032 男を紹介に来ました
「アンタ……、見た目によらず強いのね……」
憲兵二人に挟まれる形でカウンターに座った私に、その中でロアンさんは呆けながら言う。
お茶を頂きながら喋った憲兵の話に、こういった反応するのも当然だろう。
私もただの人間が「手加減パンチ」で魔王城に穴を空けたら、そういう反応すると思うし。
もちろん私の手加減パンチは魔王城に穴を空けられないし、この街の防壁が魔王城とは比べ物にならないほど弱いのは言うまでもない。
けれど、絶対の信頼を置く壁が壊されたという点で、その二つに違いはないわけだ。
「いやー、昔から魔物とは色々関りが多いもので……」
(そりゃまあ、俺たち魔族だしな)
「そのような環境の中、今まで生き延びられた事こそ奇跡。
まさに、女神さまの寵愛を受けている……。いや、まるで本物の女神様のようだ……」
「そうね、女神様にしては、ちょっと貧相だけど」
「って! どこ見てんですか!!」
「胸」
「臆することなく言いやがった!」
(コイツは、何があっても平常運転だな)
(ん-、私はちょっと違和感ありますけどね)
「というか、ロアンさん体調でも悪いんですか?
いつもなら『私が女神様に見えるなんて! 当り前じゃない!』くらい言いそうなもんですけど」
「ちょっと! アタシのコトなんだと思ってるのよ!」
「自己評価高めマダム」
「一発ブチかますわよ!!」
怒った風な口ぶりだけど、ロアンさんは笑っていた。
なんだかんだで、やっぱり心配してくれていたんだと思う。
結界の中で生きている人間にとっては、魔物を見る機会なんてないようで、怖かったんだろうね。
そのうえ知っている人が攫われたとなると、相当ショックだっただろう。
実際には人間の変装が溶けただけなんだけどね。
「冗談はともかく、さすがの私も女神様を騙るなんてしないわよ」
「美しいという称賛は全て受け取るつもりなのに?」
「それは当然よ! でも女神様は、ねぇ……?」
「え? なにそれ、女神なのにやばい系の邪神的な?」
「アンタ、本当に何も知らないのね。女神様は、予言に出てきた軍神なのよ」
「予言? 軍神?」
「アタシより、そっちの二人の方が詳しいと思うわ」
そう言って目配せされた憲兵二人は、少々ビクっとしていた。
どれだけロアンさんは危険人物だと思われているのやら……。
「んっ、コホン。女神とは、いずれこの地に降り立つと予言されている軍神のことだ。
占い師による予言のため、名前はないのだが……。魔を退ける力を人間に与えるとされている。
それは突然街へとやってきて、圧倒的な強さを持ち、人々を魔王城へと導くとされているのだ。
人々はみな女神様が降臨されるその日を待ち続け、魔王をけん制しながらも、その日を迎えるまで力を蓄えているのだ」
「へー。うさんくせー」
「で、その予言の女神ってのが、アンタじゃないかってこのコたちは言ってるワケ!」
「へー。それじゃ、人違いですね!」
「君の実力を見れば、君が女神様だと皆信じるだろう」
「本人にその気がないので女神様は別に居るとおもいまーす。
もしくは、その占い師が大外れをかましたかですね!」
「ま、アンタがそうじゃなくたって、高名な占い師の予言だから、みんな当たると信じてるわよ。
憲兵たちの腕章にデザインされるくらい、信仰を集めてるもの」
「私としては、その占い結果をみんながみんな信じるほど信頼されている、占い師の方がスゴイって思っちゃいますね」
「多くの占いによって人類を救ってきた、歴史に名を遺す偉大な占い師だからな。
宗教の一派を作るほどに、大きな存在となっているのだ」
「まあ、モリナシ生まれというよりは、野生児って言った方がいいアンタは知らないでしょうけどね」
「ロアンさんも、そんな著名な占い師になれるといいですねー」
「アタシのは、話のネタにする程度でいいのよ。本業はこの店なんだし。
あとは、イケメンの手相占いができるようにってだけのハナシ。
ってことで、二人も占ってあげましょうか? 安くしておくわよ」
「無駄に手を握られる上に、カネまで取られるって、新手の拷問かなにかか?」
「もうっ! 失礼しちゃうわね!」
プンプンといった擬音が聞こえそうな様子だが、当然本気ではない。
さすがのロアンさんも、憲兵に喧嘩を売る気はないのだろう。
「でも、ロアンさんの占いは、結構当たってた気がしますよ」
「あら、そうだったかしら?」
「だってほら、前にやってもらった水晶占い。あれで骨が見えるって言ってたじゃないですか」
「ああ、そういえばそうだったわね。でもあれは、死んだ後の姿だったんじゃなかったかしら?」
「もしかすると、あれって魔物が来るっていう知らせだったのかなーって」
「なに!? そのような占いをしていたのか!? なぜその時に知らせない!」
「知らせるもなにも、試しにやっただけだもの。当たるなんて思ってなかったわよ」
「なるほど……。しかし、占いができるのであれば憲兵隊としても心強い。
よし、では本当に当たるかどうか、私を占ってみてはもらえぬか?」
「あらー! 嬉しいわ! さっ! 手を出して!」
「あ、あぁ……」
むにむにもみもみと、手相を見るというよりはマッサージをしているようなロアンさん。
その表情は、飢えた獣が久々に獲物を仕留めたようなものだった。
(なあ、あれは占いじゃないよな。素人の俺でも分かる)
(プロの私から言わせれば、あれは……。なんなんでしょうね?)




