表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/65

028 死亡確認



「彼がブレないのはともかく、魔族だとバレなくてよかったですね」


「どこがいいんだよ」



 どう表現するのが適切なのか困る映像を見たあと、私はそう言ったのだが、クロスケのご機嫌はあまりよくないようだ。

魔族だとバレていないなら、これほど運のいい展開はないと思うのですがねぇ……。



「どうしてです? 魔族バレしてないなら問題ないでしょう?」


「いや、死んだ扱いされてるじゃねえか」


「まあ、実際私は死んでますし」


「そうじゃねえ! 死んだヤツが動画投稿してたらおかしいだろうが!」


「あっ……。普通は死んだら動画投稿できないんでしたっけ?」


「いや動画に限らず、動かなくなる……。ってか、なんだこの違和感しかない話は!?」


「ははは。私、死にませんから」


「なんだそのどっかで聞いたような、というかすでに死んでるというか!

 あー!! ツッコミどころを複数ぶっこむのはやめろ!!」


「うん、ちょっと調子戻ってきてますね?」


「お前の相手してりゃアルコールも抜けるわ!」



 ぷんすかという音が聞こえてきそうな様子に、本当にアルコール分が頭から湯気となって出ているように思えるのだから面白い。

まったく、スライムというものは怒っててもかわいいですねぇ。ずるい。



「では、どうします? 死んだことになってますし、チャンネルをイチから立て直しますか。

 顔は割れてますが、クロスケの匙加減ひとつでそこはどうとでも変えられるでしょう?」


「まあ、それも一つの方法ではあるが……。せっかく投稿始めたのに、それはもったいないな。

 なにより、できはともかく今までのものを捨てるのはもったいない。できはともかく」


「ミーさんが聞いたら、泣きながら斧を振り回しそうですね」


「おいやめろ」


「まあ、ミーさん本人も次回に向けて練習するとか言ってましたし、またご登場いただくにも同じチャンネルでないと問題ですねぇ……。何やるかは別で考えるとして」


「本当にそれをやるかも別で考えるとしてな」


「泣きながら握力でスライムを握りつぶすくらいはしそうですね」


「武器無しでも恐怖だな。ともかくだ、作り直しは無しで。

 なにより、あのロアンってヤツの酒はウマイ。酒動画はウケそうだしな」


「また飲みたいだけなのでは?」


「バレたか」


「アル中スライムだー!!」



 あれほどの醜態をさらしておきながら、まだ飲み足りないと言いたげなのだから救えない。

しかしあのロアンという人物は、知識も豊富で、実際に作れるカクテルの種類も多い。

そして味だけは感じられる私は、酔わずに吟味できたのでよくわかるが、実際に美味しかった。

つまりあの店が閑古鳥が鳴いている原因は、腕が悪いのではなく接客態度が悪いのだ。

あれ? 他にも何か言っていたような……。



「ま、ともかくだ。ワイ(仮名)が助かったってことにしないといけないわけだ」


「え? あー、うん。そうですね」


「なので、適当にお前の骨ぶっこ抜いていいか?」


「なんでそうなるんです!?」


「ほら、スケルトン倒したってことにしようかと。

 その証拠に、骨持っていこうと思って。どうせあとで犬のおやつになるだろうけど」


「ひどい! せめて伝説の遺物的な扱いにしてくださいよ!」


「無理だろ」


「じゃ、いいや。そのへんの人間の骨持っていきましょ」


「えっ」


「どうせバレませんってば。適当に私の懐に入れて、臭い付けておきますから」


「ガチで犬へのお土産にするつもりじゃん。しかし、人骨なんて……」


「その辺に落ちてるでしょ、魔界なんだし」



 ぐるりと湖の周りを見渡す。しかし、そこには枯れはてた木々と、ひび割れた大地。

そして中央に、灰色の水をなみなみと湛え、投影機の映像を映す湖があるだけだった。



「ないな」


「なんで!?」


「それだけ人間がこの辺に来ることがなくなったってことだな」


「マジデ!?」


「いやー、こう見ると魔界は、人間にとってツマンネー場所なんだな!」


「そりゃ魔王城までたどり着く者がいなくなるわけですよ……」


「街からちょっと離れた、こんな場所ですらこうなんだからな」


「もしかして、魔王城に良いアイテム置いても無意味なのでは……」


「かもな」


「そうなると、動画を作る動機が消えるんですが」


「ちっ……。そこに気付くとは、これだから無駄に勘の良い骨は……」


「いや、普通気づきますよ!?」


「仕方ねえ、俺が前に襲った村から骨持ってきてやるから、今回はこれで手打ちってことで」


「全然手打ちになってませんからね!?」



 もにゅもにゅと動き出し、投影機の映像を子分の様子に切り替えるクロスケは、私の話など聞く気はないようだ。

どうやら、あのロアンというマスターの話を聞かなさが移ってしまったみたいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