別離
「そう殺気立つなよめんどくさい。あれだろ?玲転の大規模捜索が気に食わないんだろ?でも元はと言えばおまえが撒いた種じゃんよ、責任はそっちもちで」
「っ......!!」
人は変わり続ける生き物だ。社会や人間関係といった環境に合わせて、より生きやすいように自分自身を造り変える。順応ともいえる生存本能がある。
スラムで育った子供は理不尽な暴力に順応する。エリートに囲まれて育つ子供は埋もれないようにより自らの能力を高める。異世界に渡った異界の勇者にも勿論それはあった。
「赤紙、流石に暴論。原因は何にせよ、行動に移したのはあたし達。行動したからには、責任がある」
「梨菜ぁ...毎度思うけどめんどくさいぜその思考」
「二人共その辺に、もうすぐ彼が着くわ」
椎滝大和自身にも、だ。地元じゃろくに喧嘩もできなかったくせに、異世界ではまず第一に戦うことを覚えなければならなかったのだから。
だから、ここまでとは思わなかった。
これはもう『汚染』だ。
元々のキャンバスをペンキで雑に塗りつぶすような、振りきれた悪影響だ。今の彼等に、かつて教室で過ごした彼らの面影を重ねることが間違いだとでも言うように。
恐らくは...最も世界に順応したであろう勇者が降り立つ。
何処からともなく表れて、背中に翼でもついているかのように音も無く降り立った彼は。
「やあ」
穏やかな声、整った顔立ちに、優しい表情。
明るめの茶髪を眺めに切りそろえた優男。
椎滝大和の警戒度が跳ね上がる。心臓の鼓動が一足飛びでリズムを刻み、全身を緊張させていた。
『異界の勇者』には序列がある。
日本から異世界へ渡った直後の、ヘブンライト王国によって確認された素質の序列。異能を持つ者、ある種の才能を持つ者、魔力への適性......人殺しへの適性。
そういった諸々込みでの、才能の序列。あくまでも才能であって実際の実力ではないのだが、不思議と彼らの戦場での戦績は序列に準じていた。
渡ってきたクラスメイトは全二十九名。
彼は、一位だ。
「久しぶり...と言っても半年くらいか。元気にしてたかい?こっちは相変わらずだったけど...君の方は随分と賑やかだったと聞いてるよ」
「音賀佐、翔...ッ!!」
「フルネームなんて随分とよそよそしいじゃないか、僕と君の仲なのに」
一緒にご飯をよく食べた。王国での訓練で躓きがちな落ちこぼれをよく助けてアドバイスもくれるような男だった。
ここに来て、真っ先に周りを纏め上げたクラスのリーダーだった。
クラスメイトの誰よりも『勇者』への適性を示し、誰よりも前を走り皆を扇動する男だった。
【蛮勇】の罪名を持つ咎人...音賀佐翔は主人公だ。この世界で友情も努力も勝利も、全てを自らの才能と実力で手に入れてきた男だった。
彼の近くに居た頃の彼への認識がそれだった。
今じゃあない。
「『異界の勇者』がそろいもそろって何の用があってこの街を襲った!?答えろ音賀佐!!目的を言え!!」
「目的って...決まってるじゃないか。僕らは君を連れ戻しに来たんだよ。返の『集合感知亡者衆』だってそういう動きだっただろ?君は頭が良いし気付いてると思ったんだけどな」
異界の勇者の一人、玲転返。
大規模探索の要という事もあって彼女の姿はこの場の何処にも見当たらない。きっとどこか安全な場所に身を隠し術式を行使しているのだろう。直接的な戦闘力は持たないが、彼女は魔法使いだ。
集合感知亡者衆は人や魔獣の死体を器に術者である玲転の命令を種子として植え付けることで物理的に操り、また死体同士の接触によって発芽による増殖を繰り返すという術式だった。
さながら死霊術、しかし無機物にまで作用できるなんて知らなかった。
それとも、自分だけが知らされていなかったのか...?
