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029 検問

 灰色の湖での作戦会議の結果、私たちは二日ほど待ってから街へ戻ることになった。

さすがに今すぐ戻るのは「魔物を倒した妙に強い少女」設定であっても厳しいという判断だ。

まあでも、魔物を素手で倒せる強い少女設定というもの自体に無理がある気がするんですがね……。


 そうして再びやってきた街の門は、えらく物々しい状況へと変わっていた。

入ろうとする人間達が3列になって並んでいて、先頭は見えないほどなのだ。

こういう場合、まずは情報収集。列の最後尾の人間に話を聞いた。



「あの、この列ってなんですか?」


「ああ、どうやら街で魔物が出たらしくてな。入る奴ら全員検査するんだとよ。

 まったく、迷惑なもんだよ。だいたい、魔物に入られるなんて、結界はどうなって……」



 その後がながかったので、あとれるに並びながらの話は右耳から左耳へ受け流した。

ま、元々私は耳ないんですけどね!!

そんな状況に、クロスケは少々心配しているようだ。



(なあ、これヤバくないか? 調べられたらさすがに気づかれるんじゃ……)


(ま、大丈夫ですよ。適当に誤魔化しますんで)


(誤魔化せんのかなぁ……)



 そんな弱気なクロスケとの念話での作戦会議をしていれば、順番が回ってくる。



「次の者!」


「はーい」


「名前と出発地は」


「名前はワイです。出身はモリナシの村で……。あ、でも出発地じゃないし……」


「なんだ? なにか隠しているな?」


「えーっと、どう説明しましょうか……。あの、魔物が出たんですよね?」


「そうだ。だが、お前には関係ないだろう」


「いえ、それが……。そのスケルトンに攫われたの、私なんですよ。

 だから、出発地がこの街ってことになるなーって」


「バカも休み休み言え。そんな冗談に付き合っては……」


「待て」



 担当の憲兵が苛立ちを隠さぬ表情で言い終わる前に、後ろに控えていた上官であろう人間が待ったをかけた。

担当憲兵の苛立ちの表情がこわばり、びくりと後ろを向いて頭を下げる。なにかやらかしたんだと思ったのかな?



「はっ! なにかありましたでしょうか!」


「お前はいい、下がれ」


「はいっ!」


(どうもコイツ、お偉いさんっぽいな)


(これ殺れば、そこそこの魔力貰えそうですねー)


(そういや、お前の目的はそれだったもんな)


(クロスケのせいで、動画作成が目的にすりかわってますけどね……)


(いいじゃんいいじゃん! 楽しいだろ?)


(別に……)


(そっけないな!!)


(うそうそ。そこそこに楽しんでますよ。そこそこに)


(ワイトの塩対応がしょっぱい……。ソルティードッグ飲みたい……)


(しれっと酒飲みたい欲出してやがる!!)



 そんな念話などつゆしらず、ニコニコと笑顔の私を上官はまじまじと眺める。

うーん、さすがに経験豊富な憲兵には、スライムでの変装は見抜けてしまうのかなぁ?



「ふむ……。名前、背格好は話通りだが……。貴様、魔物に攫われたと言ったな?」


「はい。スケルトンにぐるぐる巻きにされて、抱えられてたんですよ」


「にわかに信じられんが、本物とみたほうがよいか……。

 魔物から逃げられたとは、女神さまのご加護があったようだな」


「上官殿! 恐れながら進言いたします!

 そのような者が、魔物から逃れられたとは考えにくいかと!」


「勝手な発言を……。まあよい。では問おう。この娘は、貴様も知らぬ情報を持っていた。

 検問という街を守るための重大な責務を任された貴様なら、当然それに気づいたな?」


「知らない情報、でありますか」


「はぁ……。やはり分かっていなかったか……。

 事件の情報は伏せられている。もちろん、出現した魔物の種類もだ。

 しかしこの娘は、スケルトンだと明言していたではないか。

 貴様の目は何を見て、貴様の耳は何を聞いていたというのだっ!?」


「はっ! はい! 申し訳ありません!!」


「だいたい貴様は、検問など下っ端の仕事だと言いたげな顔で、面倒そうな顔をしていたな。

 これもまた街を守る重大な使命であり……」


(長くなりそうだな)


(長くなりそうですね)


(ほっといて中入るか?)


(そうしたいところですけどね。まあ、止めましょうか)


「あのー、お説教中申し訳ないのですが、通ってもいいですか?」


「…………。これは失礼した。だが、通す訳にはいかん」


「えー……。攫われた本人が帰ってきたんだから、事件解決でいいじゃないですかー」


「そうはいかん。貴様は呪印付きと聞いている。呪印を付けた魔物を倒さねば、解呪されんのだ」


「ああ、それだったら問題ないですよ! あのスケルトンはボコっておきましたから!」


「……は?」


「あ、これ証拠の骨です! どうです? これで通してもらえますよね?」


「…………。あー、ちょっと待て。頭の中を整理する」


「はいどうぞ」


「貴様は呪印をつけられ、それによって攫われた。だが、その相手を倒したと?」


「そういうことですねー」


「バカも休み休み言えーーー!!」



 上官は唾を飛ばしながら、怒鳴りつけてきた。きったねぇ!

まったく、証拠(偽造品)まで用意したのに、なにが気に入らないんですかねぇ?

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