015 うらばなし
「で、なんです? こんなところに連れ込んで……。
はっ! まさかいかがわしいことを!?」
「はいはい、そっすねー」
「ツッコミを放棄しただと!?」
「でさ……」
「ガチ放棄やん」
「話進めていい?」
「あ、はい。すんません……」
冷たい視線に押し黙れば、クソでかため息がプルプルセリーから漏れ出した。これ以上ボケをたたみかけるのはよそう。
とりあえず、ミーさん用のお茶を淹れながら、話を聞きましょうか。
「それで、動画はまあまあ好評? だったのよ」
「なんで疑問形……。どの程度再生されたんです?」
「1500再生くらい」
「初めてにしてはなかなかの滑り出しですね!」
「ま、まぁ……。なんだ、色々理由もあんだけどさ……」
「なにその歯切れの悪い言いかたは」
「あー、それなりに見てる人がいるってことはさ……。
その、心ないコメントもあったりするわけで……」
「あらあら、クロスケちゃんのガラスのハートが砕けたのね!?」
「俺がその程度で凹むとでも?
むしろ俺は、豆腐メンタルを白あえにしてやる気でいるんだが?」
「逆に潰しにかかるほうだったか……。
でもそれなら、なにも問題ないんじゃないです?」
「俺はな! お前も平気だろうけどな! 問題はその……」
ちらりと部屋でお茶を待つ牛頭へと視線を移すクロスケ。ああ、確かに彼は……。
「やばくね?」
「どうでしょうねぇ……。彼の逆鱗の位置は謎ですからねぇ……。
かと言って、見せないわけにもいかないでしょう?」
「暴れられて被害を被るのは俺なんだけど!?」
「部屋ごとスクラップにされそうですからね!」
「人ごとだと思いやがって! 人じゃないけど!」
「スラごとなのでどうでもいいっすー!」
「クソがっ!」
そそくさとお茶の準備と、花瓶に花を生けた私に暴言を浴びせるクロスケ。
こういう時に役立つから、花の生け方はちょっと知ってるとお得だなと思う。
なんて言うのはやめておこう。一応は、本気で他人事だと思ってるわけでもないし。
それにしたって、しょせんは視聴者のコメント。何をそんなに怖がっているのやら……。
「ま、ともかく鑑賞会といきますよ。ほら、いつまでもぷるぷるしてないで」
「はぁ……。万一部屋が全壊したら、修理頼むぞ」
「その状況で私が生き残れればの話ですけどね。あっ、私元々死んでましたね!」
「そっすねー」
冷たい反応のクロスケを肩に乗せ、花とお茶をお盆に乗せてミーさんの待つ部屋へと向かう。
さりげなく確認すれば、とりあえず今回はいつもの武器である、斧は持ってきていないようだ。
少なくとも暴れたとして、被害甚大ということにはならないと思う。というか、そう思いたい。
「粗茶ですがどうぞ」
「おい! 粗茶って、俺の用意してる茶葉なんだが!?」
「そんな良い茶葉を買ってるんですか!? 経費で!? 経費計算もしている私としては、これは見逃せませんねぇ……」
「あっ、いや、そういうんじゃなくてだな……」
「ははは、ただの慣用句だべぇ。ありがたくいただくべさ。
それに、花も綺麗に活けてもらえて、持ってきたかいがあったべ」
「ええ、動画撮影の時に教えてもらえましたので、この手でもなんとかできましたよ」
「そういやお前、骨の手だから不器用だって言ってたもんな」
「ガチ初心者でもできる生け花って内容でしたからね!
ガチ腐敗者であるワイトにもできる内容だったのですよ!」
「腐敗ってか、完全に腐り落ちて骨だけになってんだけどな」
「私の肉は腐ったというか、蒸発したんですけどねー」
「えぇ……」
ちょっとした思い出話のつもりが、クロスケにとってはドン引きの内容だったようだ。
どうやら私は、普通に死んで、アンデットとして蘇生したと思っていたらしい。
あんま触れない方がいいのかな、なんて顔をしているクロスケとは対照的に、ミーさんは興味があるようだ。
「そういや気になってたんだけんど、ワイトはんは元々人間だったべか?」
「普通に聞きやがった!?」
「え? まあ、隠してるつもりもないですし、聞かれても問題ありませんよ?」
「えっ!? アンデット的に、死んだときの話ってその程度なん!?」
「人によりますけどねー。私は結構特殊だったので」
「特殊?」
「ええ。魔王様の魔法で、肉体が吹っ飛んだんですよ」
「はぁ!? お前、魔王様と戦ったのか!?」
「ええ、そうですよ。あまりに強い魔法と魔力圧で、肉体は吹っ飛んだんですけど、魂的なさむしんぐは骨に沈着しちゃったんですよー」
「魂的なさむしんぐ?」
「へ、へぇ……」
笑い話にケタケタと顎を鳴らすも、二人はドン引きだ。
あー、さすがに魔王様と戦った事あるってのは、あまり褒められた事じゃないし仕方ないか。
「あの時の美しい魔王様の姿が忘れられず……。今にも夢に出てくるのですよ」
「それ悪夢じゃねえの?」
「なにを言っているのですか! あれほどの美しい魔法が悪夢なわけないでしょう!
はぁ……。魔王様は素敵な方ですねぇ……」
「なんだかんだ文句言いながらも、魔王様のこと慕ってるのな」
「でないとこの仕事やってません」
「そっすかー」
「なんてーか、魔王様というより、魔王様の魔法に取りつかれてるんだべなぁ」
「コイツ、根っからの魔術オタクだからな。語らせたら長いぞ」
「え? 語ってもいいんですか!?」
「はいはい、魔術キモオタは黙っててねー。上映会始めますからねー」
「ちょっとだけ! ちょっとだけでいいから語らせて!」
「だめでーす」
クロスケに適当にあしらわれ、動画鑑賞会が始まった。
あんなにミーさんに見せるのをためらっていたのに、私の話を聞くほうが嫌だって言うんでしょうかね!?




