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終焉の鐘が鳴る頃に  作者: iv
序章
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mix life



 科学と技術と研究の大国家トウオウのとある高級ホテル街。中でも一際異彩を放つ巨大建築物の最上階には、まさしくVIP中のVIP...大金持ちどころか他国の貴族でもなければ通してもらえないほどの部屋がある。当たり前かのように純金製のシャンデリアが煌びやかな夜を演出し、一面ガラス張りの窓からはコンクリと金属質な街を一望できることだろう。

 更にこれまた高級品のソファーやテーブルの上にはブランド物のバッグや衣服などが乱雑に広がっている。一見しただけで部屋の主の性格や行動性が伺える、むしろ部屋に不釣り合いなまでの散らかりよう。無駄に大きいクローゼットの中に上半身を突っ込んで、がちゃがちゃと衣服を無造作に投げ捨てるは困ったように声を上げる。


「あっれ~?あのドレスどこにやったかなー...」


 キマイラ。

 端的な単語が示す彼女は『裏』ではかなり名の知れた何でも屋である。金というよりは黄土色に近いショートボブヘアーに、まるでアイドルがライブの際に着込むような派手派手衣装に隠れたそれなりに豊満な体付き。

 どうやら彼女は探し物の最中のようで、日夜主婦業に励むお母様方が一泊分の値段を拝見しただけで目を回してぶっ倒れてしまいそうな超の付く高級ホテルの一室を散らかし放題なのもそのせいだ。ガジャッ!!と金属ハンガーの落ちる音が数回。結局見つからなかったらしい彼女も顔を出す。


「まいったな~困ったな~。何処にやったんだー?」


 散々散らかしても見つからなかったようで、ろくに片付けもせず置きっぱなしの服の上からソファーに寝っ転がってしまう。そのうえで天井を見上げて大きくため息をついたキマイラは、実は三日後に迫るとある依頼のために特注したドレスを探していた。

 依頼の内容はと言うと、貴族や金持ちばかりが集まるパーティーに潜入。黒い噂が絶えないとある企業の会長に一服盛って欲しいという()()()()()()()()だった。

 基本的に彼女は依頼人を選ばない。そして仕事の内容も同様に、気分が乗ればやる乗らねばやらぬの気ままな活動で個人としてこれだけの贅沢が出来ているのだから、彼女の仕事の質や受け取る金額がとんでもないことも容易に想像がつくというものだ。そんな高額請求の何でも屋が成立しているのも、キマイラの仕事に対する客から受ける信頼の賜物というわけだ。

 今から新しいドレスを発注したところで間に合うはずもなし、何処か適当な店で調達してくるかと考えている彼女は退屈そうな表情だ。退屈を嫌う年頃の彼女にはこの高級ホテルも身に余るのだろう。何でも屋なんて肩書を背負ってる以上決まった住所を持つわけにもいかず、かといって一度良い待遇を受けてしまった人間がそう簡単に品質が少しでも落ちた宿で落ち着けるはずもない。

 退屈を紛れさせてくれるような面白みのある仕事もここのところはすっかり入ってこなくなってしまった。

 と、そこで散乱するカバンの中から電子的な音が響いた。最初は寝そべったまま手に取ろうともしなかったが、コール音がいつまでも続くので仕方なく手に取ってみる。

 トウオウではかなり古めの端末に看過できない文字が表示されている。しかし面倒くさがってそれを確認しようとしなかったのが仇となった。相手方の第一声は震えている。

 

『ちょっと...出るのが遅いんじゃないの?』

「げぇ!?シズクさぁん!?」


 起き上がって声を聴いた瞬間思わず『げえ!?』とか言ってしまった。次会ったとき絶対一発ぶん殴られるな。と覚悟する間もなく、若干苦手意識がある少女からのお呼び出しだ。

