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021 エンカウント

 突然転がり出てきた男と、もう一人おそらく男であろう人間。

突然のことに驚く私たちなど視界に入るはずもなく、二人は口論を続けていた。



「待ってくれ! もう一度チャンスをくれ!」


「もう顔も見たくないの! どっかいってちょうだいっ!」



 その言葉とともに、白い粉が宙を舞う。

まるで粉雪のようにキラキラと陽の光を輝かせ、そしてそれは、痩身の男にばさっとかかった。

ついでに、私にも一部かかる。



(うわ、しょっぺ! 塩じゃねえか!)


(あ、雪の魔法じゃなかったんだ。てか、クロスケって味覚あるんだ)


(味覚ないのに、普段からお茶飲んでると思ってたのか?)


(私にはないので……)


(うわ、人生の99割損してるな)


(89割どっから出てきた!?)


(てか、お前って塩掛かって大丈夫なのか?)


(私って、ナメクジだと思われてます?)


(いやほら、アンデットだし)


(清められた塩だったらヤバかった)


(よかったな。ただの食塩で)


(下味付けられただけで済みました)


(この後調理されるんですね。わかりかねます)



 そんなバカな念話を繰り広げているうちに、転がっていた男は「俺は諦めねえから! また来るから!」なんて捨て台詞を吐きながら、半泣きでかけて行った。無様。


 そして塩を巻いた方のおそらく男であろう人間は、パンパンと手をはたき、手についた塩を落とす。

そしてギロりと、私の方を睨んだのだ。



「何見てんのよ。見せもんじゃないわよ!」


「えっ……。あ、あの……」



 細身ながら鍛えられた身体と、日に焼けた肌。ばっさり丸刈りにされた銀髪は、ハンターでもやってそうな身なりだ。

けれど白の口紅、整えられた二重と長く天を見上げるようなまつ毛、少し赤みがかった頬……。

ばっちり化粧された顔と、ピンクのタイトパンツと、パリッとアイロンが当てられたこれまたタイトな白いワイシャツといういで立ち。

男にしては、少々着飾りすぎというか……。違和感があったのだ。


 そしてなによりは、魔王様のご立腹レベル1程度の圧があり、本能的に逆らってはいけない相手だと悟ったのだ。



「なによ?」


「いえ、(塩を撒く姿が)美しいなと思って」


「ちょっ!? いきなり美しいなんてっ! 褒めたって何も出ないわよっ!」


「え? あー、はい」



 まるで力士のように塩を撒く姿が美しかった、なんてことは言わないでおこう。

言ってしまったら、このあたり一体に死を撒き散らしそうなので!


 でもまあ、勘違いしてくれたおかげで、機嫌は良くなったようだ。

先ほどまでのアイアンメイデンの中身みたいな、トゲトゲのオーラは、ふっと消えていた。



「てゆーかアンタ、どっかで見た顔ね……」


「そうですか? 人違いじゃないですか?」


「いいえ! アタシは人の顔を覚えるのは得意なのよ!

 ちょっと待ちなさい、今思い出すから!」


「えぇ……」


(おい、厄介なのに絡まれたな)


(適当に話を切り上げたいんですけど……)


(殺るか?)


(さすがに、街中で殺るのはやめておきましょう。憲兵が出てきても困りますし)


(ちっ……。まあ、俺はいいけど)



 人間相手に何弱気になってんだと言いたげなクロスケだけど、クロスケだって動画の再生数伸ばすためには、人間に媚びてたのになぁ。



「あっ! 思い出したわ! アンタ、最近動画投稿してたでしょ!」



 念話と心の声が漏れたのかと、心臓が口から飛び出しそうになった。心臓ないですけど!



(どどどど、どうします!? まさかの視聴者さんですよ!?)


(あわああっわあわっわあわあわ、慌てるんじゃない!)


(いや、クロスケの方がめっちゃ慌ててんじゃん)


(急に冷静になるな! しかし、視聴者様だ! 殺るのはナシで!)


(手のひらくるっくる)


(とっ、ともかく失礼の無いようにな!!)


(つまり、私に丸投げですか!!)



 ホント、肝心な時に役立たねえスライムだな!

ま、対人交渉なら、クロスケよりも私の方が得意かもしれませんがね!



「えっ!? 嘘!? 見てくれたんですか! 嬉しいです!!」


「うわ、アンタ実物もあざといわね」


「うっ……。あざとい……、ですか……?」


「そういうトコよ!! まっ、いいわ。せっかくだし、アタシの店でゆっくりしていきなさいよ」


「ええ……、でも……」


「いいからいいから! どうせ暇でしょ!? アタシも暇だったのよ!」


「ちょっと、暇だなんて一言も……」



 必死の抗議もなんのその。手首をむぎゅっと掴まれ、私は彼が出てきた扉へと引き摺り込まれたのだった。

ちらりと見えた扉の上に掲げられた看板には、「喫茶&バー マカオ」と書かれていた。

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