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056 プレゼント大作戦

 ミシミシと骨を砕かん勢いのクロスケ。スライムって、意外と筋力(?)あるんですね。

しかしお茶を淹れながら、何か念話で話していたような気がしたのですが、記憶が曖昧です。

いったい何があったというのか……。



(えーっと、なんの話してましたっけ?)


(こまけえこたぁいいんだよ! お茶入れたら、さっさと戻るぞ)


(あ、戻って来る時花瓶も頼むわ)


(花瓶?)


(このなめくじちゃん、お花をプレゼントに持ってきてたんよ。

 もうっ! 乙女心分かってるわねぇ!)


(なんですその近所のオバさん感あふれる感想は……)


(誰がオバちゃんやねん! 飴ちゃんやろか!?)


(やっぱおばさんじゃん)



 実年齢数百歳の、人間ならオバさんどころか逝きそこないばあさんは置いておくとして、お茶と花瓶を用意して戻れば、もはやそこは取調室かと思う光景だった。

しょぼくれていて完全に意気消沈した男と、ぐいぐいと質問攻めにするサキュバス。悲壮感ヤバい。



「お茶をどうぞ。あ、この花……」


「珍しいでしょ~? 魔界の花なんだってさ~」


「血のように赤黒い百合、ブラッドリリーですね。前の動画で生けたことありますよ。

 それにしたって、こんな花を用意するのは大変だったでしょう」


「プレゼントにするために、頑張って摘んできたんだって~。愛だねぇ~?」


「だからそんなにボロボロだったんですか」



 改めて見れば、男は装備も身体も傷だらけだった。

まあ、魔界に花を摘みに行って、生きて帰れただけ普通の人間からすれば幸運だったかもしれませんけどね。



「とりあえず、この花は花瓶に生けておきますね」


「よろしく~。それでニコラ君さ~、アレのどこが好きになったのよ~?」


「あの、その……」


「えーっと、何の話してます?」


「だって、あのロアンさんだよ~? どこが好きになったか気にならない~?」


「ならん」


「なってよぉ~」


「本気の相手をからかうのは、褒められた事ではありませんよ」


「本気かどうかは知らないけど~、正気じゃないのはわかるよぉ~?」


「失礼にもほどがある……」



 パチパチと花の茎を切りそろえ、ミーさんに教わった技を駆使して花を活けている間も、サキュバスの悪い笑みという花は潰えることなく相手を痛めつけていた。

まったくもって、悪趣味で性悪な方ですね……。魔界の花を摘んでくる時点で、本気であることは確実なのに。

なによりそれは、ロアンさんの想い出の花ですしね。



「それで彼……、ニコラさんでしたっけ? ロアンさんに会いに来たんですよね?」


「はい……」


「残念ですが、ロアンさんは今この店には居なくてですね……。

 私たちに店を任せて、世界を巡る旅というものに出てしまったんですよ。

 なので私たちにも、今どこに居るか、そしてどこへ向かってるかもわからないんです」


「そうですか……」



 うわぁ、見るからにしょぼくれ度が上がってるんですけど!?

なんか私が悪者みたいじゃないですか! こっちのサキュバスは事実そうでしょうけども!



「残念だったね~。それよりもさ~、前に塩撒かれてたって話聞きた~い」


「平気な顔で傷口に塩ねじ込むようなマネを……。

 でもまあ、ロアンさんはあの日の話しなかったくらいですし、かなり怒ってたようですよね。

 私の勝手なイメージですけど、ロアンさんなら軽く怒ってる程度なら、逆に話のネタにしそうですもん」


「それは……、僕が悪いんです……。彼女に嘘ついたから……」


(彼女? えーっと、正確には彼では?)


(それ、さっきウチもツッコミ入れたからそっとしといたって)


(惚れた弱みというものですか)


(せやろなぁ……。カワイイやん?)


(そっすねー)


「嘘? そんなことで怒るような人ですかねぇ?」


「彼女が欲しいっていった、魔界の花をあの日渡したんです。けどそれは偽物だったんです……。

 僕は彼女に振り向いて欲しくて、花を摘んできたって言って、本当は魔物狩りの人から買ったのを渡して……」


「あ~、その魔物狩りにニセモノつかまされたってこと~?」


「はい……」


「うん、これは怒りそうですね」


「だよね~」


「僕には魔物と戦えるほどの力もないですし……」


「それは見ればわかる~」


「いや、そこは嘘でもそんなことないよって言ってあげる所では……」


「嘘で慰めたって、実力は変わんないよ~?」


「残酷……。けれど、今回の花は本物のようですが? これはどうされたんです? まさかこれも?」


「違います! それは本当に僕がとってきたんです! でも、戦うなんて無理だから、必死に逃げ回って……」


「えらい! 逃げ回るしかできなくたって、ちゃんと自分で取りに行くなんてえらい! あたし応援したくなっちゃった~!」


「あっ、ありがとうございます……」


「あなたが素直に人を褒めるなんて意外ですね」


「そんなことないよ~? あたしは褒めて伸ばすタイプだよ~?」



 嘘臭い、なんて言葉はすんでのところで飲み込んだ。

普段私に見せる顔と、外の人間に見せる顔は違うんだし、そういうこともありえなくもなくもないのかもしれないからね? 信じられないけど。



「しかしそんなに苦労されたのに、肝心のロアンさんが……。

 あ、でもロアンさんなら、私の動画見てくれてるかもですし、動画で伝えればもしくは」


「へへへ……。ウチ、ええこと思いついちゃった」


「えっ……」



 ニヤりと、獲物を見つけ忍び寄る獰猛な野獣のオーラが、一瞬見えた気がした。

いや、気だけじゃない。完全に何か企む、サキュバスの顔がそこにはあった。



「よし! ウチらが自分を、一流の勇者にしたる!」


「いきなりなに言い出してんですかこの人は……」



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