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031 どっかで見たやーつ

 私の手加減よわよわパンチは、相手の腹に見事命中し、その後弾丸と化した彼によって、街を守る壁に大穴を開ける結果となった。

崩落しつつある壁は、もうもうと土煙を上げ、列を作っていた検問待ちの人々の視線を集める。

立ち合いをしていた上官はすぐさま駆け寄り、瓦礫の中から部下を必死に探していた。



(あわわわわわ……。どうしましょう!)


(あちゃー、っちまったな! これで晴れて牢獄行きだ!)


(そんなのどうでもいいんです! この状況、アレでしかないじゃないですか!)


(アレ? アレってなんだ?)


(異世界動画のマンガレビューってヤツでボッコボコに叩かれていた、なろう系ってやつですよ!!)


(あー、うん。そう? かも? いや、どうなんだろ?

 とりあえずここは「俺、なんかっちゃいました?」って言っとく?)


(そんな役満揃えたら、動画でフルボッコ不可避じゃないですかー!!)


(てーかお前、この話を漫画化すんの? しかも異世界で)


(しませんよ? というかできませんよ?)


(なら心配する必要ねえじゃねえか!)


(たしかに!)


(ともかく、この状況どうするよ?)


(えーっと、一応人間のフリは続けましょうか……。

 私が生きていることさえ確定させれば、動画投稿は続けられるんでしょう?)


(そうだな。捕まったら捕まったで、脱走すればいいだけだし)


(では、やることはひとつですね)



 私は呆然とした顔で固まったふりをしながら行っていた秘密会議を終わらせ、はっとした表情で土煙上がる現場へと駆け寄る。

でもこの状況で呆然としてるなんて「まさか相手がこんなに弱いなんて」みたいな驚きをしていたように見えそうかもなぁ……。



「あのっ! 大丈夫ですかっ!?」


「がはっ……、死にかけた……」


(生きてんのかーい!!)


「私としてはむしろ、この状況で生きている方が驚きなのだが……」


「無様な姿を見せてしまい、申し訳ありません……」


「いや、これは私の判断ミスだ。本当に強い相手であった場合を想定しておくべきだった。

 そしてこの娘は、ただ強いだけではないようだな……」


「はい。見ての通り、腹に穴が開いてはいません。これは明らかに、防御魔法がかけられた証かと」


「うむ、さすがに貴様も見抜いたか。対魔物用城壁がこれほどの被害を被っていながら、身体の原形をとどめただけでも強力な魔法であったことは確かだ。

 自身の戦力を把握し、かつ誰が見ても強いということを示す。そのために攻撃と防御、双方を同時にやってのけたのだ。

 これほど強く、なおかつ器用な真似をできる者を、私は今まで見たことがない」


(そんなことやってたの!?)


(はい、一応念のために)


「ワイよ、君の強さはしかと見せてもらった! ぜひウチの部隊へ入ってはくれないだろうか!」


「いやでーす」


「即答っ!?」


「私、そんなことするのにこの街に来たんじゃありませーん」


「そっ、そこをなんとか!」


「ダメでーす」


(そりゃ人間に肩入れしたら、完全に反逆者だもんな)


(ですよねー)



 そんな念話など知るはずもなく、憲兵二人は必死に勧誘してきたのだった。

まあ、そうやって力を求められるってのは、魔王様の無茶ぶりと違って悪い気にはなりませんけどね。

魔王様ももうちょっと、かわいらしくお願いしてきて……。無理だな。というか、想像したら気持ち悪かった。



「ともかくー、私はロアンさんが心配してると思ったから、戻ってきたんです。

 何をするにも、まずはロアンさんに無事だって伝えないとね?」


「そうか……。無理を言ってすまなかった。では、我々が店まで案内しよう」


「えー、付いて来るんですかー」


「当然だ。歩く戦略兵器を野放しになど……。っと失礼、相手方への説明もいるだろう?」


「今完全に、私を危険物扱いしましたよね?」


「んんっ! そんなことは決して……」


(決して「ある」よな)


(ですよねー)


「ま、別にいいですけど」



 そうして、ぞろぞろと二人の憲兵に連行されるように守られながら、私は「喫茶&バーマカオ」へ向かったのだ。

護衛されているというよりは、むしろ罪人を連れてるようにしか見えない気もするけど……。

そうして店の扉を開ければ、私の顔を見た店主のロアンさんは、驚きのあまり磨いていたグラスを落とす。


 パリンと軽い音で砕けるガラスなど完全に無視し、一気にこちらへ駆け寄り、力いっぱい私を抱きしめたのだ。

その時ついてきていた憲兵二人が身構えたことは、気づいていない事にしておこう。普段の行いのせいだから。



「アンタ……、生きてたのねっ!」


「痛いです痛いです!」


「バカッ! 心配させてっ!」


「ご、ごめんなさい……」


「でも、無事でよかった……」



 ワシワシと大きな手で頭を撫でるロアンさんの身体は、熱く、そして非常に硬かった。

けれど本当に心配していたのだと、その強い抱擁が骨身に染みたのだ。まあ、私骨しかありませんけど!



(でもコイツ、本当に心配してたのは「男の紹介」なんだよな)


(しっ! クロスケ、それは言わないお約束です!)



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