表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉の鐘が鳴る頃に  作者: iv
一章
198/268

未知との遭遇



 ひとまず、頭が混乱に呑まれる前に一つ一つ状況を整理しよう。

 ここはトウオウと呼ばれる、この世界に存在する国家の一つ。他国には無い特異な技術体系を持ち、独自の発展を遂げた進出国。

 その身に【憎悪】の異能を宿す灰被りの青年アルラ・ラーファは同じく『世界編集ワールドエディット』を宿す咎人ラミル・オー・メイゲルと共に、様々な事情でそのトウオウの裏路地にひっそり佇む診療所で療養中。

 そんで、だ。

 入院生活が一週間を過ぎた今日、なんか変なのが湧いてきた。

 逆立った薄茶の短髪、長身、そんでもってやたらフレンドリー。

 第一印象は『誰だこいつ、頭おかしいんじゃねえの?』だ。

 だってそうだろう。重傷で入院中の男の病室にいきなり入ってきた見ず知らずのおっさんに名指しで突然助けてだなんて言われた時の対応マニュアルを持ち合わせている奴なんて、この世に数名いるかいないかレベルの少数派なはずだ。つーか、そんなクソ薄い需要に合わせたマニュアルを持ってるヤツはそれはそれで異常なのだった。

 少なくともアルラ・ラーファはそんな聖人よろしくイカれた第一声に二つ返事で『OK!』と声を上げちゃうようなイカれた少数派ではなかった。

 だからこの返答も至極当然、今この場のこの状況における最善最高かつ百点満点の回答と言えるだろう。


「......誰?」


 お手本のような回答に、何故か病室に押し入ってきた不審者の方が固まっていた。

 アルラのベッド横でリンゴを剝いていた、カールの掛かった白銀長髪の美少女、ラミル・オー・メイゲルも固まっていた。

 まさかとは思うがこの回答を予想してすらいなかったのか?だとすると哀れ以外の何者でもない。受け入れられることを前提に飛び込んだ先でまさかの他人宣言、言葉に起こすとより一層哀れでしょうがない。

 実際、みるみるうちに、だ。


「まっ」


 男の薄っぺらな笑顔が引きつる。

 予想だにしていなかった返答のあまり、吊り上げた頬がぴくぴくと痙攣していた。僅かに言い淀んだ後にハッとなって、またへらへらと薄い笑いを浮かべながら大袈裟なリアクションを見せる。


「またまたぁ~、お約束の様なネタ使っちゃって~...」

「いやマジで知らないよ誰だよあんた」


 思わず口に出してしまい、病室内の温度が体感3℃くらい下がったような錯覚を覚えるアルラ。 気まずいどころの話じゃない。相手の気持ちになって考えると結構心にダメージを負うような発言ばかりだったのでは?と察すももう遅い。一度口にした言葉は巻き戻らないのだ。

 例えるならこの状況、典型的な一般家庭で時たま発生する『子供のころ何回か合ったことのある親戚のおじさんとうっかりエンカウント』のケースに似ている。

 例え向こうはこちらが深く印象に残っていて、成長した姿であろうが瞬時に見分けが付くとしても、逆方向もまたしかりという保証は無いのだ!

 人間なんて人生の内に何千何万という他人と接触するのだから、それら一人一人を一々記憶していてはキリが無いのであるというのがアルラが今この瞬間ぱっと思いついた(このとんでもなく気まずい状況に言い訳するための)持論で在った。


「えっ、おい噓だろマジで言ってんの?なんだよおい覚えてねえのオレのこと、マジ!?うっそだろお前これじゃオレが馬鹿みたいじゃん!」

「あのアルラさん、なんだかお知り合いみたいですけど、本当に面識ないんですか...?」

「全然知らない人だよ誰だよ怖いよ、これあれだよね、新手の押しかけ詐欺とかじゃないよね?」

「この距離でひそひそ話は無理があるしキミとも面識あるだろうがよラミル・オー・メイゲル!!え?そんなにオレって印象薄い?確かにこっちは名乗ってなかったよ?でもさあ、ほんの二、三カ月前の事じゃん!もっとよく思い出してよ頑張ってくれよ!?」


 二、三カ月前と言われて二人して記憶を遡る。

 その頃はちょうど二人が出会った頃だろうか。

 アルラがニミセトで『語り部』を討伐し、彼女の魔法によって意図せず強欲の魔王と対峙したころだ。城の牢獄でラミルと協力関係を結び、なんやかんやあって脱出した二人はとある街の病院に転がり込んだのだ。

 その後『白の使い』というカルト教団にそそのかされたラミルを巡った戦いが勃発し、最終的にアルラは再び入院する羽目になり、ラミルは恩返しと称して彼に同行することになり今に至るというわけだ。

 ......こうして今も病院で寝っ転がされてるのと併せて考えると、アルラは自分が順当に成長出来ているのかという不安で顔色が悪くなる。

 ちなみにラミルとしては当時の記憶は黒歴史に近いようで、男二人に見られないように隠した顔は真っ赤に染まっていた。


「まじかよーこっちは借りを返してもらう気満々だったのによー...。飛行船のチケット代含めて諸々と!!ちょー赤っ恥じゃん!!」

「待て、なんかさらっと言いやがったな?お前かよチケットの送り主!!何のために...」

「だーかーらー!!借りを返してもらうためだって!!こっちだってようやく掴めそうな蜘蛛の糸だったんだよあんたらは!教団からパクってきた金も底をついたし、今晩の宿だって決まってないんだぜオレは!?どうしてくれるんだよー!!」

