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026 酔っ払いスライム



「うわぁ、どうしよう……」



 駆け込んだお手洗いには、肉が溶け骨だけになった私と、でろでろに溶けたクロスケ。

いやはや、まさかあの占いが、今日のこの惨状を映していたとは思いもしなかったなぁ……。

なんて言ってる場合じゃねえ!!



「ねえちょっと、大丈夫なの?」



 コンコンと扉をノックされ、少々遠慮気味のロアンさんの声。

この状況、どう言い訳しても誤魔化せるわけがねぇ!!



「おーい、クロスケ! 起きろー!」


「むにゃむにゃ……。もう食べられないよぉ……」


「わざとらしい寝言!! はよ起きろ!!」



 ぶにょぶにょと揺すっても、ぼたぼたと粘性が減った身体をよだれのようにたらすだけだった。

いや待って、スライムってこんなに身体を構成してる物質垂れ流して大丈夫なもんなのか!?

ともかく、これ以上垂れ流しはヤバいし、なによりこれをトイレに流すのはもっとヤバい! スライムが汚染物質になるかは知らんけど!



「知らんのかい……」


「寝言でツッコミ!? いや、それどころじゃないか」



 急いでクロスケを今まで着ていた服で包み、ぎゅっと結んで小包へと変えた。

とりあえずこれで、クロスケがドロドロになって流れ出るのは防げるはずだ。

あと問題なのは……。



「ちょっと!? ホントに大丈夫なの!?

 今お水持ってきてあげるから、鍵開けなさいよ!」


「待って……。ちょっとだけ待って……」



 考えろ考えろ! トイレは狭い密室。換気用の小さな窓はあれど、逃げばなし!

クロスケなら窓から投げ捨てられるけど、私が逃げられん!

というかクロスケなら、あの謎空間とこちらを結んで「ど◯でもドアー!」みたいなこともできるだろうけど、私は空間を歪める魔法なんて使えないんですよ!!



「こうなったら、正面突破しかない!」



 くるりと回れ右で後ろの扉へと向き直り、ダンっと開く。正面突破と言いながら背面だった!

いや、今はそれどころでもない。

水の入ったグラス片手に驚くロアンさんを尻目に、小包と化したクロスケを抱え私は走る!



「きゃぁぁあぁ!! 魔物よっ!! 誰か男の人呼んでっ!!」


「てめえも男やろがいっ!!」



 おっと、ついツッコミを入れてしまった。ともかく逃げなければ。

目眩しに小さく炎の魔法を使い、彼の持つグラスの水を蒸発させる。

突然の熱さにグラスを落とせば、一気に蒸気が上がり、少しだけ視界が狭くなった。



「熱っ! なっ! なんなのよっ!?」


「今のうちにっ!!」



 そうして彼の脇をすり抜け、店の扉にタックルして外へ出る。

だが運悪くそこには、見回り中の二人の憲兵が……。



「魔物!? 非常事態だ! 信号魔法を上げろっ!!」



 剣を抜きこちらに向かいつつ指示を出す男。

そして指示通り信号弾魔法を空へと打ち上げ、耳をつんざく音で周囲に異常を知らせるもう一人。

まあ、私に耳はないんですけどね! だからそれどころじゃねえ!!


 逃げるか、戦うか。けれどこちらは、小包クロスケを脇に抱えた状態。

小さな魔法ならともかく、戦うほどの魔法は難しい。

しかも魔王城であれば、トラップの活用もできるが、ここは人間の街。

トラップどころか、次々と人間の援軍が来る状態で戦うなど自殺行為だ。

まあ、元々私は死んでるんですけどね!



「ってことで、逃げまーす!」


「はっ!? 魔物が喋った!?」



 ギュンっと地面がえぐれそうなほどのスピンで方向転換。そして全力で走る。向かうは街の門。

まあ当然ながら、がっちり閉められてるんですけどね!



「来たぞ! 仕留めろ!!」



 そしてすでに5人ほどの憲兵がそこには集結していた。

後ろからはさっきの憲兵、前には門番であろう兵。挟み撃ちというやつですね!

ただありがたいのは、挟み撃ちなので相手は仲間への誤射を警戒して遠距離攻撃ができない。

なので私は接近せず、逃げ切りさえすればいいのだ。

問題は、どうやって挟み撃ちから逃れるかだが……。



「あ! 動画に挟まってたCMで見たアレやろう!」



 私は空いている左手の指先をクルクルと回し、氷魔法を纏わせる。どうやら、対魔法結界はそれほど強くないらしい。

氷魔法はキラキラと周囲の水分が氷となり舞い、周囲を冷やす。そこへ水魔法も練り上げ、地面へと射出した。



「魔法だ! 総員防御せよ!」


「そそ、防御は大事ですよねー!」


「は!? 魔物が喋っただと!?」


「それさっきも聞きましたよ」



 アホづらの門番たちをよそに、氷と水の混ざる魔法は彼らの前に着弾し、その姿を変えてゆく。

それは氷の刃……、ではない。氷の階段だ。



「異界の映画というものから着想を得た、氷の階段魔法ですよ〜」


「防御姿勢解除! 撃ち落とせ!!」


「今さらもう遅い!」



 氷の階段は巨大なアーチを描き、街を守る高い壁をも越える。

人間どもが弓を引けども、氷の階段に阻まれ私に届くことはなかった。



「あ、ここまで来たのはいいものの、階段を降りるのは面倒ですね……」


「んー……。むにゃむにゃ……。もうたべられにゃい……」


「ツッコミではなく寝言ですか!」



 右脇に抱えられたスライムは、まだまだ再起動できないようだ。

その小包を両手で胸の前へと抱えこみ、私は氷の階段魔法の形を少し変えた。



「さ、今度は氷の滑り台ですよ!」


「酒……。酒が足りんぞ……」


「まだ飲み足りないんですか!?」



 寝言小包と共に滑り台を猛スピードで滑り、私たちはなんとか魔界へと逃げ帰ったのだった。

結局、わざわざ人間界まで来たのに収穫ゼロだったなぁ……。

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