「ああ、彼女の術式の事なら大和が思ってるようなことじゃないよ。これは君が消えた後に努力した返の順当な成長の結果さ。当然と言えば当然だよね、時間の流れは平等なんだから、君が成長するのなら僕らだって同じ時間を使って成長する。まさか逃げて生まれた時間を使って足踏みなんてしてないだろう?」
悪びれない。
訊きたい答えはそれじゃない、いっそ術式どうこうはどうでもいい。どうしてこんなことをしたのかを訊きたかった。
椎滝大和という異界の勇者の落ちこぼれ一人を誘い出すためにどうして街一つを巻き込む必要があった。
理屈が合わない。
迷子の子猫を探すのにわざわざ軍隊を総動員するようなものだ。となれば、当然こう考える。
(嘘か...?本当の目的は別にあって俺のことは偽装、そう考える方がよっぽど納得できる!!)
「君が考えていることは大体わかる。僕たち異界の勇者がほぼ全員で出てきたことで不信感を抱いてるんだろ?『自分なんかにこれだけの人員を裂くはずがない、何か別の目的か裏があるはずだ』...そんなところかな。自己肯定感の低さも相変わらずだね」
「......相変わらず人の考えをズバズバ言い当ててきやがって。この際だからはっきり言っとくけど俺は前々から不気味に思ってたぜ、お前のその妙な特技」
「「「「「それは同感」」」」」
「酷いなぁみんな、僕は表情を読み解くのが他の人より少し得意なだけだってば」
肝心の目的についてははぐらかされたままだ。
底が見えない。
友人だったころからそうだった。誰にでも優しく穏やか。どんなことでもそつなくこなして周りの手本となる。
よく言えば人並外れていて、悪く言えば機械みたいな人だった。
今はそれが一層際立って見える。
高い所から見下ろして来る十数名のクラスメイトよりも、目の前のこいつ一人が不気味で仕方がない。
大和は、音賀佐翔の一挙手一投足に最大限の警戒と緊張を奔らせていた。些細な指の動きや呼吸の胸の動きにすら神経を使って、今の最悪な状況を切り抜けるための策を目いっぱい頭で考えた。
『万有引力』で逃げ切るか?当然、異界の勇者もそれを読んでいる。わざわざ高い位置に陣を張ることでどの高さへの移動にも直線の動きで対応できるようにしているし、姿が見えない数名のクラスメイトは地下への移動を警戒して対応できる位置へ配置されているはずだ。
かと言って大和は他に手札が無い。
「ヘブンライトへ帰ろう大和」
手を伸ばし、彼は微笑みかける。
きちんと正面に立ち、同じ目線の高さで向き合って語りかけている。
瞳の奥が薄汚れていたとしても、自分で自分の眼の中なんて覗けない。
あの手を取れば、今度はやっとの思いで取り返した後悔すら残らないような気がした。
「これまでだってみんなで楽しくやってきたじゃないか。今ならみんなも赦してくれる」
「...赦されたいなんて思ってない。俺はみんなを裏切ったし恨まれて当然だとも思う。だから償いとして、時が経って俺がちゃんと今の立場に慣れたなら俺は箱庭の椎滝大和としてみんなに協力するつもりだった。......いまさらこんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど」
「裏切ったなんて思ってないよ!わたしたちじゃ雫ちゃんの代わりになれないかもだけど、みんなで力を合わせればきっと、きっといつか元の世界に―――...」
「違うんだ、詩季。もう俺は根本的にみんなとは違ってるんだよ」
音賀佐翔の後ろで、同じ高さにまで降りてきてくれた詩季春夏の言葉を遮ったのは、電車の中で寿ヶ原と話をした時と同じ気持ちだったから。
