028 死亡確認
「彼がブレないのはともかく、魔族だとバレなくてよかったですね」
「どこがいいんだよ」
どう表現するのが適切なのか困る映像を見たあと、私はそう言ったのだが、クロスケのご機嫌はあまりよくないようだ。
魔族だとバレていないなら、これほど運のいい展開はないと思うのですがねぇ……。
「どうしてです? 魔族バレしてないなら問題ないでしょう?」
「いや、死んだ扱いされてるじゃねえか」
「まあ、実際私は死んでますし」
「そうじゃねえ! 死んだヤツが動画投稿してたらおかしいだろうが!」
「あっ……。普通は死んだら動画投稿できないんでしたっけ?」
「いや動画に限らず、動かなくなる……。ってか、なんだこの違和感しかない話は!?」
「ははは。私、死にませんから」
「なんだそのどっかで聞いたような、というかすでに死んでるというか!
あー!! ツッコミどころを複数ぶっこむのはやめろ!!」
「うん、ちょっと調子戻ってきてますね?」
「お前の相手してりゃアルコールも抜けるわ!」
ぷんすかという音が聞こえてきそうな様子に、本当にアルコール分が頭から湯気となって出ているように思えるのだから面白い。
まったく、スライムというものは怒っててもかわいいですねぇ。ずるい。
「では、どうします? 死んだことになってますし、チャンネルをイチから立て直しますか。
顔は割れてますが、クロスケの匙加減ひとつでそこはどうとでも変えられるでしょう?」
「まあ、それも一つの方法ではあるが……。せっかく投稿始めたのに、それはもったいないな。
なにより、できはともかく今までのものを捨てるのはもったいない。できはともかく」
「ミーさんが聞いたら、泣きながら斧を振り回しそうですね」
「おいやめろ」
「まあ、ミーさん本人も次回に向けて練習するとか言ってましたし、またご登場いただくにも同じチャンネルでないと問題ですねぇ……。何やるかは別で考えるとして」
「本当にそれをやるかも別で考えるとしてな」
「泣きながら握力でスライムを握りつぶすくらいはしそうですね」
「武器無しでも恐怖だな。ともかくだ、作り直しは無しで。
なにより、あのロアンってヤツの酒はウマイ。酒動画はウケそうだしな」
「また飲みたいだけなのでは?」
「バレたか」
「アル中スライムだー!!」
あれほどの醜態をさらしておきながら、まだ飲み足りないと言いたげなのだから救えない。
しかしあのロアンという人物は、知識も豊富で、実際に作れるカクテルの種類も多い。
そして味だけは感じられる私は、酔わずに吟味できたのでよくわかるが、実際に美味しかった。
つまりあの店が閑古鳥が鳴いている原因は、腕が悪いのではなく接客態度が悪いのだ。
あれ? 他にも何か言っていたような……。
「ま、ともかくだ。ワイ(仮名)が助かったってことにしないといけないわけだ」
「え? あー、うん。そうですね」
「なので、適当にお前の骨ぶっこ抜いていいか?」
「なんでそうなるんです!?」
「ほら、スケルトン倒したってことにしようかと。
その証拠に、骨持っていこうと思って。どうせあとで犬のおやつになるだろうけど」
「ひどい! せめて伝説の遺物的な扱いにしてくださいよ!」
「無理だろ」
「じゃ、いいや。そのへんの人間の骨持っていきましょ」
「えっ」
「どうせバレませんってば。適当に私の懐に入れて、臭い付けておきますから」
「ガチで犬へのお土産にするつもりじゃん。しかし、人骨なんて……」
「その辺に落ちてるでしょ、魔界なんだし」
ぐるりと湖の周りを見渡す。しかし、そこには枯れはてた木々と、ひび割れた大地。
そして中央に、灰色の水をなみなみと湛え、投影機の映像を映す湖があるだけだった。
「ないな」
「なんで!?」
「それだけ人間がこの辺に来ることがなくなったってことだな」
「マジデ!?」
「いやー、こう見ると魔界は、人間にとってツマンネー場所なんだな!」
「そりゃ魔王城までたどり着く者がいなくなるわけですよ……」
「街からちょっと離れた、こんな場所ですらこうなんだからな」
「もしかして、魔王城に良いアイテム置いても無意味なのでは……」
「かもな」
「そうなると、動画を作る動機が消えるんですが」
「ちっ……。そこに気付くとは、これだから無駄に勘の良い骨は……」
「いや、普通気づきますよ!?」
「仕方ねえ、俺が前に襲った村から骨持ってきてやるから、今回はこれで手打ちってことで」
「全然手打ちになってませんからね!?」
もにゅもにゅと動き出し、投影機の映像を子分の様子に切り替えるクロスケは、私の話など聞く気はないようだ。
どうやら、あのロアンというマスターの話を聞かなさが移ってしまったみたいだ。