 元がそういう性分なのか、電話越しだというのにシズクにはキマイラの下手な立ち回りが目に浮かぶ。


「へっへへ...それで、今日はどういった御用件で...?」

『あんたの力を借りたいの。今から来てもらえる?』

「別にかまわないっすけど今からですか?もう深夜っすよ深夜。小鳥も草木もぐっすりすやすやおねむな時間帯なので出来ればあたしもおねむになりたいなーなんて」

『あんた「箱庭」に借りがあるでしょ』


 ぎくり!と効果音が背後で生まれた気がした。それに不吉な予感もする。向こうから何か頼み事をしてきて何か得したことなんてないのでそれもそうだ。かと言ってシズク・ペンドルゴンには逆らったら逆らったで後が怖い。

 しばらく沈黙したのが悪かったらしく、相手方の口調はどんどん強くなる。その上なんか抗いがたい圧もかかるので逃げ道もどんどん狭まっていくようだ。徐々に状況は鬼気迫る、それとな~く話を別方向に促そうと試みるとかえって怪しまれるだろう。

 しかし諦めない、諦めてたまるものかそうだここで引いたら女が廃るってか『箱庭』の依頼でまともだったことなんて一度もないわけだしこの私が毎度命の危険を感じるくらいにはヤバい依頼ばかりで割と命の危険が迫ってるから何としても逃げなきゃまずいまずいまずいまずい。

 何でも屋の生活の中で培った口八丁で乗り切るしかないッッ!!

 

「い、いやーその節はお世話になりましたはい...それじゃ、あたしはこれから夢の中でうさぎさんたぬきさんとピクニックの予定なんで、へへっそれじゃあ...」

『あっそうなんだ来てくれないの私がここまで頼んでいるのに、ふ~ん...。じゃあゼノ達のほうに回ってもらうことになるけどいいのね?あの奇人変人の枠組みを超えた生物バカはきっともうじきあんたに連絡を入れてくるぞ覚悟しろよ』

「いやあのすんません勘弁してくださいっす!あの人だけは!あの人だけはぁぁぁぁぁぁあ!!」

『わかってるとは思うけどアレは言い出したらもう周りの声は聞こえないからどうしようもないわねえあっでも私たちのほうを手伝いに行くって理由なら一応言い訳として聞き入れられるかもしれないわあ』

「鬼!悪魔!サイコパス幼女ッ!!そんなにあたしを虐めるのが楽しいんすか!?死んだら化けて出てやる!!」

『はっはっは何とでもいいなさい、ただし幼女は許さないわ幼女は。せめて少女と呼べ』

「ああもう...こんなことになるならむやみやたらに関係を作るんじゃなかったっすよォ~...」

『もう遅い、場所は上空、現在トウオウへ飛行中の巨大移動要塞こと飛行船タイタンホエール号よ』

「タイタンホエール号って、あのトウオウが馬鹿みたいな金掛けて作り上げた金持ち専用の飛行船ですか?はえ~これまた凄いのに乗ってますね」

『目的不明のテロリスト同伴だけどね。出来るだけ早く来て頂戴、かなり切羽詰まってるから』


 と、そこで通話が途切れる。

 どうやら向こうは本当に切羽詰まってるらしい。いつものんびりあたしを虐めてくれるサイコパス幼女も隠しているようだが、声の中に紛れた焦りを見抜けないキマイラではないのだ!と、いい気になることもできない。何せ()()()()()では一二を争うほどに名の知れた奇人変人集団げふんげふん...『箱庭』はまずまともな仕事で自分を呼ぶような真似はしない。自分を呼ぶときはもっとメンバーの命の危険があったり周りへの被害が尋常じゃないときばかりだった。ということは、今回も()()なのだろう。

 ひも付きの若干古い携帯端末の小さい画面にどうやら飛行船の位置と思しき赤点が示された地図が送られてきた。


「ああ、憂鬱だわ」


 そう小さく漏らす彼女は今までの派手な衣服を脱ぎ捨て、ジャージにも似た伸縮性のある運動服に着替える。紐で底の部分を括り付けた今となってはもう古い型になってしまった携帯端末を首からぶら下げると、胸を揺らして窓から飛び降りるのだった。