みんながざわついてる声が聞こえる。
音賀佐翔だけが何も変えずに大和の言葉を聞いていた。
「俺は日本に帰りたいとは思わない」
「...えっ!!?」
前提からまず覆す。
『異界の勇者』の全員が最初は抱いた希望、即ち日本への帰還。それが、今の自分には無いということを明かす。
一部のざわめきは増し、別の一部は言葉を失っていた。
数学の前提に数字の存在があるように。或いは生活の基礎に衣食住が有るように。それほどまでに、もはや言うまでもない共通の認識項として、日本への帰還は彼等にとっての絶対的な根幹だったのだ。
理由も様々あるだろう。
逢えなくなった家族と友達に逢いたい。戦わなくていい、死の危険が無い生活を取り戻したい。元々あった夢を叶えたい。積んでいたゲームを消化したい。読み終えてない本を読破したい。故郷の料理が恋しい。ネット文明に戻りたい。自由が欲しい。
だが、椎滝大和には。
「施設で育った俺に家族は居ない。日本への思い入れも無いし、唯一残ってた『帰る理由』は、俺が原因で失った。やる気のない抜け殻の俺がみんなのところに戻ったって邪魔になるだけだから、だからもう、椎滝大和に『異界の勇者』として生きる理由だとか、目的は無いんだよ」
「そんなこと...!」
「また俺が『異界の勇者』に戻って、それでどうなる。『傲慢の魔王』との再戦で俺が役に立つとはまさかみんな思っちゃいないだろ?最下位で役立たずで、女の子一人すら守れなかったこんな俺が」
「ならば君は何故『箱庭』に加わった?聞いた話じゃ『箱庭』はメンバーが各々の目的を追う組織らしいじゃないか。それはつまり、異界の勇者とは全く異なる目的を得た、ということかい?日本への帰還に勝る理由が、今の君の中にあるということかい?」
椎滝大和は気が付かない。詩季春夏が少しだけ泣きそうになったことと、音賀佐翔が僅かに、ほんのわずかに表情をこわばらせた現実に。
或いは気付いていたのに蓋をして見えないフリをしたのか。
どっちでも進む道は地獄だというのに。
「償いだよ」
短く悩んだ末に吐き出したのは、ついさっきまでリニアの中で寿ヶ原小熊との会話を全部まとめて咀嚼した果ての、短く切り取った言葉。
無いゴールを目指して走り続ける。
そうやって彼女を想い続ける。
寿ヶ原がそうだったように理解してはもらえないだろう。
少なくとも新しい目的があって、『異界の勇者』を害することは無いと、それだけ伝えたかった。
遠目に見えるビル壁面のディスプレイがニュースを報道している。そこには報道ヘリか何かから撮った、俯瞰して見たこの街の惨状が映し出されていた。
「もしも本当に目的が俺だけなら、帰ってくれ。今の俺は『箱庭』だ。二度とそっちには戻らない!!」
これは、曖昧にするんじゃなくて、きちんと言わなくちゃダメだ。
嫌われることを恐れて本質から避ける人間にはなりたくない。その場しのぎで取り繕うこともしたくない。ましてや、相手は十年以上を共に過ごした仲間たちなのだから。
彼等は越えちゃいけない線を越えようとしている。
辛うじて踏みとどまれたのは早々に大和を捕捉できたからで、次があるとして今回と同じように踏みとどまれるとは限らない。
正すなら今しかない。
言葉を交わして終わるのなら、それが一番良くて―――...。
「...フラれちゃったねえカケルちゃーん。どうするのーん?まさか見逃してあげるつもりもないんでしょん?」
「雲母ちゃん待って、音賀佐くんも、少しだけ...もう少しだけ話を...!」
「僕個人としては心情的に、そうしてあげたいのはやまやまだけどね」
ゾンッッッ!!と。
