034 最強の女?
腕相撲大会一戦目を勝利で飾ったロアンさんは、まさに連戦連勝だった。
まったくもってこちらに出場要請が来ないのをいいことに、クロスケが味見と称してほろ酔いになるくらい暇を持て余していたのだ。
もちろんお客に出すお酒の味見なので、前みたいに完全に酔っぱらうことはないけれど。
ロアンさんに負けた男たちは、皆しょんぼりとしながらカウンターへとやってきては、おつまみのナッツと共に、私の手作りカクテルをちびちびと飲んでいる。
せめて噂の女神様からお酒を頂きたいということらしいが、実際の様子は飲みながら愚痴っている光景だ。
「ブラッドの野郎、必死すぎんだろ……」
「ブラッド……? ああ、ロアンさんの本名でしたっけ?」
「ん? 女神ちゃん相手には、さすがのアイツも名乗ったのか」
「女神ちゃんって……。それにしても、ロアンさんって強いんですねぇ。
まあ、腕相撲の強さが勇者としての強さとは一致しませんけど」
「いや、アイツは訓練生の時には、この街で右に出る者がいないほどの強さだったさ」
「訓練生?」
「ああ、そういや外出身なら知らないか。この街は魔界との前線防衛都市だらな。
男も女も関係なく、勇者選別訓練所に入るって決まりがあんのさ。
そこで素質が認められれば、勇者に抜擢されるワケよ」
「へー。それならロアンさんも?」
「いんや、アイツはほら……。手癖が悪いだろ?」
「言葉を濁しているようで、濁せてないような?」
「ともかくだ、男同士で組むにも問題だし、女も一応性別上男のアイツとはってなんだよ。
まあ、デキちまってる奴ら同士で組むなら、んなもん関係ないんだがな」
「へー、そうなんですか」
そういえば昔、ばったり出くわした勇者一行は男女混合だったと思い出す。
あの4人も、どういう組み合わせかは知らないけど、そういうことだったのかな。
「ま、なんだかんだ言っても、本人にその気が無かったってのが一番の原因だけどな」
「それでお店を開いたんですか」
「いんや、この店は元々あったぞ? 先代のマカオさんからアイツが譲り受けたのさ。
だからアイツ、どんなに客入りが悪くとも、絶対に潰せないって意地張ってんだよ。
負けず嫌いは昔っから治ってないようだな」
「確かに今も、下心よりも腕相撲勝負を心底楽しんでるみたいですしねぇ……」
「下心さえ隠せりゃ、アイツも勇者として引く手あまただろうにな」
カラカラとウイスキーの氷を回しつつ、負け犬扱いされた男は乾いた笑いを漏らす。
遠目に見つめる人混みも、ロアンさんがばったばったと挑戦者を叩き潰したおかげで、だいぶ見通しやすくなっていた。
そんな時、店の扉が開き、ドアに付けられたベルがカランカランと音を鳴らす。
また挑戦者が増えたのかと思いきや、入ってきたのは女性だった。それもかなり巨乳の!
(でかい!)
(反応するトコそこかよ!!)
(そりゃ、自分にないモノに目が行くのは仕方ないでしょう!?
しかも鎖骨までばっちり見える、広めに胸元を空けた服ですよ!?
見てくださいと言ってるようなもんじゃないですか! なので見ます!! ガン見!!)
(落ち着け。しかしニットの服で、手が袖で隠れるようなだぼだぼな服とは、寒がりか?
寒がりだったら胸元隠して、首元ガードして温めろって話なんだが)
(何言ってんですか! 燃え袖というヤツですよ! かわいいですねぇ!!)
(興奮すな。てか「燃え」袖じゃなくて「萌え」袖な。
ってことはあれか、アイツはわざわざ見せつけたり隠したり……。
男に媚び売るためにあんな恰好してるってワケか。あざといな)
(クロスケは冷ややかですねぇ。媚びてくれてるなら、素直に受け取ればいいんですよ。ガン見!)
(俺は可愛いのは許すが、あざといのは処すタイプなので)
(見解の相違ですね)
念話で性癖の暴露大会をしていれば、やって来たあざとい女性は男たちの人だかりへと割って入る。
そしてロアンさんの前に行けば、かわいらしい雰囲気で頬に人差し指をあてた。
ちなみにクロスケに言わせれば、あざとさで吐きそうになる仕草らしい。
「やだぁ、今日はお客さんいっぱいなのね~?
腕相撲大会? っていうの? そのお話きいて、わたしも来ちゃったぁ~」
「チッ……」
「あーん、舌打ちとかこわ~い」
「冷やかしなら帰って頂戴。見ての通り、アタシは忙しいの」
「そうよね~。お相撲さんだものね~?」
「アンタ、一発ぶちかまされたいのかしら!?」
「こわ~い」
(喋りがうぜぇ……)
(これは私から見てもあざといですねぇ!)
(のわりに嬉しそうだな)
(そりゃ、あざといのは可愛いですからね!)
(見解の相違だな。アイツしばいてきていい?)
(もしや、溶解スライムとして薄い本でアツくなる展開ですか!?)
(かわいいのがかわいそうになる展開が好きなら、そうかもな)
(かわいそうなのはちょっと……)
なんてことを言っているうちに、ロアンさんの方は一触即発の空気になっているようだ。
それというのも、周囲の男たちが気づかれないようにしつつも、一歩、また一歩と、二人から距離を離し、避難していたのだから。




