025 いっそ動画のネタにしよう
「お料理教室?」
(なるほどなるほど。宣伝ついでに動画のネタにしようって魂胆か)
(そのとおーーーりっ!)
(頭の中からっぽなのに頭いい!)
(でしょでしょー? って、なんやと?)
(実際頭蓋骨の中空洞だろ?)
(そりゃそうですけど……)
なんてバカ話している間、なにやらロアンさんは考え込んでいた。ロアンがシアン。
「んー、別に料理教えるのはいいんだけどー」
「なら早速なにを作るか……」
「いえね、それで男どもが釣れるかしらって」
「えっ?」
「男なんて、味付け濃いめのデカ盛り出してれば釣れるわよ?
なにごとも大きければ夢中になる生き物だもの」
「ごるぁ! どこ凝視しながら言っとんじゃいっ!」
「アンタは小盛りよねぇ……。ま、それはいいとして」
「よくないわっ!!」
「ウチの店、喫茶店だし出してるのは軽食よ?
デカ盛りの軽食って、もはや意味わかんないわよ」
「完全にスルーじゃないですかー! やだー!」
「あとはケーキセットみたいなスイーツよ。
男どもが喜ぶようなものじゃないし、宣伝になるかしら?」
「人の話は聞かないくせに、理路整然淡々と理詰めしてきやがる……」
(でも言ってることは割とマトモだぞ?)
(それが余計にムカつく)
(わかる。って、負けてんじゃねえよ!)
(んー……。どうしましょう?)
(そうだな……。アイツは男が釣れればいいんだよな?)
(釣ったあとどうするかは知りませんけど)
(世の中には、知らないままの方がいいこともある。
ま、ともかくだ。それなら策はあるぞ)
(さっすがクロスケ! 副案の宝石箱やー!)
(それ食レポで言うやつ)
悩むふりをしつつ、クロスケと相談しつつ。
宝石箱から溢れ出した副案を拾い上げた。
「では、バーで出しているお酒の紹介はどうですか?」
「あらあら、アナタやっぱりお酒に興味があるのね?」
「まあ、それもそうですけどね。お酒なら男の人も好きかなって」
「フフフ……。男を落とす酒を紹介してあげるワ。
びっくりするほど強いお酒よ。それを口車に乗せて飲ませて、でろでろに酔っ払ったところをね……」
「うわ、こいつサイテーだな」
「なによ! そういう目的なんでしょう!?」
「んなわけねえだろ……。てか、そんなことやってるから、閑古鳥の楽園になってんじゃねえの?」
「ちょっとヤりすぎちゃったかしら?」
「冗談半分のつもりだったのに……」
(つまりコイツのために動くと、俺たちも共犯になるのでは)
(それな! ホンマそれな!!)
(軌道修正よろ)
(無茶言うなっ!!)
「えーっと! あのですね! そうだ!
男性を落とすお酒より、女性を落とすお酒にしましょう!」
「なんでよ!」
「だってほら、それはあのその、あれですよ!!
女性を落としたい男の人が店に来るかなって!」
「そんなわけ……。あるわね」
(あるんかーーい!!)
(ともかくこれで被害者は減るしいいか)
(よく考えなくても、なんで私たちが人間の男の心配しないといけないんですかね……)
(ほんとだねぇ)
まあこれも、魔王様に対する世話焼きが常態化している副作用だろう。
そういうことにしとこ。そうしとこ。
「それじゃ、どのお酒を紹介するか吟味しましょ。
アナタが飲んでみて、酒レポするのよ?」
「え!? 私が飲むんですか!?」
「当たり前でしょ? アナタが飲んでみて、女性にオススメっていうから意味があるんじゃない」
「えーっと……。お酒は初めてで……」
(というかクロスケは飲んで大丈夫なんですか!?)
(人間が飲めるモンで、魔物が飲めない道理があるだろうか。いや、ない)
(なにその反語は)
(実際飲んでみたいと思ってたんだよねー)
(村襲って酒奪えばいいじゃないですか)
(モリナシの村に、大した量の酒なんてねえし)
(あ、これアル中スライムじゃん)
「初めてならなおよし! 甘めで飲みやすいの出すわ。
どれを紹介するのか、ちゃんと考えなさいよ?」
「は、はい……。がんばります」
(それがまさか、あんな惨事を巻き起こすとは、その時は思っていなかったのです……)
(どこ視点のモノローグだよ)
◆ 3時間後 ◆
「次はホワイトルシアンよ。コーヒーリキュールに生クリームが乗せてあるの」
「白と黒の二層になってて綺麗ですね〜。
飲み口もクリームのおかげで、お酒は感じるけど飲みやすいです〜」
「でしょう? あまりお酒に慣れてない人にもオススメよ。
でもこれ、結構度数が強くてね……。大丈夫? だいぶ酔ってるんじゃないかしら?」
「え? そんなことないですよ? 多分」
「うーん……。ろれつも回ってるし、喋り方は酔ってない感じだけど……。
アンタ、さっきから頬が緩みっぱなしよ? それに口の動きと喋りがズレてるわ。
酔うと腹話術始める人なんて初めて見たわよ」
「へっ!?」
ぷにょりと手で押さえれば、今にも崩壊しそうな頬が感じ取れた。
え? これってまさか……。
(クロスケ!? 顔が崩壊しかかってますよ!?)
(ふぇぇぇ……。までゃまで飲めまるよぅ……)
(完全に酔ってやがる!?)
(おらー! 次の酒だしぇえぇ!!)
(やばいやばい! ての形まで崩壊し始めた!?)
「ちょっ! ちょっとお手洗いにっ!!」
「いきなり催したの!? 右奥よ! 急いで!」
頬あたりを押さえていたことから、別の事態を察したのか、ロアンさんもお手洗いを指差し叫ぶ。
今にも崩壊しそうな体を無理やり押さえ、その指し示す先へと私は駆け込んだのだった。




