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048 頃合い



「ホント、前代未聞よ……」



 呆れ果てたロアンさんだが、その顔は半笑いだ。

なんだかんだ、面白おかしく動画は仕上がっていると考えていいのだろう。

実際意外なことに、投稿直後なのでまだ数は少ないが、評価は上々だ。

多分にクロスケによる編集技術がうまくいっているおかげな気もしますが……。



「それで、この結果次第で今後の主役が変わるって話よね?」


「まあ、そうなってますが……」


「え〜、あたしは別にどっちでもいい〜」


「えぇ……。あなたが言い出した話でしょう?」


「あたしはあたしが人気なのが分かればなんでもいいし〜?」


「そっすか……」


「まったく、変わんないわね。店出す時だって、ウチの店に客数で勝ってやるとか宣言してたものね」


「結果は……。言うまでもないですね」


「アンタ、そこは黙っておくところよ」


「そっすねー」



 ギロリと睨まれ、目をそらす。

ホント、ロアンさんって時々視線だけで人を殺せそうなんですよね。

私、人じゃないんですけど!



「ま、アタシもそろそろ踏ん切りつけないとね」


「へ? なにかするんですか?」


「店畳んで、隠居するのもいいかもってね」


「うそ〜!? なんでなんで〜!?」


「…………。色々あんのよ」


「でも、先代から受け継いだ、大切な店なんじゃないんですか?」


「別に。先代は店自体は好きにしていいって言ってたもの。

 だから畳むも続けるも、私の勝手にしていいのよ」


「へ〜。なら、なんで今までやってたの〜?」


「別にいいでしょ、そんなこと」


「気になる気になるぅ〜!」


「ちょっとリリーさん!」


「え〜? ワイちゃんは気にならないの〜?」


「いや、まぁそりゃ、気にはなりますけど……」


「だって〜! この店に何があるのさ〜? 教えなさいよ〜!」


「黙りなさいっ!」


「こわ〜い!」



 キッと、先ほどよりも鋭い視線に、さすがのサキュバスもビビったようだ。

いや、魔族をビビらせる視線ってどんなですか!?

まあ、そんなに喋りたくないのなら、そっとしておくのが大人の対応というものだ。

この性格破綻のサキュバスには無理な話かもしれませんけど。



「ちぇ〜、つまんないの〜。あたしかえろ〜っと」


「はいはい、さっさと帰んなさい。お店ほったらかしでしょう?」


「べつにそんなの、どうでもいいし〜」


「はぁ……。まったく、いつまでもガキみたいに……」



 なんかこの二人を見てると、商売敵というよりは、親子みたいに見えるんだよなぁ。

ロアンお母さんと、生意気な娘みたいな。

けれど口を滑らせようものなら、どっちにもシバかれかねないので、絶対に言いませんけどね。


 そんなこんなで夜になれば、バーにも仕事帰りの男たちがやって来る。

とは言っても「女神様の神酒を一杯頂きに」なんていう信心深い人ば、特に魔物退治をやってるような男たちばかりで、実際に飲み明かそうって人はほとんどいない。

おかげさまで、みんな一杯ひっかければ、ロアンさんからのセクハラ被害にあわないようにと、早々に別の店へと引き上げてしまう。

別の店ってのは、サキュバスの店なんですけどね。


 そんなこんなで、店は売り上げはあるものの、寂しいものだ。

まあなにごとにも、例外っていうのはあるものですが……。



「ったく……。一杯だけ飲んで店変えるとは、マメなやつらだな」


「あらあら、マメな男ってのはモテるものよ? 残ってくれた方が、アタシは嬉しいけどね」


「お前を喜ばせるだけってんなら、俺も帰ろうかね」


「ふふっ、そういうひねくれてるとこ、昔っから変わんないわね」



 残った一人の男とロアンさんは、お互いウイスキーの入ったグラスを片手に、しっぽりと語り合っていた。

たしか彼は、ロアンさんに速攻で腕相撲で負けて、グダついてた男だ。

昔っからの知り合いっぽい口ぶりだったけれど、ロアンさんとの仲はいいようで……。

そんな様子を、私は洗ったグラスを拭き上げながら眺めていた。

あれ? いつのまにか店員業が身についているような……。



「ま、俺くらいはこの店にカネを落としてやらんとな。

 ワイちゃんが居るんだ、タダ働きはさせらんねえだろ?」


「あらあら、お気遣いありがと。でもアンタの稼ぎじゃ、女神様は養えないわよ?」


「そりゃそうだ。今じゃ魔物狩りなんざ、流行んねえ仕事だしな」


「それに、なにがあるか分かんない、危ない仕事だもの」


「今じゃ若いモンは、みーんな商人志望だとよ」


「魔界との最前線が、聞いて呆れるわね……」



 うわぁ、年寄り臭い会話だぁ……。前時代に取り残されたジジババの老人会かな?

しかし、平和な時代が長すぎたおかげで、人間は随分弱体化したらしい。

魔王様にやる気があれば、世界征服なんて簡単だろうになぁ。



「ま、俺はこの仕事続けるしかねえさ。いまさら別の道に進むなんて器用なマネ、できねえからよ」


「そうね、アンタに商売は無理よね」


「うっせぇ。お前だって今さら別のこと始めるなんて、できやしねえだろ?」


「アタシは……、このお店閉めようかと思ってるのよ」


「…………」



 グラスを揺らされ、カラカラと鳴る男の手の内にあった鈴は、すっと鳴りやんだ。

それまで静かながらゆったりと流れていた時間が、一瞬止まったような錯覚を覚える。



「本気か?」



 ただ静かに、男は言葉を漏らす。

対するロアンさんも、自身の持っていたグラスをコトリと、静かにカウンターに置いて、そっぽをむいた。



「ええ。いつかは決めないとって思ってたもの」


「アイツを待つのは、諦めたのか?」


「もう、頃合いよ……」



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