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038 人気商売なので

 現場は混沌へと進み続けていた。リリーファンクラブと、女神信者による宗教戦争。

腕相撲でどちらが勝つか、試合内容は武闘派にも関わらず、どちらの勢力がより「推し圧」が強いかせめぎ合っていたのだ。



「リリーちゃん! 君なら絶対勝てる!」


「女神様! 人間程度が楯突くことの愚かさをお見せください!」


「や〜ん! そんな目で見つめられると、期待を裏切れない〜!」


「ってか、結局勝負すること前提で話進めるんすね」


「はいはーい。掛け金はこっちに入れてネ」



 ぶりっこし続けるサキュバス、呆れる私。

そして掛け金を集めだす、復活のロアンさん。

って、しれっと賭けにするとは抜け目ねえな!?


 しかもお互いのファン同士が、推しへの愛を競うように、どれだけ多く掛け金を積めるか競っている。

これは胴元の取り分が1割であっても、相当の利益になりそうだ。

やはり賭け事は、胴元が一番儲かる。アイドルも、事務所が一番儲かる。世間の闇である。



「それじゃあ、あたしがんばっちゃう!」


「うぉぉぉぉ!! リリーちゃん頑張って!!」


「えー、私はやる気ないんだけ……」


(おらてめぇ! 盛り上げんかいっ!!)


(なんでそんなノリノリなんすか……)


(ったりめーだろ! こちとら人気商売、イベント盛り上げてナンボなんじゃいっ!)


(アイドルさんは大変ですねぇ……。いや、あなたアイドルでしたっけ?)


(キャバ嬢や)


(なんかアイドルよりも何かが落ちた気がする)


(うっせぇわ! こちとらコレでメシ食うとんじゃ!)


(メシ、イコール男ですけどね)



 しかし言われてみれば当然で、何かと競う場面というのは、ファンにとっては盛り上がるところなのだろう。

異世界の動画も、コンテストがあると必死に投票を促す宣伝動画とか投稿されてましたし。

ちなみに私は別世界に住んでいるので、投票できませんでしたけど。

ちゃんと別世界からの接続をはねてるセキュリティに驚いた。


 っと、では私も動画投稿者として、ファンの期待に応えなければなりませんね。

人気商売ってのは、大変なんですねぇ……。



「はいっ! お手柔らかにお願いしますっ!」


「や〜ん、女神さまったらノリノリっ! あたしも負けないぞ〜!」


(きっしょ!!)


(うっせぇ! しばくぞ!)



 会話オモテ念話ウラがあまりに違いすぎて、さすがに混乱してきた。

私が彼女を苦手に思うのは、こういう所なんだよなぁ……。


 まま、とにかく今は勝負です。

誤認とはいえ、戦いの女神ともてはやされているからには、勝つ他ありませんね!

そしてここで名を売って、動画の視聴者を増やす! 完璧な作戦!



「よしっ! やるぞ!」


「へへへ、よろしくね」



 あざとく、舌足らずな挨拶と共に、勝負の台に肘を置く。

私もそれにならい、同じように手を差し出した。

がっしりと握られたはずの手は、力なくふわりとしていて、これはわざと負けてかわいいアピールするつもりだなと確信する。



「では、審判は引き続き私が……」


「テメェ、ずりいぞ!」


「さっきからやってんですから、当然でしょう?」



 準備ができた私たちに対し、先ほどの憲兵が再び審判を買って出る。

さっきの試合は仕方なくだったが、今回はウッキウキな雰囲気だ。

一応今回対戦する二人は、見た目はうら若き美少女と言って差し支えないですし、下心全開で握られた二人の手を触るのもまた仕方ないことだ。うん、シカタナイネ?

その二人の正体を知っていれば、今すぐにも逃げ出すと思うんですけどね。


 美少女(仮)に挟まれて、一部界隈から処刑せよと罵声を浴びせられる憲兵は、少々長めに準備時間を取った。

そんなに二人に挟まれたかったんですかね? クロスケなら、釣天井トラップに挟まれてろって言っているところですよ。

そういえば、クロスケがさっきから静かですね……。



「では改めて……。レディ、ファイッ!」



 一瞬気が散ったその瞬間、試合は始まる。

そしてその時、不思議なことが……。いや、不思議なことではないことが起こった。

いままでその言動と同じく、ゆるふわにしか力を入れていなかったサキュバスが、恐ろしい勢いで私の手を卓面に叩きつけんとしてきたのだ。


 とっさの判断で、ぎゅっと押しとどめたためなんとか瞬殺を免れたが、危ない所だった。

内心冷汗が噴き出たものの、残念ながら私は骨しかない身。汗腺もないので問題なかったのだ!

いや、それどころじゃない! この女、やはり食えないヤツだ。



(チッ! しくじったか!)


(ホントあなたって人は……。人じゃないですけど!)


(うっせぇ! 女神に勝った美少女っつー称号が欲しいんじゃいっ!!)


(うわぁ……。人間界に馴染みすぎて、俗っぽくなりましたねぇ)


(これがウチの! 処世術やぁぁぁぁぁぁ!!)



 念話で叫びながら、勢いよく押し付けてくる。

いや、念話での叫びって力の増幅作用あるんですかね?

異世界の動画知識でいえば、実際の叫びは数%の運動能力向上があるらしいですけど。


 っと、そんなこと考えている場合じゃなかった。

ここで負けてしまうと「女神様兼、動画投稿者」という最大の売り文句を失ってしまう。

なんとしてでも勝たなければ!

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