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053 新装開店

 ロアンさんが傷心旅行に旅立ってから早数日。

サキュバスが店を引き継いだものの、この店「喫茶&バーマカオ」が連日客でごった返すことは、意外にもなかった。



「ありがとうございました~。また来てくださいね~」


「あ、あの……。リリーちゃん、このあと一緒に……」


「ごめんなさ~い、まだワイちゃんに後を任せられないので、また今度お願いします~」


「そ、そうだよね……。二人ともがんばってね……」



 まあ、原因はこれだと言っていい。いわゆる「アフター」というものを打診するものの、皆一様に断られているのだ。

そのため、初日こそお祝いもあって満員御礼であったものの、その後は閉店時間まで残るのは、諦めの悪い男ばかりになっていた。

というか、私をダシに断るのやめて欲しいんですけどね。



「はー、終わった終わった!」


「客が帰るや否や、かぶってた猫のポイ捨ての早さよ」


「ったりまえやろ? 自分に気つこてどないすんねん」


「昔っから、一度も気を使われたことない気がしますけどね」


「なんでやと思う?」


「さあ? 興味もないですし、どうでもいいですけど」


「そーいうとこや! ウチはな、媚びてもなびかん相手っちゅうんは、自然とわかるんよ!

 だから無駄な労力使わんよう、そういうんには気使わんようにしてんねや」


「へー。それもサキュバスとしての能力なんですかね?」


「せやろな」



 言い方を変えるならば「相手が餌かどうかの嗅ぎ分ける鼻が利く」ってところでしょうか。

うん、そういう風に考えると、トリュフを探す豚みたいなイメージになってしまいますね。



「なんや、最低な想像せえへんかったか?」


「さて、なんのことでしょうねぇ?」


「とぼけるっちゅうことは、なんかあるんやな!?」


「ははは、まさかまさか」


「やめ、ひっぱんな!」



 むにーっと頬をつねられるが、私にはノーダメージだ。

なにせ頬肉は、クロスケが担当しているわけですからね。骨を砕かれない限り、私は平気なワケです。



「なんで俺がこんな目に……」


「せやったな、一撃殴った方が良かったんやったわ」


「それも俺に被害甚大なんだが!?」


「連帯責任っちゅうやつや!」


「理不尽……」



 クロスケは諦めまじりのため息だが、これはこれで彼女なりの愛情表現なのだと思っておこう。

もちろん口には出しませんし、そういう対応しかできない彼女を良く思えるわけもありませんけどね。



『あの子ね、媚びる方法は知ってても、甘え方は知らないのよ。

 ああやって喧嘩売って、かまって貰うことでしか、相手に甘えられないの』



 旅立ちの前日のロアンさんの言葉を思い出す。

どれだけサキュバスとしての能力を使い、人を操ることに長けていたとしても、ロアンさんには気づかれていたようだ。



『ま、でも最後に本性見せてもらえて、アタシは満足よ。

 ずーっとかわいい子ぶったままで通すと思ってたもの』



 そう言って、ロアンさんは笑っていたっけな……。

今頃こうして二人で店をやっているのを、空から見て笑っているのかな……。



『人を勝手に死んだことにしないでよねっ!!』



 なんてツッコミがないのが、少々寂しいくらいだ。

ん? なんでそんなツッコミが入ると思ったんだろう?

あの強烈な個性に、私の中に「イマジナリーロアンさん」なる存在が、いつのまにやら出現していたのかもしれない……。こわっ。



「まーた変な想像してるやろ?」


「変なというか……。まあ、そうかもですね」


「ったく……。まあええわ。それで、そっちのやることどうなってんねや?」


「あぁ、食器洗いなら終わりましたよ」


「ちゃうわ! 自分らがわざわざ人間界まで来た目的のほうや!」


「あー。そう言えば、なんだかんだで忘れてましたね」


「自分ら、ホンマなぁ……」


「といっても、動画のネタ探しに来ただけだしな。

 今のところ編み物動画のストックで投稿続けてるし、問題ないな」


「次のネタどうするか決めないとですけどねぇ……」


「それもさ、ロアンに教えてもらったこの店のメニューを作る料理動画でよくないか?」


「ああ、その手がありましたね。よしよし、順調そのものですね」


「自分ら、ホンマなめとんな!?」


「なめてる? 順調そのものだと思いますが?」


「はい、ここでもっかい自分らの目的ゆうてみい!」


「目的って、動画のネタ探しですけど?」


「かっー! あほか!!」



 なにこのサキュバス、おっさん臭いんですけど。

というかアホとはなんですかアホとは。私こう見えて、賢さ極振りなんですけど!



「自分らな、完全に初心忘れとるやないか!」


「初心? なんでしたっけ?」


「ホンマに忘れとんかーい!! 最初の目的は、魔王城に人を呼び込むことやろがいっ!!」


「あー、そういえばそうでしたね」


「というか、コイツにそれ説明したのお前だからな?」


「ふふふ、そうでしたっけ?」


「しらばっくれてやがる……」


「で、その目的は今の状況で達成できるんかって話や!」


「んー? そういえば、動画の収益ってどうなってます?」


「まあ、それなりってところだな」


「ならいいじゃないですか」


「あまーーーい! 甘すぎるわ自分らっ!!」



 まったく、夜中だというのにテンションが高い。私も夜型とはいえ、ここまでではないですよ。

しかし、なにが甘いんですかね? 彼女が言うからには、媚びの売り方とかでしょうか。

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