でシュッとまとまる。繊細で儚くて。見るものすべてを魅了するかのような微笑み。

 まるで、なんてものではない。まさしく「絵に描いたような女の子」だった。


 それからネット上を必死に探して見つけたのが秋達音瑠香ちゃん。あの時の衝撃は、今も忘れられてなかった。

 でもそれ以上に今年1番の衝撃的出来事がいま更新された。


「あ、ああああ、あんたが音瑠香ちゃん?!!」

「あっ、はい……」


 ありえない。ありえない?! こんな偶然ありえる?!

 いや、確かに5月段階でのチャンネル登録者数なんて20か30その辺だったから、見てる人がいるとしたらレアなんだけどさ。本人がアーカイブなんて見るわけないと勝手に思ってたから意外中の意外だった。

 そして同時に気づく。あたしが朝田世オキテとして親しくしていた相手もまた、この人であることに。


「あー、なるほどー。そりゃ逃げるわ。あたしだって逆の立場だったら逃げるもん」

「あはは……」


 あたしと接する時はいつも声が震えていたけど、そう考えてみれば音瑠香ちゃんと青原の声ってそっくりだし、耳を閉じれば確かに音瑠香ちゃんが目の前にいるかもしれない気持ちになる。

 なんか、ロマンチックも欠片もない。

 確かにあたしは音瑠香ちゃん最推し! ってことでいろいろやってきたけど、まさかその本人がクラスメイトで、しかも地味子。なんであんな人を魅了するようなイラストが描けるのに、本人の見た目がこんなにも残念なんだろう。もっとリアルに時間を割きなさい、と言いたくなる。


「なんか、ごめんね。いろいろと」

「い、いえ。いいんです。わたしもびっくりでしたから」


 そりゃそーだ。相手からしてみれば自分と対岸に位置している相手がVtuberでは友だち同士ってことになるんだから。

 だからなんだけど、流石に気まずくもなるよねーって。

 思えばあたしの推し、かまってー! の数々。初配信前のだって、表には出さなかったけど内心めちゃくちゃ勇気づけられたし。終了間際のコメントだって、アーカイブを確認したら動揺している声がバッチリ乗ってたし。マジガチ恋勢かっての。確かに音瑠香ちゃんはかわいいよ。歌とか、ASMRとか聞かせてくれたら絶対ウケること間違いなしだろうし。

 でもリアルの顔を見てしまうと、なんというか。こう、非常に失礼な話だと思うがガッカリした。お前じゃないだろ! みたいな、受け入れがたい事実が。

 そんな事を少しでも脳裏に過ぎってしまったことに。自分への罪悪感というか、最低だなって気持ち。


 ……そっか。この子が音瑠香ちゃんなのか。


「これから、どうしましょうか?」

「へ?」


 突然別れ話を切り出すかのように、青原が重い口を開いた。


「Vtuberのリアバレなんてわたしも想定してなくって。で、相手がその。あなたなわけで……。わたしなんかよりもたくさんのVtuberさんがいるから、わたしたちの仲はなかったことにした方がいいのかなぁ、と……」

「……はぁ? それマジで言ってんの?!」


 青原は静かにこくり、とうなずく。

 実際彼女の言うことも一理ある。リアルの顔を知っているのに、その上でVtuber活動を続けられるか。推して推されて、なんて第一印象がイラスト力のVtuberだから成り立つ関係であって、リアルで何かしらの関係を持ってしまったら、顔の違いにいちいち混乱して悩まなくちゃいけなくなる。

 だったらいっそ縁を切って、そのままなかったかのように振る舞えれば、楽かもしれない。

 楽だったら、よかったんだけどなー。


「はい、だから。その……」

「ありえない」


 思った以上に青原への怒りが声に出てしまったのか、小さくまとまった肩がビクリと揺れた。

 違う。あたしは青原を怒りたいわけじゃない。正直な気持ちを伝えたいだけなんだ。


「あたしはさ、音瑠香ちゃんに一目惚れしたんだよ。あの顔といい、声といい、褒められ慣れてないところといい、妙に自信がないくせにイラストだけはプロレベルにうまい音瑠香ちゃんに!」


 でもそれもこれも、全部セルフ受肉Vtuberだからこの子が全部やっている。

 頭がバグってるかもしれないけど、あたしはきっと、こういう事が言いたいんだ。


「だから、なんつーか。……もっとあたしに夢を見させてよ。所詮は仮想で、現実はこんなかもしれないけどさ! あんたはあたしが好きな音瑠香ちゃんなんだから、もっとあたしに推させてよ!」

「…………」


 いつも眠たそうに半開きにしていた青原の瞳が徐々に丸みを帯びていく。色白の血の通ってないように見えた肌もぽーっと赤色が通い始めて。いつもムスッとしていた唇はなんというか、マヌケに半開きになっていて。なんだよ、そんな顔もできんじゃん。

 てか恥っず。要するにガチ恋宣言でしょこんなの。こんなこと、ただの告白じゃん。


「……あー、ムリムリ恥っずいわー! だから絶縁とかナシ! おっけい?」

「は、はい……」


 あーあ。途端に顔うつむけちゃってさ。

 この子がマジであの音瑠香ちゃんなの? いや、音瑠香ちゃんもそんなことするかも、多分。

 まー、それはともかくとして、だ。


「青原、今日暇?」

「え? あ、はい……」

「じゃあ、放課後付き合って!」

「い、いや。あの……!」

「返事は?」

「……は、はい」


 財布の中身はちょっと心もとないけど、この子にはまず自分の素体の良さを知ってもらわねば。音瑠香ちゃんにふさわしい女になるってことは、中身も立派にかわいい女の子にしなきゃ。

 あたしが、とことん叩き込んでやる!


「じゃ、放課後ね!」

「あ、あの!」

「ん? まだなんかあんの?」

「あぁ……いえ、なんでも、ないです……」

「ふーん、じゃあ放課後ねー」


 フッフッフッ、美的センスが捗ってきたぜ!

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