ただ一人の人間から放たれるプレッシャーが増して、大和はまともに晒された。
姿形は同じでも、存在そのものが膨れ上がったかのように目の前の好青年が巨大に膨れ上がって映った。
あちこちで音がする。
各々が得物を取り出して、しまいかけていた敵意の矛先を向け始める。
「ここだけの話なんだけど...あ、一応断っておくと僕にそんなつもりは毛頭ないけど無いけどね?」
しゃん、と音賀佐が剣を鞘から引き抜くと、刀身は淡緑に輝いていた。
勇剣ホロリブ―――大昔、ある二人組の高名な武具職人が打ったとされる九十八本の『霊装』が一振り。
ヘブンライトの国宝の一つでもあるそれは、音賀佐翔の手に渡ってから今に至るまで、常に多くの勝利をもたらした神聖なる片手剣。
黄金の刀身に施された龍の意匠が光の発生源だった。
腰と共に重心を落とす。切っ先は大和へ向かい、神聖な輝きを放つ剣は主が為に万物を斬り伏せる。
「抵抗するようであれば、持ち帰るのは死体でも構わないと言われてる」
直後、二人が同時に動く。
音賀佐翔は斜め上から空を斬るように剣を振り下ろし、椎滝大和は身をかがめるようにして右手で地面に触れた。
撃ち出されたかまいたちのような三日月状の斬撃は、大和が『万有引力』で地面から切り出した三メートル四方の立方体と激しく衝突する。
ギャリギャリギャリギャリッッ!!?と。
甲高い音と共に強化アスファルトは容易く刃に削り砕かれるも、なんとか大和は音賀佐翔の初撃をやり過ごしたのだ。
「部分的に切り分けた瞬間移動!?あいつ成長してる!!」
「上等だよ、向こうがそのつもりならこっちも動きやすいぜ...なあ音賀佐!?」
大和が少しだけ振り返ると、音賀佐翔は俯いていたので、彼がその時どんな表情をしていたかはわからなかった。
仮に、大和が自身の身の危険に反応するアラームを身に着けていたなら、それは超大音量でこの瞬間を警告しただろう。
ただ彼は右手首を顔の前まで持って行って、そこに装備していた通信魔装へ、無感情に一言呟いたのだ。
「.........総員、行動開始」
無数の敵意に取り囲まれた、地獄のような空間の中を大和は辛うじて奔った。
倒れていたスクーターに飛び乗って全力でグリップを握る。それだけで全身を風が包んで、あっという間に多くの人影を抜き去っていく。
風よけのフロントガラスの端から飛び出たミラーに数多の影が映っていた。
そのうちの一つが我先にと動くのを捉えられたのは、椎滝大和の今日これまでで一番の幸運だった。
「帰らないってことは!!俺以外の別の目的があると判断するぜ音賀佐!!」
「好きに解釈するといい。引きずってでも、君の償いを踏みにじってでも!僕らは君を連れ戻す!!」
怒涛とはまさにこの瞬間を指す言葉だった。
いくつもの光と音と影と力が瞬いた。その中の動きに見覚えがある。
ミラーに反射して光ったのは、石射稲三という少女が操る独創魔装のレンズだ。
「まずいッ!!」
ハンドルを切った直後に空間が四角く抉れる。画像編集ソフトでそこだけ切り取ったみたいにぽっかりと。
間髪入れず、現代装備で全身を固めた忍者みたいな恰好の男が進路を塞ぐ。どこからか取り出した攻城魔力砲を構え、更に左右からは影が差す。
男はバチバチと赤い電撃を鳴らすグローブで固めた拳を、女は浮遊するスケボーのような魔装の上でスマホ型の魔装をそれぞれ構えていた。
「草書っ、それに石射と実端!?」
「忍ッ!大人しく捕まるでござるよ大和殿!!」
「テメエがオレらから逃げられるわけねェだろが!!」
実端速人が拳を振り抜く。大和は右側からの頭蓋狙いのパンチを躱そうとしてバランスが崩れ、スクーターが大きく傾く。バランス維持機能が働いて、倒れるギリギリまでよろけたのに倒れない。
