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063 てーさつ!



「というわけで、やってきました。ここが、中ボスミノタウロスの寝ぐらのようです」


「って、誰に向かってゆうとんや?」



 こっそりと草木の迷宮へと入り込み、ミーさんのログハウスへと忍び寄る。

そっと窓の下へと身を隠し解説を始めた私に、サキュバスのツッコミが入った。



「生放送のナレーション練習も兼ねようかと思いまして」


「殊勝な心がけやけど、気付かれたらあかんねんから静かにな?」


「もちろん」


「あとクソザコは、ウチらから離れたら命はないと思っときや」


「はい。付かず離れずで付いていきます」


「なんかこの子、変に従順になってません?」


「ウチの躾けの成果や」


「そっすか……」



 初めの頃の怯えた様子よりはマシなものの、一応彼は勇者なのに、魔族に付き従っているのはなんとも……。

まま、彼はやらせ勇者ですし、問題ないと言えば問題ないのですが。



「さて、ミーさんの一日に密着取材して、突破法を考えますよ」


「今は朝の手入れを終えて、帰ってきたとこっぽいな」


「窓から中を覗いてみましょうか……」


「そーっとな?」


「そーっと……」



 ひょっこりとサキュバスとニコラの三人で中を覗けば、そこには鎌を研ぐ牛頭の姿が見えた。

その瞬間、ニコラはえらくかわいらしい、小さな悲鳴を上げる。



「ひっ……」


「しー! いきなりなんやねん?」


「すっ、スミマセン……。鎌で襲われるのかと思いまして……」


「そういえば、前に鎌持ちスケルトンに襲われてましたもんね」


「あわわわわ……」


「こら、余計なこと思い出させんとき! ガタガタ震えとるやないか!」


「おっと、やはりトラウマになっていましたか。これは申し訳ない。

 しかしあれはいつも使っている、本当にただの農具の鎌ですから、こちらに気付いている訳ではないはずですよ」


「せやな。血がベットリ付いてるわけでもないしな」


「うぅ……」


「またトラウマがフラッシュバックしてるようですが……」


「自分もいちいち震え上がるんやめや? そんなんやったら、いざという時逃げられへんで?」


「スミマセン……」



 あれ? なんか私の時と反応違うくない? まあいいですけど。

ともかく小屋の中のミーさんは、午前中に使った農具を丁寧に磨き上げ、定位置であろう場所にしまっていく。

そして手入れしていた場所の掃き掃除をして、床も雑巾で磨き上げる。

手際よく、そして塵ひとつ残さぬ掃除の技は、もはや神技。なんとも几帳面な方です。



「見かけによらず綺麗好きなんやなぁ」


「自分の陣地は徹底的に管理する、それがミーさんですからね。

 だからこそ、畑や花壇を踏み荒らす相手は誰であろうと許さないんですよ」


「俺も初見でまっぷたつにされたなぁ……」


「ひっ……」


「不定形生物のクロスケはしみじみ語れる程度で済みますが、人間は一発アウトですからねぇ……」


「ひぃっ!?」


「ま、実際攻略するときはともかく、今はウチらから離れたらあかんで?」


「私の足あとをなぞるよう歩いたほうがいいくらいです」


「き、気を付けます……」



 ガクガクブルブルといったようすのニコラ。

少々脅かしすぎたかもしれませんが、ここでやられちゃうと面倒ですからね。本番までは手厚く保護しましょう。



「あ、昼飯食いだしたで」


「ふむふむ、ちょうどお昼ですしね。メニューは、畑で採ってきた野菜のサラダみたいですね」


「その上に花まで乗せちゃって、かーわーいーいー!

 なんなんあの女子力の高さ! ウチにもちょっとわけて欲しいわ!」


「猫かぶってない時はガサツですもんねー」


「うっさいわ! しかしなんとも平和な光景やなぁ……」


「侵入者が居なければ、魔族は各々好き勝手してますからね。私たちも人のこと言えませんが」


「ホンマそれ。せやけど、昼休憩の間に突破すればええんちゃうん?」


「確かに畑さえ踏み荒らさなければ、気付かれず突破できるかもしれませんね」


「そそ。それに見てみ? 飯食い終わったら昼寝してんで?」


「あらあら、食べてすぐ寝ると牛になりますよ?」


「もうなっとる」


「そうだった」


「なんか口モゾモゾしとるし、寝言でも言っとんかな」


「あれは反芻ですねぇ。吐き戻してもう一回咀嚼するんですよ」


「うわ、なんか想像したら気持ちわる……」


「まあ、牛ですからね。反芻くらいしますよ」


「よし、昼休憩中に攻略するとしてや。問題は、どのくらい寝入ってるかやな。

 ちょっと自分、こっそり中入って起きるか試してきい」


「えー、私が行くんですか!?」


「自分ら顔見知りやろ? ウチが行くより違和感ないやん」


「確かにそうかもしれませんけど……」


「はいはい、行ってき行ってき!」


「わかりましたよ……」



 それもこれも攻略動画のため、渋々私は小屋へと忍び込む。

足音を殺し、そーっと歩くと、ごろんと寝ている巨体はこちらを向いた。

一瞬びくりとクロスケが体を震わせたものの、どうやらただの寝返りだったようだ。

まだ口をモゴモゴさせながら、ミーさんは寝息を立てていた。


 そっと近付き、手が届くほどの距離まで迫る。けれどそれでも、ミーさんが起きることはなかった。



(もしかしてさ、コイツ寝てしまえば何しても起きねえんじゃねえの?)


(さすがにそんなことはないと思いますが……)


(なら、鼻つついてみようぜ? それか何か詰めてみようぜ?)


(クロスケの悪ノリが……)


(これも必要な調査だから、な?)


(仕方ありませんね……)



 そっと鼻をつつくとちょっと湿っていて、フニッというちょっと硬い肉感が伝わってくる。

わぁ、これはちょっと癖になる感覚……。



「オイになんか用か?」


「ひゃっ!? 起きてたんですか!?」


「今起きたべ。んで、何してんだべ?」


「えーっと、寝起きドッキリ?」



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