「いやんなこと俺らに言われたって......ん、().........?」


 ようやくアルラの中で細い釣り針の様なモノが引っ掛かる。

 教団......そう、教団だ。妖魔族崇拝宗教(へんたいカルト)『白の使い』...。あの街でラミルを巡って起こった一夜間戦争を一から十まで思い出そうとして、その途中で釣り針が記憶を引っ掛けた。

 あの夜、アルラ・ラーファは一度『白の使い』に取っ捕まっている。意識外からの一撃、貸出ヘリを丸々一機墜落させるという無茶苦茶なやり方で意識を奪われ、そのまま地下牢に引きずり込まれている。

 そう、あの時だ。

 あの時、教団の格好をしながらも敵対関係にあるはずのこちらに協力を求た不可解な男がいたはずだ。


「あ、ああ、あああー!!思い出したぞ、あの時の!!」

「そうだよその反応!それを待ってたんだよ!!ようやく思い出してくれたか―――」

「せっかく俺が囮になって先行させたのにいざ追い付いたらとっくにラミルにぶっ倒されてた!!ああ、あの時のお前か!!」

「何でそういうイメージだけこびりついてるかなあもおーーーっ!!」


 ああっそういえば!!的に指差しでようやく思い出してもらえた短髪もソレは結構気にしていたようだ。

 ちらりと横目に見るとラミルが両手で真っ赤な顔を覆って俯いていた。多分そっとしておいた方がいい。変に弄り倒したら彼女が手に持ってる果物ナイフが牙を剥くかもしれない。

 そういえば、今ではすっかり頼れる相棒ポジションを確立しつつあるウィアとの出会いも教団の牢獄でのあの時だったか。返そうとする間もなく元の持ち主(この男)がフェードアウトしたのと戦闘のごたごたでうやむやになって現状に落ち着いたわけだが。

 最近まるで自らの意思を持って動作しているように感じるウィアの行動についてもこいつなら何か知っているのだろうか。

 とりあえず目の前でがっくりしている男の用件を聞き出さないことには何も動かない。

 傍らのラミルも同じ考えだったのか、アルラが口を出す前に真っ赤な顔を覆った両手の隙間からくぐもった声が漏れた。


「それで、あの時教団に属してた貴方が私たちに...アルラさんにどういった御用で......?」

「......先に言っておくと教団に身を置いていたのは後々のためで、仕方なくって奴さ。連中の悪巧みに関与したことは無いし、お嬢ちゃんとも敵対する気は無いからそんな緊張しないでくれオレ泣いちゃう」

「教団云々は正直どうでもいいからまずは質問に答えろよ、そこが一番重要だろうが」

「だから、それも最初に言ったろ?」


 男は病室の窓際の壁に置いてあった簡素な椅子をベッドに寄せると、どかりと腰掛けてアルラに目線を向けた。

 そして、簡素に告げる。


「オレの目的のために力を貸してほしい。もちろん協力してくれるよな?」

「えっ...普通に嫌だけど」

「あれぇ!?」


 爆散、轟沈、まさかの二つ返事での拒否が予想以上に予想外だったらしい。アルラの側からすればむしろなぜこの返答を予想もしてなかったんだと呆れたくなるが、そういえば教団事件の時もこいつは何も聞かずに無償で手を貸したし性格的にかなりのお人好しなのだろう。

 驚きのあまりバカみたいな面でフリーズしているこいつが今までどんなに甘い世界を突き進んでいたのかは知らないが、これまで通用したルールが今この瞬間も通用するとは限らない。

 残念ながら無償の奉仕に同様の見返りが付いて回る程世界は蜂蜜漬けの砂糖菓子みたいに甘ったれていないのだ。

 助けてほしい?

 馬鹿言え、こっちが助けてほしいくらいだわ。

 まず金が無い。退院後に生きていくための資金がこれっぽっちも無い。これだけで格ゲーにおけるHPバーが真っ赤になって点滅を繰り返すくらいのデンジャラスな状態だ。

 次に宿が無い。退院後に行く当ても帰る当ても無い。計画性ゼロで飛び込んだのが悪いとは言え、基本的にこちらは宿無しだ。退院したら最悪公園で野宿生活を覚悟せねばならないくらいには生活は緊迫している。

 借りがあると言えば確かにその通り。

 が、同時にこちらも余裕は無い。例えるなら、貧しい農家に泊めてもらったさすらいの旅人が晩御飯に超高級なステーキやコース料理を注文しているようなものなのだ。無い袖は振れないどころか袖の先からすり減りすぎてタンクトップみたいになっちゃってるのが現状なのである。


「見てわかるだろ?俺今重症、入院中。しかも退院後は宿無し金無し、この身一つで生きてかにゃならんのよ。余裕が無いの、今日も明日も一週間後も生きるか死ぬかの瀬戸際なの」

「アルラさん少し優しさをもって接しましょう?この人固まってます」

「大体よぉ俺らがこうなってるのもお前が送ったチケットが元なわけじゃん?そりゃ飛びついた俺らも俺らだけどやたら高圧的だし恩着せがましいというか何というか―――...」

「アルラさん加減を覚えてください。この人泡吹きそうです!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