「よし、と」

「何が???」


 こちら戻って飛行船タイタンホエール号。引きつった顔で栗毛の少女に疑問を投げかけた大和の隣にホードの姿は見えない。人員増加を受けて彼は彼のほうで爆弾の捜索に出かけると言い残し、一人で来た道を戻っていってしまったからだ。『一人では危ないからと人員を増やしたくせに別れてしまっては元も子もないのではないか』と一応言ってみたものの、どうやらこれがいつものことらしい。人材が必要だったのはむしろ大和とシズクの『行動班』のようなので、ホードは一人そそくさと出て行ってしまった。

 シズクが言うには『あいつには未来探索ストークエイジもあるし、何より逃げることに関しては箱庭で並ぶ者はいないから平気でしょ』とのこと。

 それよりも、だ。

 大和が彼女に異論を唱えたのはもっと別のこと。

 明らかに電話で呼び出した相手を威圧し脅していたような気がすることについて。


「明らかに脅してたよね?電話越しでも伝わったよ相手の悲痛な叫びを!」

「いいのいいの。キマイラはそういう立ち位置だから」

「立ち位置とか決まってんのこの組織!?俺もう結構不安なんだけど!?」

「言っておくけどキマイラ...私が呼び出した人物は『箱庭』じゃないわよ。フリーの何でも屋。時には敵に回ることもあったわね」


 もしかして『貸しがある』という彼女の発言はそういうわけなのかも知れないと余計な詮索を交えつつ、二人は話ながらホードとは別方向の廊下を歩いてゆく。

 現場から離れてみると案外静かなもので、客室区域を抜けてしまうともう人の声なんて聞こえても来ない。薄暗く入り組んだ廊下に響く声は二人だけ。何処で誰かが聞いているかもわからないような状況だが、彼女は特に気にする様子も見せない。


「よくわかんないけど、因縁があるってことなのかな」

「まあそうなんじゃない?最初はまだ体制が整ってなかった彼女が雇ってくれって押し売りしてきたのがきっかけだったわね。当時から名が広まってる『箱庭』の力を借りれば自分の実力なんかをあっちこっちに広めるためじゃないかしら」


 自慢ではないが大和は基本的に無力だ。

 彼女から受け継いだらしい【敬虔】の罪と『万有引力テトロミノ』の異能も『触れた物体に限る』という性質上、敵対している相手に接近しなければならないという欠点がある。更に大和本人の性格も臆病なほうなので、基本的にどんな立場になろうとも面倒ごとを避けるために目立とうとはしない。なので実力を知らしめたいとか、名前を売りたいという人の考え方はいまいち伝わらないのだ。

 根が臆病と言うのは損ともいえるし得ともいえる。

 しかしながら『箱庭』のような常に命の危険が付きまとう組織には向いてないらしいと今更ながらに思い知らされる毎日だ。日本の現代社会でスリルを求める一般人共に見せつけてやりたい。本当のスリルってやつを。


「キマイラの武器は()()()()()なの」


 これまた普通とは呼べない栗色癖毛の少女が端的に語る。

 多種多様な武器を使いこなすということか、はたまたあらゆる分野に精通しているということか。単に手数の多さと言えども種類はいくつにも分類できる。キマイラとかいう何でも屋が武闘派なのか頭脳派なのか、楽観主義者か悲観主義者か。いくつもそろえた材料を使って分類することで情報は身に入る。

 確定していることと言えば、彼女は『問題児』ということ。

 シズク・ペンドルゴンの発言を思い返したところでそれくらいしか判断材料を得ることが出来ない。


 ちなみに大和とシズクの二人が現在進行形で向かっているのは例の如くカジノである。

 『夜中の騒ぎ』と言えばこれだろうとの理由だけで決定してしまったものの、一応条件に不揃いはないので大和も了承済みだった。


「人には人の考え方がある」


 再び短い言葉だった。


「キマイラは人と人との考え方をミキサーでかき混ぜるみたいにぐちゃぐちゃにして、それを自己流として振る舞ってる。明確な『自分』を持たず、誰かの行動を小さく分けたり混ぜ合わせたりすることで仮初の『自分』を形成してる、ってところかしら」

「なんだかよくわからない」

「会えばわかるわよ」




強調点の振り直しを行いました

今まで気付かず投稿してしまい申し訳ありません。

特にパソコンからの人はかなり見づらかったと思います。これからもどうかよろしくお願いします

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