表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪女と呼ばれた私、転生先でも悪役です  作者: 小乃マル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/44

悪役と決意

「悪役…ねえ?」

 通常であれば、断罪される運命にある悪役に転生してしまったことを、もう少し悲しむものなのかもしれない。

 けれども私は、悪役であるエリスに親近感を覚えている。

 純真無垢なヒロインに転生するよりも、よっぽど私らしいとすら思う。


 前世の私も、“悪女”と呼ばれていた。

 まあ、そう言われても仕方がない行いをしていた自覚はあるし、私の言動によって迷惑をかけてしまった人に対しては申し訳ないと思っている。

 しかし、()()()全ての非が私だけにあったのだろうか。


 私だけが悪にされた理由。

 当時は運が悪かったのだと思って諦めていたけれど、幕を閉じた一度目の人生を客観的に振り返ることのできる今だから、その理由がわかる。

 前世の私には人望がなかったのだ。

 周囲の人間に信じてもらえる要素が、手を差し伸べてあげたいと思われる要素が、全くと言っていいほどになかった。


「ふふ…」

 自分で出したその結論があまりにも惨め過ぎて、思わず乾いた笑いが溢れてしまう。


 けれども今は、悲しみに浸っている場合ではない。

 少しでも記憶が鮮明なうちに、今後の対策を練らなければならない。

 そう思った私は、頭の中にある『ガクレラ』に関する記憶の蓋をこじ開ける。


 ゲームのパッケージに描かれていたのは、茶髪の女の子と、それを取り囲む四人の攻略対象者。

 プレイヤーにより没入させるための演出なのか、ヒロインである女の子の目元は見えないようになっていた。

 

 物語の舞台は王立学園。

 基本的には貴族のみが通うことを許された学園において、特待生制度を利用して入学してきた平民のヒロインが、攻略対象者と仲を深めていくゲームだったはず。


 肝心の攻略対象者は四人。

 エリスの婚約者である王太子、エリスの義弟である次期公爵、隣国の王子、そしてヒロインの幼馴染。

 どのルートを選択しても、悪役として登場するのは私、エリス・スピアーズだった。


 死ぬ直前までプレイしていたゲームだとはいえ、この世界で十年間生きているのだから、つまりは十年以上前の記憶。細部については思い出せない。

 けれども、これだけ覚えているならば上出来だ。

 自分の記憶力の良さに満足しつつも、これから私が辿るであろう人生を頭の中で思い描く。


 まず、私は近い未来に、王太子の婚約者に選ばれるのだろう。

 すでに婚約者候補として、私の名が挙がっていることは知っている。

 王太子と同い年かつ公爵令嬢である私は、彼の婚約者として申し分ない相手であると聞かされている。


 私がもう少し希望に満ち溢れた性格ならば、きっと王太子の婚約者にならないように尽力したのだろう。

 そもそも王太子の婚約者にならなければ、婚約破棄を言い渡されることもなく、幸せな未来が待っているかもしれないのだから。


 しかし、そんなことを期待したって、余計にがっかりするだけだ。

 なにしろ私は悪役。前世においても、自分が起こした行動が上手くいった試しなどない。

 それならば最初から過度な期待はせず、与えられた範囲内での最善を尽くす方がいい。


 王太子の婚約者に選ばれることは受け入れるとして、私が断罪されるあの場面において、王太子の罪を訴えるためにはどうするべきなのか。

 ゲーム内において、エリスへの断罪が圧倒的に支持されたのはなぜなのか。


 それはおそらく、王太子の味方をしたいと、そうする方が得だと考える人間が多かったから。

 そしてエリスは、庇う価値のない人間だと思われたからだろう。


 ならば私はこの世界において、できる限り多くの人間、少なくとも王太子の決定を支持する人間に立ち向かえるだけの人間から、人望を得なければならない。

 人望を得る、は言い過ぎかもしれない。

 “素晴らしい人間だ”とまで思ってもらう必要はない。ただ、“話を聞く価値のある人間だ”と思ってもらわないと。

 (エリス)を陥れようとする人間を、私が堕ちゆく穴に引き摺り込むことができるように。


 けれどもふと、ある疑問が頭に浮かぶ。

「お父様やお母様も、私を助けてはくださらなかった…?」


 残念ながら、全ての親がいついかなる時にも子を信じ、助けてくれる存在だとは思っていない。

 しかし、十年間私を育ててくれたスピアーズ公爵夫妻は人格者であり、私に惜しみない愛情を注いでくれている。

 幼馴染同士である両親の仲も良好で、それこそ前世のドラマや小説の中に出てくるような、理想的な両親であると言えるだろう。


 私がヒロインを虐めたとして、そのことに対して当然叱責は受けるだろうが、娘が婚約者に軽んじられて黙っているような人達ではない。

 そんなスピアーズ家の発言を、王家は無視するというのだろうか。


 …いや、ありえない。

 我がスピアーズ家は公爵家。国内においては、王家に次いで権力を有する家なのだから。

 王家といえども、スピアーズ公爵家の発言を軽視することはできないはずだ。


 そこまで考えた私は、あることに気がついた。

「義弟…」

 義弟、とは。


 一瞬誰のことを指しているのだろうかと疑問に思ったが、それもすぐに合点がいった。

 現在スピアーズ家の子どもは、私しかいない。

 その私が王太子の婚約者になるのだから、公爵家の跡を継ぐ人物を迎え入れることになるのだ。

 

 新たに加わるであろうその存在が、私達親子の関係に何かしらの影響を与えるのかもしれない。

 両親にまで「助ける価値がない」と判断されるほどに関係が悪化するような、多大な影響を。


 自分が悪役であることに気がついてから、ここで初めて絶望的な気持ちになる。

 大好きな両親に、私は見捨てられてしまうのか。

 そう考えると、胸の奥が冷たく、そして重く沈み込むのを感じる。


 しかし、めそめそしている場合ではない。私は悪役なのだから。

 ヒロインなら、泣いているだけで誰かが助けてくれるのだろう。前世でも、守ってあげたくなるような女の子には、多くの救いの手が差し伸べられていた。

 けれども悪役は、自分で立ち上がるしかない。泣いていたって惨めな気持ちになるだけだ。

 そう思って、見えない誰かを威圧するように顎を上げると、少し気持ちが落ち着いた。


 おそらくエリス・スピアーズは、前世の私そっくりだ。

 いつの間にか自分だけが悪者になってしまっているところや、誰からも手を差し伸べてもらえないところが特に。


 けれども私は、同じ過ちを繰り返さない。

 一人で不幸になんかなってやらない。


 王立学園の入学まで、残された時間はあと五年。

「ゲーム開始が楽しみだわ」

 冷ややかなその言葉が、誰に届くこともなく部屋に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 頑張れエリス(ง •̀_•́)ง
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