044 サキュバスさんは天才なのだ!
「知っての通り、自分のせいでウチは魔王城におりにくなったわけなんやけどな」
「いや、あなたが横領したからで、私のせいではないでしょう?」
「なにゆうてんねや、横領やのうて、まわりの子らが貢いでくれてただけでやな」
「その魔族も魔物も、みんなあなたの指示だってゲロってんですけど」
「そうやっていっつもウチを悪いようにゆうて!」
「そこはいいから、話進めろや」
始まった昔話をさっそく脱線させた私に、クロスケはたいそうご立腹だ。
仕方ないですね。しばらく大人しくしておきましょうか。
どうせツッコミどころまみれな気がしますけど。
「そんでやな、一応魔王軍に籍はあるゆうし、一番近いこの街に来たっちゅうわけや」
「まだ魔王様がクロスケをお気に入りで、ずっと膝の上に乗せてた頃ですね」
「せやな。スライム撫でながら怒られたけど、膝の上に猫乗せてる裏社会のボス感あったわ」
「実際クロスケは、今でも猫みたいな扱いですしね」
「俺のことはいいから続き」
「はいはい。んでまあ、人に化けて潜入したんよ。一番最初にやったんが、占い師っちゅうわけや」
「占い師?」
「せや。女神がそのうち来る言うたんは、うちや」
「マジかよ!」
「いやー、まさかその女神とやらが、自分らの変装した姿やとは思てなかったけどな?」
「えー……。じゃあ、人間たちに崇められてる占い師って……」
「ウチのことや」
「うわぁ、御利益吹き飛びますねぇ……」
「まあ、それはいいんだけどさ、なんで占い師を? 全然男っ気ないような気がするんだが」
「そこがウチの賢いとこやねん!」
「自分で賢い言っちゃうんですか」
「実際そうやからええねん。サキュバスさんは天才ですから?
で、占い師ちゅうたらやな、やっぱり女子供に受けるわけよ」
「そうですね。あまり男たちが占いを信じるイメージはないですし」
「せや。だからこそ、本気でヤバい悩み持ってるやつしか来やんのや」
「なるほど?」
「そんな悩み持ったヤツが行方不明になったとして、人間はどう思うと思う?」
「んー? んんっ!?」
「行方知らずになるには十分かもしれないな」
「せやろ? そういうのを裏でしっかり吸い尽くして、骨の髄までしゃぶりつくしてたワケなんよ」
「うわぁ……。まさか崇めてた占い師の裏の顔がこんなだったとはねぇ……。裏無い師なのに裏があるってか!」
「うっわ、さっぶ……」
「そういう反応、普通に傷つくんでやめてもらえます?」
「スルーせんと拾ってやるだけ優しいやろ?」
「お気遣いどーも」
「しかし、それでうまくいってたんじゃないのか?」
ぺしっとクロスケのビンタが入り、脱線を叱りながら、クロスケは話を戻す。
このスライムはどれだけサキュバスのネタが欲しいのやら……。
「まあ確かに、最低限食えてはいたんやけどな。やっぱりこう……、ちゃうねん!」
「なにがちゃうんです?」
「そういうメンタルやられてるヤツってのは、活きもよおないし、濃さもないんよ」
「なんか生々しい……。生々しくない?」
「せやから、当時はまだ人間も『魔王討伐やー!』みたいな勢いあったし、勇者として出ていくヤツらを誘導して、ちょいちょいいただいてたんやけどな」
「なんですか、その料理のつまみ食いみたいなノリは」
「そう! まさにそれ! 全然腹膨らまんかったんよ!」
「いや、微妙なたとえに乗っかってこられても……」
「せやから、偉大なる占い師は寿命で死んだことにするとして、天才のウチは次の作戦を考えたんよ!」
「それが、キャバクラですか……」
「せやねん! 酒と女で男を釣って、発情期の活きのいいのをいただこうっちゅう作戦や!」
「まあ、その方が本来あるべき姿な気はしますが……」
「せやけど問題はな、店行ったあとそのまま行方不明になったら、誰も店に寄り付かんやろ?
せやからウチは、血の滲むようなトレーニングをしたんや!」
「血の滲むような? 努力を? あなたが? 信じられない!」
「ホンマ自分、一発しばいたろか!」
「こわ〜い!」
「うっざ、サブイボ立ったわ」
「だから話の腰を折るなっ!」
今度はビンタじゃなく体当たりだ。
まあどちらも、ぷにょりとして心地いい程度にしかならないんですけどね。
「んで、なにをどうしたって?」
「それがな、人間が死なん程度の寸止めを覚えたねん!」
「寸止め……。これ、怒られない?」
「誰にや? ともかく、死なん程度にしゃぶり尽くして、回復を待つようにしたんよ。
これは狩猟民族から農耕民族への、大大大転換点やと思わん!?」
「ま、まぁ……。言わんとしてることは分かりますが……」
「そのために、人間が無駄に魔界へ行かんようにっていう細工もしたし、今は安定した食糧確保ができてるっちゅうわけや」
「はー……。幻想が粉砕して粉雪のごとく風にながされてったわ……」
「うわ、クロスケ!? なんでぐんにょりしてるんです!?」
「んなもん、全然薄い本のネタにならねえじゃねえか! 男がスッキリするだけだぞ!?
サキュバス側もその能力ゆえに愛した相手を殺してしまう、悲恋モノにもならねえじゃねえか!!」
「うわ、ありがちなシチュ……」
「せやな、悲恋にはならんわな。三日三晩足腰立たんくなる程度やしなぁ」
「こっちはこっちで、意外と限界まで攻めてますね!?」
「攻めてナンボやろ!?」
「攻められてナンボだろ!?」
「なんやねんこいつら……」
クロスケは、自身の性癖にさえ合致すればいいらしく、どちらの味方というわけでもないようだ。