結果、正面の草書記へスクーターの側面を見せたままスライドするように体当たりをかますことになった。
慣性、衝突したスクーターから大和だけがすっぽ抜けた。速度を付けた自転車で急ブレーキを踏んだように体だけが浮き上がってハンドルから手を離す。
触れる。
『万有引力』...中途半端にエネルギーを蓄積させていた攻城砲だけを上空へ飛ばした。
保持していたエネルギーだけはそのままだ。
「なっ!!」
咄嗟に大和がイメージしたのは水風船。風船を失った水は全方位へ飛び散るしかない。
バゴオオオオオオオオオオオオオンンッッ!!という紫色の爆発が空間を呑み込んで広がった。
拡散する魔力エネルギーの圧に背中を押されるように大和も吹っ飛ばされて、地面を勢い良く滑り、まともに熱を浴びた背中が強烈な痛みを訴えてくる。
「げほっげほっ!椎滝は?」
「あそこ!」
「追撃、三角!!」
「了解!」
全身をローブで包んだサイドテールの少女がチョークで地面へ描いた陣が、影と重なる。沈むように陣が消えて、直後に影は己が液体であるかのようにふるまった。
ぼこぼこと沸騰して、そこから飛び出た大きな何かが一足で大和へ飛び掛かる。
大人の指程もある牙が、咄嗟に顔を庇った大和の左腕に喰らい付く。
「あ゛ッ!!」
声。それと血がこぼれおちる。
ガゼルのような健脚とオオカミのような牙と爪を備えて、体毛の代わりに鋭くしなやかな鱗が全身を覆っているという子供が妄想するような歪な魔獣だった。
魔獣使いと呼ばれる三角丁利の生成した合成魔獣。生物として必要な機能を削ぎ落し、戦闘に必要な機能をツギハギし続けた量産可能な斥候係だ。
喰らい付いて離さない。もがくたびに牙がミシミシと肉の奥深くへ突き刺さっていく痛みが脳を刺す。滲む血の味と匂いで、魔獣はどんどん興奮して気性が荒くなる。
大和の足が止まってしまった。
ここぞとばかりに数多の視線と、同時に敵意が突き刺さる。
一位が動く。
まず第一に。
「『伸びろ』→"斬撃"」
命令。直後、振り抜いた剣が蠢いた。
轟ッッ!!!と。
大和から見て、それは眩い光を帯びた縦長の線に映っていた。正しくは延長された『斬撃』。彼の『斬る』という動作が命令に沿って、概念的に鞭のように伸びていた。
彼の...音賀佐翔の異能はよく知っている。
斬撃という概念が襲ってくる。
「しまっ―――」
――――――ッッッッッ!!!、と。
濁流...いや、さながら津波のごとく、一位に合わせて全員が同時に攻撃を放ち、突風が巻き上がった。
直撃を受けた地点のアスファルトが粉々に消し飛んで舞い上がっている。煙幕のように外部からの視認を阻害していたそれは、一位の一言によって押しつぶされるかの如く。
「『退け』→"粉塵"」
消え失せて、煙の晴れた現場に大和は居なかった。
血と、正中線を中途半端なところまで両断された魔獣の死体が転がっていた。
「ああっ!プリンちゃん!」
「やるな...咄嗟に魔獣を盾にして斬撃から身を守った」
「みんなが目標から外れた位置を狙って逃げ道を無くして、カケルちゃんが仕留めるっていうーいつものパターンで攻めたのが仇になったねえ。そりゃヤマトちゃんも同じパターンで今までやってきたわけだからわかってるわ~」
「...で?肝心の椎滝はどこ?」
音賀佐翔が見上げた先には映画館が佇んでいる。
爆撃地点のすぐ隣の建物で、例えば、咄嗟に誰かが逃げ入るにはぴったりの位置取りだなと音賀佐翔はそう思った。
魔獣の死体から点々と、腕の出血の跡は入り口へ向かっている。




