047 放送事故だよ!
「おじゃましまぁ〜す」
いつも通り閑散とした昼の喫茶店マカオに、来客を知らせるベルの音と、気の抜けた声が響く。
「あらごめんなさい、いらっしゃ……。ってなんだ、リリーじゃない」
「なんだって、なんですか〜」
店主のロアンは、キッチンから慌てて飛び出し、謝罪の言葉を述べるが、相手がリリーことサキュバスだったため、客ではないと判断したようだ。
彼女が来たということは、私も出ていく他ないだろう。
少々重くなった体を引きずりながら、ロアンさんと同じように顔をだす。
「いらっしゃい。こっちこっち」
「はいは〜い」
「ちょっと、アンタが呼んだの!?」
「ええ、前の動画を投稿するので、一緒に見ようと思いまして」
「ああ、例の編み物動画ね?」
「そですそです」
「そんな大事な時に、酔っ払ってて大丈夫なのかしら……」
「え〜? お酒飲んでたの〜?」
「次のシリーズで、カクテルの作り方講座をやろうかと思いまして」
(なんか顔崩れてると思たら、スライム酔っ払っとんかい!)
(まだまだほろ酔いだー! もっと酒寄越せー!)
(うっわ、めんどくさい酔い方しよるやんコイツ)
(これ以上はダメだなって思ってたところです)
(ええタイミングやったってことか)
(ですです)
(酒ぇー……)
「ま、ともかく鑑賞会始めますよ」
「は〜い」
「色々言いたいことはあるけど、アタシも気になるし見てみようかしらね」
そうして、三人での動画鑑賞会が始まった。
あ、クロスケは酔い潰れて寝てたので、本当に三人だ。
◆ ◇ ◆
『はい! こんにちわ! ワイですっ!
初めましての人ははじめまして! そうじゃない方は、いつもご視聴ありがとうございますっ!』
“1コメげっとー!!”
“↑投稿後5分で1コメしてる男の人って……。早すぎて怖い”
『今回からは新企画! 次は私、編み物に挑戦ですっ!』
“俺もワイちゃんに編み込まれたいぜよ……”
“↑純粋にキモい”
『では、先生に登場していただきましょう!
リリー先生! よろしくお願いしますっ!』
『はぁ〜い、リリーでぇ〜す。普段はバーで働いてま〜す。
みんな遊びにきてね〜。場所はこのへんに出してもらおうかな〜』
『いきなり宣伝はやめてもろてええですか?』
『いいじゃんいいじゃん〜』
“素でツッコミ入れるワイちゃんかわいい! そして爆乳!”
“↑何やってもかわいいしか言わないかわいいbotのくせに”
『ではではリリー先生、今日は何を作りましょうか?』
『それじゃぁ〜、セーター作る〜?』
『あの私初心者なんで、もうちょっと手加減してもろてええですか?』
『え〜? ゲイジュツテキなモノが出来上がりそうなのにな〜』
『失敗作をそう呼ぶのなら、そうでしょうね!』
“リリー先生、天然でド畜生なの草www”
“↑草に草生やすな”
『それじゃぁ〜、今回は練習でコースター作る〜?』
『そう、それでいいんです。台本通りお願いしますよホント』
『台本ねぇ~』
“ワイちゃんがツッコミ入れすぎてメタいこと言ってるwwww”
“↑なんでも草生える草食系か”
『え〜っと〜、説明は難しいから、あとで字幕入れてもらうとして〜、見た通り編んでね〜?』
『鬼か!? 解説動画で解説投げ出すとか鬼か!?』
『解説はあとで編集で入れてもらうから〜』
『私がわからないんですけど!?』
“こんなグダグダ動画、初体験だわ!”
“↑同じく”
『えっと〜、必要なものは毛糸と編み棒ね〜』
『用意してます。私は水色にしようかな』
『それじゃ、あたしはかわいいピンクで〜』
『あえてかわいいと言うあざとさよ』
『そんなんじゃないも〜ん』
“ワイちゃんイライラで草www”
“↑そんなトコもかわいいんだろ?”
『それで〜、この棒をこう持って〜、糸をこんな感じで〜』
『全然言葉だけじゃ伝わらないですよ!?』
『あとここは〜、こんなふうにくるっとして〜』
『待って待って、せめて作業台の上でやって!?
あ、見えるように画面動かしますんで、酔いやすい人は注意してくださいね!』
“ワイちゃん振り回されつつ視聴者のことを最優先するぐう聖かわいい”
“↑わかる。マジわかる”
『やっぱこういう細かい作業は〜、胸元でヤる方が楽なのよね〜』
『画面がほとんど……。うっせえわ!!』
“デカい! デカいっ!!”
“↑語彙力が死んでるぞ。ワイちゃんはまっ平だけど”
『それで、この棒の使い方は〜、こんなかんじで〜?』
『ぜんっぜんわからんっ!』
『こう、くりくりっと〜? それでいて、くにくにっと〜?』
『擬音しかねぇ!!』
“おうふ……。俺の棒もくりくりっと、くにくにっとしてほしいっす……”
“↑てめえの粗末な棒はしまっとけ”
『あとは同じことの繰り返しみたいな〜?』
『あーはいはい、そういうことね。完全に理解したわ』
“これで完全に理解できるワイちゃんマジ天才”
“↑それには同意”
『ってことでぇ〜、かんせ〜い!』
『私もなんとか形になりましたよ』
『すご〜い! ゲージュツ的〜!』
『そりゃどうも。ということで、プレゼント企画ですっ!
私たちの作ったコースターを、セットで視聴者様にプレゼントしますっ!』
『なんと〜! あたしかワイちゃんのどちらかが、直接渡しに行っちゃうよ〜!』
『私とリリー先生、どちらにプレゼントして欲しいか、コメントしていって下さいね!』
『みんな、応援よろしくね〜!』
『それでは、最後までご視聴ありがとうございました!』
『高評価は下のボタンから〜、チャンネル登録もこっちのボタンですよ〜』
『はいみなさん、登録ありがとうございますっ!』
『そして登録しなかったそこのお前〜。今夜てめえの家にイクカラナ……』
『先生何言ってんですかっ!?』
◆ ◇ ◆
「…………。アンタ、よくこれで通したわね」
「面白いかなって〜」
「面白いというより、恐ろしいですよ」
私もロアンさんもサキュバスの暴走に、ただただため息を漏らすほかなかった。
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そして登録しなかったそこのお前……。
「最後まで言えや! 登録しなかったらなんなん!?」




