046 憧れの……
ほろ酔いロアンさんは、謎の勝負方法の発表に小さくため息をつく。
なんだかんだ、私たちのことを気にかけてくれているのは分かるものの、なんだかおせっかいなオバサン臭が……。
いえ、本人には絶対言いませんよ? さすがに命が惜しいですから。私すでに死んでますけど!
「アンタさ、動画のネタ探ししてたんじゃないの?」
「そうですよ?」
「だったら、なんで勝負の方法が編み物なのよ」
「前は生け花の解説動画だったので、次は編み物にしようかと」
「ああ、そういうこと? それなら納得だわ。でもアンタ、勝ち目あるの?
だってあの子、昔っから暇なときは、編み物してるような子よ?」
「似合わないですよねー」
「人の趣味をとやかく言うのはどうかと思うわ」
「あ、はい。スミマセン……」
言われたことは真っ当だけど、なんだか釈然としないなぁ……。
ホントにロアンさんは、サキュバスことリリーのこと嫌ってるんですかね?
もしくはロアンさんにも誰にも言えない秘密の趣味が……。
深く詮索するのはやめておこう。私は大人なので。あとなんか怖いし。
「まあ、意外な趣味ですけどだからこそ動画のネタになるかなって思いまして」
「そうね。あの子の着てる服、あれも手作りだものね」
「なんかだぼっとしたニットの服一枚って感じの恰好でしたね。しかも萌え袖の」
「あれね……。アタシが『こういうのどう?』って言ったヤツなのよね……」
「え……。ロアンさんの趣味だったんですか!?」
「ちがっ……、わないわね。アタシ、憧れだったのよ」
「憧れ?」
「そう! 彼シャツってヤツが!!」
「えーっと、なんか聞かない方がいい予感がするけど、その彼なんとかって教えてもらっていいですか?」
「彼の大きい服を借りて、だぼだぼっとした感じ! イイじゃない!?」
(わかる)
(クロスケは黙ってて)
「アタシはほら、体格に恵まれちゃってるじゃない? だから憧れなのよ~!」
「恵まれてる……。言葉次第でなんとも印象がかわるもので……」
「はぁ……。アタシより大柄なイケメン、いないかしら……。あ、もちろんデブって意味じゃなくてね!」
「別に聞いてませんし、たとえ居たとして紹介しませんよ」
「ミー先生紹介しなさいよっ!! 先生ならきっと、アタシでも彼シャツできるわ!」
「…………。そっすね」
(普段服着てないのは、黙っておくのな)
(色々めんどくさくなったので……)
「まあ、そんなこんなで大きい服一枚着る感じなの作らせたら、あの子気に入っちゃってね」
「痴女じゃないですかそれ」
「大丈夫! 下にホットパンツは履かせたわ!」
「いや何も履いてなかったら、ただの露出狂ですよ!?」
「負けたらちょっとずつめくり上げていくっていうゲームも教えたわ!」
「あなたホント、なんてこと教え込んでるんですか!?」
「こういうお店やってれば、そのくらいできなきゃダメよ! あの子もノリノリだったし!」
「そりゃそうでしょうね!?」
あのサキュバスが、男を落とすテクニック、もしくは遊びに、ノリノリで参加するのは想像できる。
というよりむしろ、ロアンさんがそういうのをやってる姿の方が……。うん、想像するのはやめよう。
しかし魔王城に居る時よりもこちらに来てからの方が、彼女は数段厄介になったようだ。
考えようによっては、サキュバスとしてはレベルアップしたとも言えるかもしれませんが……。
「で、なんの話だったかしら? あ、そうそう、ゲームのルールだけどね」
「ちょっと待って!? 私はやる気ないですからね!?」
「えー、つまんなーい」
(てーか、服も俺が変異してるわけで、脱がされるのはまずい)
(分離して誤魔化してください!)
(うわ、めんどくせ)
「編み物で勝負するって話ですよ!」
「そうそう、そうだったわね! まあ、勝ち目無い気がするのだけど、どうなのよ?」
「実際は編み物での勝負というか、動画の主旨も前と同じで、得意な人に教えてもらう形ですからね」
「ということは、アンタ初心者なの?」
「むしろ不器用なので! めちゃくちゃなものが出来上がる自信があります!」
「胸張っていうことじゃないわよ。胸ないけど」
「余計な一言はいらんとですよ!」
「でもいいの? あの子のことだから、負けたら何か罰ゲームとか……」
「動画の主役を明け渡すことになってますね」
「一大事じゃない!」
「でも大丈夫! 勝負の方法は『どっちに編んだものをプレゼントされたいか』ですから!」
「それでもやっぱり、上手にできた方が欲しいんじゃないかしら?」
「ノンノン! そうじゃないんですよ」
「なんかイラっとする言い方ね」
「どちらからプレゼントされたいかであって、どちらの作品かではないのですよ!」
「あぁ、そういうこと? それなら、かわいい方からプレゼントされたいってなるわけね」
「そういうことです!」
「…………。それってつまり、アンタ自分が選ばれると思ってるわけよね?」
「もちろん!」
「その自信、やっぱりウザいわね!」
いったい何に嫉妬しているんでしょうねぇ?
まさか自分では私たちの可愛さ対決に混ざれないことに、疎外感でも感じているんでしょうか?
「なんか今、失礼なこと考えなかったかしら?」
「まっ、まっさか~!」
(こいつ、読心術使えんのか?)
(怖いこと言わないでくださいよぉ……)




