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059 淫魔的交渉術



「はぁ、はぁ……。なんだ、結婚じゃなく、勇者登録ですか……」



 ひとしきり暴れた神父を、シスターたちと共に取り押さえれば、やっと話を理解したようだ。

というか暴れすぎて、今でも肩で息をしている状態なんですが……。

神父にしては若そうなので助かりましたが、これがおじいちゃん神父だったら、そのまま神の下へと旅立っていましたよ。



「もうっ! 神父様ったら、はやとちりしちゃって〜。

 リリーは、みんなのものだよ? もちろん、神父様もね?」


「あの、営業トークしてないで、話すすめてもらえます?」


「営業トークじゃないも〜ん!」


「まあいいや。それで、彼を勇者として認定していただけますか?」


「けほっけほっ……。失礼、少々お時間を……」


「マジで死にかけてるじゃないですか……」



 シスターの持ってきた水をぐいっと飲み干し、神父は息をつく。

そういえば、神父なのに色恋沙汰に手を出していいんですかね?

まあ、教会に普通に入れるアンデットよりは正常かもしれませんが。

もしくはこんな神父だから、私もノーダメージなのかもしれませんね。



「結論から申し上げますと、勇者としての認定は難しいです」


「え〜? どうして〜?」


「うっ……。そんな目で見つめないでください……」


「いきなり上目遣いとか、あざとすぎる……」


「む〜、なんでなの〜? リリーのお願いでも、ダメ?」



 上目遣いの次は神父の手を取り、すりすりと腕を触りながら引き寄せる。そしてその豊満な胸に腕を押し当てた。

これは、パイズ……。違う違う。色々ダメな表現が頭を巡りましたが、邪念は捨て置きましょう。

ともかく、これで落ちぬ男はいないであろう姿勢であることは確かです。



「リリーチャソ……。ゴホン……。失礼、場所を弁えていただけますか?」


「うぅ……。リリーのこと、キライ?」


「そっ、そうではなっ……。すっ、好き嫌いではなくですね……」



 さきほどから、ちらちらとどこかを気にしているようですが……。

ああ、後方に控える、鬼の形相のシスターを恐れているようで……。

ははは、淫魔にアンデット、鬼まで揃っているとは、この教会は自由な信仰を推奨しているようですね。ダメだろ。



「勇者と認定される者は、それ相応の実績を示した者でなければならず……」


「ほんとうに、ダメ?」


「くっ……。しかし、訓練学校で優秀な成績であったとか、相応の魔物を討伐した経験があるなどの……」


「どうしても、ダメ?」


「そっ、そんな目で見ないでくださいっ!!」



 そう言い残し、神父は袖で涙を拭きながら、奥の扉へと駆けて行ってしまった。てか、責任者が逃げんな。

そしてその代わりに来たのが、先ほどの鬼の形相のシスターだ。

その口から出たのは、静かな一言。



「お引き取りください」


「…………」


「あ、さすがにシスター相手だと勝てないと」


「む〜……」


「ここは神聖な場所です。かのような行為、見逃せません。

 どうぞ、ことを荒げる前にお引き取りください」


「どうします?」


「なによケチー!」



 これは、完全な敗北宣言ですね。もとより、相手が男性でなければ、サキュバスに勝ち目はありませんが。

しかし負けセリフがこれとは、いくらばれないように人間の域を出ないようにしているとはいえ、あまりにも無様……。

などと、どこか他人事な私にもまた、流れ弾は飛んでくるのだった。



「あなたも、このような者と関りあいを持つのは、一度よくお考え下さい」


「へっ? 私?」


「そうです。予言の女神ではないかと噂されるあなたが、不埒な者と関わり合いを持つなど、わたくし共としても不本意ですので」


「なによそれ~!」


「まあまあ。今までのあなたの行動を、胸に手を当ててよーく考えてください」


「え~? ん~……」



 まるで見せつけるかのように、その豊満な胸の谷間に手のひらを入れ、悩んで見せるサキュバス。

うん、そういうトコだよ? シスターがブチギレてる原因は。



「わかんな~い」


「そっすか……」


「御覧の通りです。我ら信徒から顰蹙を買う理由など、いまさら言葉にする必要もありませんね?」


「私も今まで見てきたので、それは重々承知ですよ」


「これはこれは、あなたが話の通じる方でよかった。

 ご理解いただけているのでしたら、どうぞあなたもこちら側へお越しくださいませ。

 血の気の多い者が集い、欲望のまま過ごし、酒に溺れる場所よりも、あなたにはふさわしい場所がこちらにはございます」


「え~? ワイちゃん行っちゃうの~?」


(裏切ったらどうなるか、言わんでも分かるよなぁ?)


(こっわ。というか、裏切るわけないでしょう。それは魔王様への裏切りと同義なんですから。

 ともかく、ここは私に任せてください。相手を言いくるめるのは、こう見えて得意なんですよ)


(さよか。ほな、お手並み拝見させてもらうわな)



 まったく、来る前の自信はどこへやら……。

ともかく、この説得を成功させなければ魔王城の繁盛は遠のきそうだし、頑張るしかないようだ。

あれ? 魔王城の繁盛が目的でしたっけ?

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