061 猛特訓中?
「ごらー! へっぽこ!! んなことやってたらスライム一匹倒すのに日暮れてまうやろがー!!」
「ひぃぃぃぃ!!」
街から離れた湖畔に、サキュバスの怒号が飛ぶ。
なんだかんだで勇者となれたニコラだが、勇者になったところで実力は変わらない。
今もまた、剣を持ちながらも引け腰で足を震わせているのだ。
けれど、なんだかんだ一撃も貰っていないのだから、本当に逃げるのは得意らしい。
そんな様子をのほほんと座って眺めながら、私は勇者登録の儀式を思い出していた。
「それにしても、人間は惨いことしますよねぇ」
「ん? なんのことや?」
「ほら、勇者登録ですよ」
「ああ、魂の半分を教会の魔石に入れとくってやつ? 確かに魔族でもあんなヤバいことせえへんよな」
「正直引きました。まあでも、魂が一つになろうと引き寄せられるので、教会にて復活できるというのは納得ですが」
「てゆーか、死なへんだらええんやろ? ウチらがおるんやし、そうそう危ない目には遭わんと思うけど?」
「私も回復魔法は使えますしね。そう簡単には死なせるつもりはありませんよ。
なんたって、彼は動画の企画の主人公なんですから」
「てーことは、薬草の卸損やん!」
「いやいや、あれのおかげで勇者の復活がしやすくなったわけですし、今後動画の影響で勇者になるのが流行すれば、魔王城の発展に貢献するじゃないですか」
「あー……。結果的にうまいこといったっちゅう話か」
「結果論ですけどね」
そんな話をしていれば、バシュッという音と共に、相手取っていたスライムの黄色いのを、やっとの思いで一刀両断していた。
初めて攻撃が当たった瞬間であり、本人も驚いている様子だ。
「やりましたね! 初ヒットですよ!」
「やるやないか! その調子で倒してまえ!」
「えぇぇぇぇ……。いいんですかぁ……」
「いてまえいてまえ!」
「あ、クロスケ的には、同族がやられてるわけですが、いいんですかね?」
「いいぞ。アイツはサキュ×スラ派だ。粛清せねばならん」
「解釈違いスライムらしいので、いいそうですよー!」
「なっ、なんですかそれはぁ……」
「ウチにもわからん!」
「私も同じく!」
「なんでわかんねーんだよ!」
性癖が理解されないことにクロスケはご立腹なものの、その様子にニコラは「いいならいいんですけど……」といった様子で、へなちょこ剣技の披露を続けていた。
見方を変えればなんというか……、微笑ましい光景ですがね。本人は一応本気のようです。
しかし、それを動画にして面白いかと言われれば……。
「ダメそうですね」
「なにがや?」
「このへっぽこぶりを動画にして、面白いですか?」
「この状態で正面突破しようもんなら、速攻でモザイク処理せんとあかん画が撮れるやろな」
「ですよねー!」
「せやからええんやん」
「運営にBANされますよ!?」
「いやいや、何考えとんや? そんなグロ映像見て喜ぶんは、人間の中ではごく一部やで」
「一部でもいるんだ……」
「せやから、裏技を披露する動画にするんよ」
「裏技?」
「あのへっぽこでも、タネと仕掛けさえ分かってれば魔王城到達くらいはできるやろ?
さすがに魔王様との直接対決は無理やろうけどな」
「そういや、ゲームの動画でそういうのあったような……」
「低レベルクリアの実況動画っぽいな」
「そうそう、それですそれです」
「なんや? まさかすでにそういう動画あるんか?」
「こっちの動画ではないですけどね。他ので見たなーって」
「チッ……。すでにやってるヤツおったんか!」
「まあでも、俺もいい案だとは思うぞ。
俺らが知ってることを吹き込むだけで、人間にとっちゃかなり有益な情報だ。
ここだけでしか見れない情報があるなら、絶対人気になるからな」
「クロスケは性癖はともかく、動画への姿勢はガチなんですよねぇ……」
「ホンマ、ただの変態スライムやと思ってたんやけどな」
「お前らの俺への評価どうなってんだよ!?」
どうなってんだと言われても、言葉通りなんですがね……。
とにもかくにも、クロスケも前向きに考えているなら、私が口出しすることはありません。
それになにより、これで魔王城に人間を誘い込めるのならば、私の目的は達成されるんですから。
「しかし、結果的に占いは的中ですか……」
「なっ、なんのことや~?」
「とぼけたって無駄ですよ? 占いの結果がハズレないよう、私をけしかけましたよね?
でなければ、あなたが彼や私たちに関わる必要はないでしょう?」
「あーもう、余計なことに気付きよってに……。ホンマ、昔っから変わらんよな」
「あなたが誰かのために動くとは思えませんから。
むしろ気になるのは、そんなに占いが外れるのが嫌だったんですか?」
「外したら絶対自分笑うやろ!?」
「いやー、さすがに笑いませんよ? まだまだ未熟だなとは思いますが」
「そういうとこや! いっつもいっつも魔法やら占いは自分の方が上や思いよってに!
ウチかて戦闘こそ不得意でもな、魔法系は負けられへんおもとんねん!」
「へー、そうだったんですか」
「二人とも得意分野がかぶってるからって、張り合ってたんだな。
俺は唯一無二のかわいい担当だからよくわかんねーけど」
「クロスケはクロスケで、かわいい担当でいいんですかね……」
クロスケの何があっても我関さずな性格は、多分ライバルが居たって変わらなさそうですけどね。
まあでも、妙に突っかかってくる原因が分かって納得ですよ。それでも私が優位なのは変わりませんけどね!




